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すかいらーくが10年来のレガシーシステムを4カ月で刷新できた理由

大手ファミリーレストランのブランドを運営するすかいらーくホールディングスは、フルスクラッチで10年以上前に構築した検査管理システムを使っていた。システム改修にかかるコストや、Excelなどを使った周辺業務の複雑化に悩んでいたが、このレガシーシステムを4カ月という短期間でノーコード開発ツールによって刷新した。

» 2024年04月25日 08時00分 公開
[平 行男キーマンズネット]

 すかいらーくホールディングス(以下、すかいらーく)は、1962年に創業した日本におけるファミリーレストランの先駆けだ。ガストやバーミヤン、ジョナサン、夢庵をはじめとする20以上のブランドをグループで展開している。2023年3月末時点の店舗数は国内外に約3000店舗で、年間約3億人の利用者数を誇る。そこで使う食材は、調達から提供まで一貫して自社管理している。

 食品衛生は、品質管理グループが各地のセントラルキッチンを網羅する8拠点の検査室で、ISO22000及びHACCPに基づいて管理している。細菌検査や残留農薬検査、店舗やセントラルキッチンの衛生監査、メニューのアレルゲンや栄養成分の開示、啓蒙活動、ルール作成など幅広い任務がある。

 業務量も膨大で、20以上の各業態で、およそ100のメニュー、各170の検査基準があり、検査数は年間10万件と外食業界トップクラスだ。同社は、この安全、安心を支える食品検査システムをノーコード開発ツールで刷新したという。大規模なシステムをノーコードで刷新することにどのような議論があったのか。また、開発期間を4カ月という短期でやり遂げられた理由は何か。すかいらーくホールディングスの宮内博史氏(品質管理グループ理化学分析室)が語った。

10年来のレガシーシステムとExcelの複雑な周辺業務を4カ月で刷新できた理由

 検査業務では、フルスクラッチで10年以上前に構築した検査管理システムを使っていたが、「改修の壁」と「運用の壁」が生じていた。組織変更や検査手順変更時にはシステムの改修が必要となるが、膨大なコストがかかるため容易ではない。この課題に対処するために電子メールや「Microsoft Excel」(以下、Excel)などでのスキマを埋める作業が増え、運用負荷が高かった。

 品質管理グループはシステム刷新を検討する中で、情報システム部からノーコード開発ツールを薦められた。

 新システムの要件はさまざまだった。まずは、10万件の検査数や旧システムで実現している複雑な業務要件への対応が必須だ。担当者が自ら業務システムを構築できること、さらに環境変化への対応が柔軟なクラウドサービスであることも重要だった。製品を比較検討した結果、各要件を高いレベルで満たしていた「SmartDB」を採用した。

 正式導入に先駆けて2023年6月にプロトタイプを作成し、2023年9月に正式導入が決まった。以降、プロトタイプをベースに、多くのメンバーを巻き込んで開発作業を進めた。

 全体の開発は正式導入から約4カ月で完成した。一部拠点での試験導入を経て2024年1月に全検査室での稼働がスタートした。「SmartDBはプログラミングのスキルを必要とせず、Excelの関数処理の延長で開発を進められた」と宮内氏は振り返る。

SmartDB利用開始までの流れ(出典:すかいらーくホールディングスの投影資料)

 短期間での開発の背景には、プロジェクトメンバーの意識合わせがあった。開発に先駆けて合宿形式でキックオフミーティングを実施し、開発の方向性を共有して、SmartDBの知識を学習した。

 「社内承認には苦労しました。複雑な検査システムの構築をSmartDBでもできることを理解してもらうために、具体的な業務イメージが湧くレベルまでプロトタイプを作り込みました。通常業務と並行していたため時間的制約もありましたが、業務で使えると実感してもらえたことで承認を得られました」(宮内氏)

 現在は、検査する側と依頼する側に向けた説明会の開催やマニュアルの作成更新など、丁寧なフォローを心掛けているという。

ノーコードで開発した検査依頼から結果報告までの一連の流れ

 ノーコードで開発した食品検査システムの流れは次の通りだ。まず依頼部門が検体情報などを入力して検査依頼をする。検査依頼がされると、品質管理グループが検査室の空き状況を確認して、検査室を振り分ける。この情報は細菌検査アプリに連携される。検査担当者は検査を実施して結果を入力する。システムが自動的に検査基準を参照し、検査結果を基に合否判定する。最後に依頼部門が結果を確認する。

実現した業務の流れ(出典:すかいらーくホールディングスの投影資料)

 システムにはさまざまな工夫を凝らしている。宮内氏は2つの例を挙げた。まず検査依頼の際に入力者が迷わないよう動的に項目を変更するようにしたことだ。検査依頼は入力項目が多いので、検査種別により入力項目が自動的に変わることで入力を支援する。

申請者を迷わせない項目の設定(出典:すかいらーくホールディングスの投影資料)

 2つ目はマスター持ち方を工夫した。検査時に使用するマスターには品目コードと検査コードの2つがある。品目コードには5万8000件の品目情報が登録されている。検査コードには合否の判定基準などが登録されている。これらのマスターデータを参照し、検査関連情報とひも付くようにした。

検体の詳細情報はマスターデータを参照(出典:すかいらーくホールディングスの投影資料)

 依頼時に依頼部門が検体情報の詳細を記載するが、検査担当者が確認するときには自動でサマリーが転記されるようになっている。これは検査担当者の振り分けや検体ごとの検査回数などの入力に使用される。さらに、細菌検査アプリではその日にやるべき検査が一覧で確認できるようにした。

依頼部門で記載した情報が自動でサマリーに転記される(出典:すかいらーくホールディングスの投影資料)

 さまざまなアラートも設定できる。入力期限が過ぎているものは色を変え、アラート通知して入力の抜け漏れを防いでいる。報告のタイミングでは、細菌検査アプリで合否判定された成績書を閲覧できるようにした。

現場業務の分かる担当者がアプリ開発を進めることが近道

 品質管理グループが導入後の効果について現場メンバーにインタビューしたところ、以下のような声が寄せられた。

  • 「同一システム上で依頼の受理、検査結果の登録、成績書の発行、通知までの一連の業務ができるようになり、業務負担が大幅に減った印象を受けています。ざっくり1依頼あたり10分程度時間が短くなったと感じます。年間にすると大きな効果を生んでいます」
  • 「システムを導入する過程において、不安な点や不明な点などを共有し、その課題をみんなで解決していこうという雰囲気が生まれたことでスムーズに開発を進められました」
  • 「新しいものに挑戦するのは飛び込みにくいこともありましたが、ノーコード開発なら機械の苦手な私でもできましたので、気軽に挑戦されると良いと思います」
  • 「新しいことをするときには、少なからずネガティブな意見も発生します。その多くは不安からくるものなので、それをケアしながら業務改善に向けて取り組んでいくことが良いと思います」

 品質管理グループでは今後の展開として、ユーザーへのトレーニングや機能改修を検討しているという。直近で法改正がある化学物質リスクアセスメントについての対応も予定している。台湾すかいらーくの食品衛生管理にも同システムを適用する考えだ。SmartDBにはユーザーごとに表示言語を切り替えられる多言語対応機能があるため、台湾でも適用できるのだという。

 「SmartDBを使えば、誰でもノーコードで業務アプリを開発できます。システム部門などに依頼するのではなく、現場の業務に詳しい人が開発を担うことが、業務改善の一番の近道です」(宮内氏)

本記事は、ドリーム・アーツが2024年4月4日に開催したオンラインイベント『リテール変革DAY』の内容を編集部で再構成した。

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