ナレッジ管理はメンバーの「知識」や「経験」を共有し、チーム全体の生産性向上を図るために非常に有効な手法だが、蓄積した情報は時間と共に必ず陳腐化する。Notionで情報をアップデートし、ナレッジを最適化するポイントを解説する。
ノートやドキュメント、Wiki、プロジェクト管理、データベースなど多彩な機能を持つコラボレーションツール「Notion」。同ツールは、ここ数年で全世界数千万人が利用する情報共有ツールに成長した。日本市場での人気も高く、ベネッセやサントリー、NTTデータ、Sansanなど大手企業を中心に導入社数を伸ばしている。
こうしたユーザー企業からは、「『Microsoft Excel』や『Microsoft Power Point』での報告書が激減して生産性が上がった」「情報をNotionに集約したことで情報が透明化され、共有も楽になった」との声が聞かれる。
さらに、Notionで適切に情報を管理することで、「暗黙知を言語化できていない」「ナレッジが更新されず陳腐化してしまう」といったナレッジ管理の問題を防ぐことができるという。Notionの日本代理店、ノースサンドの近藤 かおり氏が、ナレッジ迷子を防ぐためのNotion活用のポイントを紹介した。
ナレッジを管理するためには、情報をストックする作業が必要不可欠だ。近藤氏は「ストックする」という行為について「フロー情報」と「ストック情報」という用語を使って次のように説明する。
業務で発生する情報は「フロー情報」と「ストック情報」に分類できる。フロー情報は会話やチャットのように流れていくものだ。ユーザーは過去にさかのぼって時系列でそれを確認する。なおフロー情報は、組織の「暗黙の了解」が分かっていないと読み解けないこともある。
一方でストック情報は、フロー情報をテキストにまとめたものだ。後から情報が確認しやすく、フロー情報に比べて整理に手間と時間がかかるものの、ナレッジとして蓄積しやすい。
フロー情報のような日々の会話は業務を回し、会社を「存続」させるのに不可欠だ。対してストック情報は会社の「成長」に不可欠な情報だと近藤氏は話す。会社が大きくなるためには人材を採用し、情報を共有する必要がある。ストック情報は事業拡大のためのアイデアの源泉にもなる。
「知識は身につけた瞬間から古び始める」。これは野中 郁次郎氏の著書、『ワイズカンパニー―知識創造から知識実践への新しいモデル』に出てくる言葉だ。
積み重ねた「知識=ナレッジ」が古くなり、使われなくなる経験をしたことがある方も多いのではないだろうか。積み重ねた知識を最新化し続けることを、ここでは「ナレッジ管理のサイクルを回す」と表現する。それを分解するために、近藤氏は野中 郁次郎氏が提唱しているSECI(セキ)モデルを引き合いに説明した。
SECIモデルは知識を「暗黙知」と「形式知」に分類している。暗黙知は個人の頭の中にある知識や、同僚と暗黙の了解になっている知識、形式知はテキストなどにアウトプットされた知識だ。
ナレッジ管理のサイクルには情報のフェーズによって「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」の4つのステップがある。近藤氏は次のように解説を続けた。
まず共同化は、暗黙知だけの状態である。個人が持っている暗黙知は、個人と個人が行動を共にすることによって暗黙知のまま他者に共有される。例えば、営業の先輩と後輩が一緒に商談に参加すると、後輩は先輩の姿を見て知識を得る。
表出化は、共同化で積み重ねられた暗黙知をアウトプットした形式知の状態を指す。この段階での形式知は情報の粒度が粗いことが多く、ある程度の背景知識がないと読み解きにくい。ナレッジになるものもあるが多くはフロー情報で止まっている。
連結化は、ナレッジ化の段階だ。表出化で形になった形式知、あるいは外からの情報を組み合わせて形式知にした状態が連結化の段階である。この段階でのアウトプットは、共通の暗黙知がない場合でも体系的に理解できるストック情報であることが望ましい。
最後に内面化は、連結化でナレッジ化されたものを個人が内面に取り込んで実践する段階である。実践することで新たな暗黙知が生まれる。この暗黙知を他者と共有することで共同化にサイクルが戻る。これが「ナレッジ管理のサイクル」の概要だ。
「ナレッジ管理の4つのステップがうまく回れば自然とナレッジがたまっていきます。それでも多くの会社でナレッジ管理の形骸化は起こります。なぜナレッジ管理は形骸化してしまうのでしょうか。それは、サイクルのステップが進む間にさまざまな問題が発生するからです。どのような問題があるか一つずつ確認しましょう」(近藤氏)
例えば共同化から表出化へのステップでの問題は暗黙知が形式知化しないことだ。そもそも、「暗黙知を明文化する文化がない」「忙しくてできない」「会議の議事が残らない」「個人で情報を抱え込んでしまう」「アイデアなどを共有できていない」などの問題が挙げられる。
次に表出化から連結化のステップでは、個人の負荷の問題がある。フローからストックに情報を体系的にまとめることは手間がかかる。表出化できていてもファイルが放置されてフォルダに散在している。このような状態が多くの会社で起きている。
連結化から内面化のステップでの問題は、ナレッジが更新されずに陳腐化してしまうことだ。当然だが、情報が古くなるとそのナレッジは内面化されず使えなくなる。
最後は内面化から共同化のステップだ。ここでは情報格差の問題がある。暗黙知のレベルに大きな差があると、内面化されたナレッジはうまく伝達されない。ナレッジ管理が回るようになると、格差は徐々に埋まる。
近藤氏は、ナレッジ管理が形骸化する原因はサイクルが回っていないことにあるとまとめた。ナレッジ管理のサイクルを回すためには、無理なくナレッジを最適化する仕組みを再構築する必要がある
「Notionはナレッジ管理のサイクルを回すことに向いています。なぜならNotionにはさまざまな業務ツールが集約されているからです」と近藤氏は語り、具体的な方法を紹介した。
会議中に議事録を作成したり、会議後のまとめやToDo作成をAI(人工知能)機能で省力化したりなど、Notionの機能を使うことで「共同化」と「表出化」を同時に実行できる。
Notionは複数のツールにまたがる作業を集約できる。Notionのタスク管理を使うと、登録された情報がそのまま表出化される。Notionのページはデータベース化されているので、プロジェクト管理ではタスクの中に成果物を保管できる。
マニュアルの古くなった箇所などを見つけたときはNotionのコメント欄に記入し、それを見た管理者が適宜更新できるようにする。アイデアなどもコメント機能で共有することで、マニュアルのアップデートを図れる。
Microsoft PowerPointやMicrosoft Excelで作成するナレッジ化の作業負荷は高いが、Notionであれば簡単にページを作成でき、負荷はかなり軽減できる上、すぐに共有もできる。つまり表出化から連結化、表示化までの作業がワンストップでできる。
ナレッジ管理を形骸化させないために一番大切なことは、いかにナレッジを更新して鮮度を保つかだ。Notionのアナリティクスでは閲覧者の訪問日や更新日が一覧で把握できる。
情報の鮮度を保つには、メンバーのモチベーションが肝になる。Notionの画面上部には、「誰が」「いつ」そのページにアクセスしたかが表示される。お互いに情報の閲覧履歴が分かることで安心感が生まれ、情報の閲覧や更新に対するマインドが変わる。
本記事は、ノースサンドが2024年2月5日に開催したオンラインセミナーの内容を編集部で再構成した。
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