チャットツールは王道ツールではあるものの、導入や運用でさまざまな悲喜こもごもがあるものです。今回はチャットツールの選定についてお話していきます。
「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。
今や業務に欠かせない存在となったチャットツール。王道ツールではあるものの、選定や導入、予算確保を巡っての悲喜こもごもがあるものです。
複数クライアントとのやりとりでクライアントごとに異なるチャットツールを導入した方や、無料ツールを無理して使いトラブルが起きた方がいるのではないでしょうか。
今回はチャットツールの選定についてお話していきます。
まずは、個人的に驚いたチャットツールを巡るお話を紹介します。
何社かお会いしたことがあります。
事業会社なので「自社プロダクトを使い倒し、不満点は自分たちで解決する」のは正しい姿勢です。ただ、それが事業運営の基盤となるチャットツールとなるとストレスが多くなります。
何かの機会で「Slack」を使うと、「スレッド表示のスタイル」「既に押されているスタンプを押すと+1」「自分が押したスタンプをもう一度押すと解除」「スタンプの追加」「パドルミーティング」「外部連携」などに慣れるため、地味に自社サービスの仕様や実装状況が気になるものです。使わないわけにもいかないので、がんばっていただきたいとは思います。
開発チームが「Skype」の一つのチャンネルに収まっている企業も見たことがあります。音信がネットワーク品質に左右される他、検索性が良くないなどの理由で懸念がありました。開発が佳境だったり、障害対応などでメッセージが多めに流れたりすると、重要なメッセージが埋もれて頻繁にトラブルになっていました。
無料枠でも、もう少しやりようがあると思いますが、なまじ使い慣れたツールを技術選定の第一優先順位にするとこのようなてん末になります。
Slackは現状、過去90日間のメッセージやファイルストレージを参照できますが、以前はメッセージ数1万件、ストレージ容量5GBという制限がありました。その結果、情報統制の観点からは信じられないようなことが起きていました。
同じ企業にもかかわらず、事業部ごとに別企業化したようなコミュニケーションフローが発生していました。ワークスペースやツールが異なるとナレッジ共有できませんし、情報統制の観点で利点はありません。予算を確保し、統合に向けて速やかに動きましょう。
続いてチャットツールを選定する際のポイントについてお話をします。企業によって重要視すべき項目は異なりますのでご注意ください。
先の3番目の事例にもありますが、短すぎる保存期限や添付ファイル保存の上限などは行動の制限につながります。
メッセージ保存期限は無期限でも、添付ファイル保存に上限があるサービスもあります。追加でストレージを買ったり、「ファイル添付を禁止し、ファイル共有のリンクを張るようにする」といった運用で解決したりすることになります。
また、退職者のファイルがどう扱われるかにも注意が必要です。私が遭遇したケースでは、「退職してから半年後に、あるファイルが必要になったがファイルサーバに存在しない。ノートPCは初期化済みでバックアップもなし。頼れるのは共有されたチャットのファイルだけだったが、アカウント削除と共にアクセスできなくなった」というようなことがありました。特に人材が流動的な企業は注意が必要です。
取引先とやりとりする場合、接続手段を考える必要があります。「Slack コネクト」のようにワークスペース単位で相互接続したり、アクセスするチャンネルの範囲を絞ったゲストアカウントを発行したりする対応が想定されます。
企業が貸与したスマートフォンや、BYODなどで利用するスマートフォンアプリのサポートについても、対応状況をチェックする必要があります。
特に利用者のITリテラシーが高くない場合は、PCからのアクセスとスマートフォンアプリからのアクセスで使い勝手が違いすぎると問い合わせの回数が増え、サポートコストが高まります。また、よく使われる機能が「PCでは使えるが、スマートフォンアプリでは未対応」の場合はクレームにつながるので事前調査が必要です。
事前に監査法人と打ち合わせますが、基準が厳しい組織であれば下記のような項目をクリアする必要があります。
中には「上記ポリシーを正社員ではなく業務委託に当てはめたい」と言われることがあります。事後に要請されると技術的に不可能なこともあるため、早めに解決しましょう。
チャットツールの仕様を使い慣れているアプリケーションに寄せたり、難しい横文字を回避したりする必要があります。「LINE」風の使い勝手であれば乗り越えられることも多いでしょう。
リテラシーの高くない従業員の「元に戻ろうとする力」は非常に強いものです。いかにして新しいチャットツールにスムーズに移行させるかを意識しましょう。
ここまで自社でチャットツールを利用する際の選定について解説してきましたが、情シスは「顧客から要請されたチャットツールを許可する準備」をしておく必要があります。私自身、業務利用しているチャットツールはSlackを中心に「ChatWork」「Microsoft Teams」「discord」「Facebook Messenger」「X」のDM、LINEと乱立している状態です。
立場の強いお客さんであれば従うしかありませんが、どのようなことを注意すべきかは意識しておく必要があります。これらのアカウントは情シスの管轄外になることが多い一方で、担当者が退職した場合の後処理などで事業部に泣きつかれることがあります。
チャットツールについては複数の移行を経験しましたが、その中でも印象的だったものを紹介します。
私の所属していた情シスチームが立ち向かったのは、「IPMsg」からの移行でした。IPMsgはLANでメッセージをやりとりするアプリケーションです。外出先では使えませんし、相手がオフラインだと通知されません。内線が多用される職場には親和性が高かったと思います。
そんな中、コミュニケーション効率化のニーズや、他社から要望が増えてきたため、チャットツールを導入することになりました。Slackなどの人気が出始めていたので検討したのですが、当時は英語版のみだったため、「従業員が横文字に弱い」という理由でChatWorkを選定しました。
導入するに当たり、アフターフォローを想定してスクリーンショットを多用しながらマニュアルを作成してサービスインを目指しました。
また、全体会議などで全従業員に説明する時間をもらい、簡易なレクチャーを実施しました。この取り組みについては、「各従業員が自分ごとにできるかどうか」という観点から、部署やチーム単位で個別に時間を取り、ハンズオンも含めて実施した方がよかったのではという反省があります。
同時に実施したのが資産管理システムによるIPMsgの起動禁止でした。幸いにもIPMsgの過去ログはローカルファイルでテキスト形式で残るため、参照は可能です。それまでのIPMsgのコミュニケーションをChatWorkに寄せることで、無事に移行できました。
エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。
2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。
Twitter : @makaibito
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