AIは企業の製造およびサプライチェーンプラットフォームにおいて不可欠な要素となっている。MicrosoftとSAPは製造業向けのAI機能を発表した。
AIは企業の製造およびサプライチェーンプラットフォームにおいて不可欠な要素となっている。MicrosoftとSAPはドイツのハノーバーで開催された産業見本市「Hannover Messe 2024」で重要な新機能を発表した。
Microsoftは製造業向けのAI「Microsoft Fabric」(以下、Fabric)と、工場運営のための「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)テンプレートを初公開し、SAPは製造業向けのAI機能を紹介した。その詳細を届ける。
これらの製品は「Microsoft Cloud for Manufacturing」の一部だ。また、Microsoftは、「Dynamics 365 Supply Chain Management」にAI機能を追加し、「Dynamics 365 Field Service」における新しいAI機能を一般提供した。
FabricのAI機能は、工場管理者にデータ分析を提供し、運営の改善支援を目的としている。Copilotテンプレートは、従業員の生産性向上を支援するために設計されている。
SAPは、「SAP Digital Manufacturing、SAP Asset Performance Management」「SAP Field Service Management」などの製造業向けアプリケーションに追加されるAI機能を紹介した。新しいAI機能は、製造業者のオペレーションとサプライチェーンの改善に役立つと期待されている。
Microsoftによると、2023年11月に提供を開始したAIを活用した分析およびデータ管理プラットフォームのFabricと、工場運営に生成AIを活用するcopilotテンプレートは現在プライベートプレビュー中であり、2024年後半に一般向けに提供される予定だ。
Microsoftのキャスリーン・ミットフォード氏(グローバルインダストリーマーケティングを担当するコーポレート・バイスプレジデント)は、「どちらのAI機能も、組織による製造システムのデータの管理、分析、活用の支援を目的としている」と述べた。Fabricは、システムレベルで運用技術(OT)とITデータを統合し、製造業者によるデジタル化の取り組みを推進し、運営の改善を可能にする。
「例えば、ある製品に品質の問題が発生した場合、製品エンジニアは生産ラインでどのような問題が発生しているかを確認し、次の製造時に対処できるようにしたいと考えるだろう」(ミットフォード氏)
また、ミットフォード氏は「これによって新しいバージョンの製品を作るときでも、過去に何が起こったかを理解できる。以前は、そのようなデータの入手が極めて困難だった」とも述べた。
ミットフォード氏によると、工場運営のためのCopilotテンプレートは、企業による生成AIアシスタントの開発を支援する。前線の工場オペレーターはメンテナンスなどの問題について自然言語を使用して質問し、ナレッジや文書、トレーニング、問題解決、資産管理システムなどのリソースから回答を得られるようになる。
「このテンプレートは、当社の顧客とパートナーの両方にとって、生成AIを工場の現場に適用するための原動力となる」(ミットフォード氏)
同社によると、Dynamics 365 Supply Chain Managementの新しいAI機能は、サプライチェーン全体を通じて顧客製品の系統を追跡し、混乱を防止または緩和するように設計されている。顧客はインタフェースを使用してサプライチェーンデータを照会および分析する。このAI機能のプライベートプレビューが近日中に開始される予定だ。
Dynamics 365 Field ServiceのCopilotで一般利用可能になった新機能は、サービスマネジャーや技術者が情報を見つけて問題を解決し、顧客に最新情報を提供し、作業の要約を作成することを目的としている。
SAPは、製造クラウドアプリケーション向けのAI機能を発表した。これは、顧客が自社のリアルタイムデータを利用して製品開発と製造効率を向上させるため、より良い意思決定をできるようにすることが目的だ。
新しいAI機能はSAPアプリケーションに組み込まれており、以下の機能を有する。
・SAP Digital Manufacturing: AIを活用して、顧客は大量のマシンデータを統合することで、検査の可視化など生産プロセスの自動化と近代化を図れる
・SAP Asset Performance Management: AIがIoTデバイスとセンサーデータを接続して管理してリモート監視することで、メンテナンス戦略を改善し、異常を検出したり予測したりして特定の状況に対応する
・SAP Field Service Management: AIが過去のデータとリアルタイムのデータを使用して予測ルーティングを生成し、技術者のために最も効率的なルートを計画する
アドバイザリーファームであるConstellation Researchのレイ・ワン氏(創設者兼アナリスト)は、製造システムにおけるAI機能の台頭には2つの理由があると指摘する。
一つは、製造業のデジタル化が進み、AIを微調整するために多くのデータが利用できるようになったこと。もう一つは、ビジネスの優位性を得るためにAIを活用したいという要求が高まっていることだ。
「製造業者はデータや自動化、AIがどのように組み合わされるかを理解している。そして、マージンの圧縮や業務効率化、AIを活用した裁定取引といったニーズを解決するために、すぐに使えるソリューションを求めている」(ワン氏)
調査企業であるForrester Researchのポール・ミラー氏(アナリスト)によると、製造業が、試験的または概念実証的に、単一サイトのプロジェクトを超えてデジタルの取り組みを拡大し始めると、OTおよびITシステム間のデータ統合という課題に直面するという。
ミラー氏は「このニーズに応えるため、産業用ソフトウェアベンダーは、複数のアプリケーションにまたがるデータの管理を支援するクラウドベースのツールを提供し始めている」と述べた。
「Fabricに関する最新の発表は、この分野における既存の機能を強化し、さまざまな産業用ソフトウェアアプリケーションから収集されたデータを扱うために必要な労力をさらに削減する」(ミラー氏)
Microsoftの工場運営向けCopilotテンプレートなどの生成AIツールは、企業全体からのデータを照会したり操作したりする強力な機能を提供するが、「注意して使用する必要がある」とミラー氏は述べる。
生成AIツールに「工場の機械の状態や出荷品が倉庫に到着する時刻について質問する」ことと、「マーケティングメールの下書きを依頼する」ことは大きく異なるためだという。回答は事実とデータに基づき、再現可能でなければならないためだ。
「正確で信頼できるデータの収集、管理、使用を改善するFabricの進歩は、一見すると生成AIのニュースほど興味深いものではない。しかし、生成AIを搭載しているかどうかに関係なく、良質で適切に管理されたデータは全てアプリケーションとワークフローを改善するため、その有用性ははるかに広範囲にわたる」(ミラー氏)
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