Boxのコンテンツを基に生成AIを活用できる「Box AI」の具体的な機能、セキュリティ、コンプライアンスのリスクを排除する仕組み、NRIでの活用事例について解説する。
Boxが「Box AI」β版の提供を2023年11月に開始した。Boxのコンテンツに対して生成AI(人工知能)の機能を活用することでワークスタイルを変革できるという。Box Japanの武田 新之助氏(プロダクトマーケティング部 シニアプロダクトマーケティングマネージャー)が、Box AIの機能とセキュリティ、コンプライアンスのリスクを排除する仕組み、野村総合研究所(以下、NRI)での活用事例などについて紹介した。
企業のデータは、構造化データと非構造化データに分けられる。構造化データは、顧客管理システムや在庫管理システムなど、特定のシステムのデータベースに格納されているデータを指す。テーブルやリスト、グラフ、または他の形式で表現される。
非構造化データは、テキストや画像、音声、動画、Officeファイルなどが該当する。企業の情報の90%が非構造化データだが、多様なフォーマットで作成され、構造が一定ではないために分析や解析が難しい。
クラウドサービスの「Box」は、生成AIによって非構造化データの活用をサポートするとしている。具体的には3つのAI機能を提供する。
「Box AI for Documents」はドキュメントの内容に対する質問や要約、翻訳、要点の抽出と記事の執筆、会議アジェンダの作成などを実現する。決算報告資料のPDFファイルに対して、「第1四半期のハイライトは?」といった質問をすると、Box AIがポイントをまとめる。
「Box AI for Notes」はリアルタイムの共同編集機能を持ったオンラインノートツール「Box Notes」で動作する。Box AI for Notesを使うことで、記事の下書きや議題のテンプレート、電子メールの文面などさまざまなコンテンツを数秒で作成できる。AIの出力した回答をプロンプトによってブラッシュアップすることも可能だ。
「Box AI in Hubs」は、Boxに保存されているコンテンツを安全かつシンプルに管理、整理、公開するHub(ポータルサイト)を作成する機能だ。Box AI for DocumentsとBox AI Notesが一つのドキュメントまたはノートに対して生成AIを適用するのに対して、Box AI in Hubsは、複数のドキュメントに対して生成AIを適用する。
Box AI in Hubsによって、数クリックでHubを構築できる。Hubに掲載するコンテンツは「音楽のサブスクリプションサービスのプレイリストを操作する時のように」選択でき、ファイルの移動やコピーは不要だ。
Hub内の情報検索にも生成AIを活用できる。人事部門のHubで「新入社員がよく見るドキュメントは?」と質問すれば、AIが「ハンドブックや福利厚生の資料、休暇に関する資料」と出力する。「休暇に関する資料を知りたい」と入力すると、該当するファイルを一覧表示し、加えて「休業日は変更することもあるので、ハンドブックで正しい情報を確認してください」といったアドバイスを提示する。「社内ポータルサイトは情報検索しにくく、目的の情報が見つからない」といった悩みを解消すると武田氏は話す。
Box AI for Documents、Box AI for Notesは現在β版を提供中で、Box AI in Hubsも今春にはβ版が提供される予定だ。Box AIはEnterprise Plusプラン以上を契約する全ての企業が追加料金なしで利用できる。Enterprise Plusは、ユーザー当たり月20クエリに加えて、企業ごとに月2000クエリを使用でき全社でのトライアルに役立つ。なお、追加のクエリライセンスの提供も予定している。
NRIは早期にBox AIを活用している企業だ。Boxに保有されているドキュメントをナレッジ共有サイトに集約し、ナレッジの検索や提案書、設計書、技術情報などのサマリーの生成、報告書の生成などにBox AIを活用している。
NRIがBox AIを採用した理由の一つは、データの安全性を確保する機能だ。Boxはドキュメントごとにアクセス権限を設定できるが、Box AIでも同様のアクセス権限の設定が適用される。機密性の高い社外秘データについては、該当するドキュメントにアクセス権を有するユーザーのみがBox AIを利用できる。
2つ目は、Boxに保存されたドキュメントを直接利用できる点だ。他のシステムやストレージを使って余計なファイルを増やすようなことがない。3つ目は、Box AIが生成したコンテンツ(AIによる回答など)も、Boxのアクセス権限とセキュリティポリシーに基づいて保存される点だ。NRIは今後、Box AI in Hubsも利用して、コンテンツを横断的に有効活用する予定だ。
社内のコンテンツに対して生成AIを活用するには、セキュリティやコンプライアンスの要件を満たす必要がある。その点について、武田氏はBox AIの特徴を次のように説明した。
「Box AIは、エンタープライズグレードのセキュリティ基準に準拠し、独立したAIモデルを採用している。顧客のデータはAIモデルのトレーニングに利用されない。きめ細かいアクセス制御機能によって、Box AIでのコンテンツを適切に保護できる仕組みを提供している」
ユーザーがBox AIに質問をして、回答を得るまでのフローは次のようになる。まずユーザーがBoxのコンテンツに関してプロンプト(質問)を投げかけると、Box AIはコンテンツに対するアクセス権限とセキュリティポリシーを確認する。次に、質問と最も関連性のあるデータを、ベクトル埋め込みを用いて抽出する。これによりハルシネーション(誤った情報の生成)のリスクを低減するという。
その後、ユーザーのプロンプトに基づいて必要な指示や情報を加える。Box AIプラットフォームはこうしたプロセスを経ることで、より適切な回答を生成するように設計されていると武田氏は説明する。
「ユーザーは、Box AIの原則に従ってAIを制御できます。当社は、AIの動作とアウトプットに関する透明性を確保しています」と武田氏は強調した。
Box AIは特定のAIに依存せず、OpenAIやGoogle Cloudとのパートナーシップを発表している他、他のAIベンダーとの協議も進めている。企業が独自に開発したAIモデルをBox AIで利用できる「BYOM(Bring Your Own Model)」サービスの提供も予定している。企業や業界固有のコンテンツやユースケースに合わせたAIモデルを使用することで、生成AIの精度をさらに向上できるとしている。
本稿は、株式会社 Box Japanが主催したイベント「非構造化データの一元化×AIがもたらす未来の仕事環境」内での講演をもとに再編集した。
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