1942年にゼロ戦の部品のメーカーとして創業し、戦後に小型ホッチキスを世に出した機械メーカーのマックス。コラボツールの乱立を防ぐために導入したサービスとは。
マックスは、ホッチキスや事務機械などの「オフィス機器」、釘打機、鉄筋結束機などの「インダストリアル機器」、車いすなどの「HCR機器」と、3つのセグメントで事業を展開する。国外売上が半分を占めるグローバル企業だ。
同社は、オンプレミスシステムの運用工数の削減やテレワーク対応のためクラウドシフトを決めたが、各部門が独自でクラウドサービスを契約したために、システムのサイロ化に悩んでいた。そこで同社は“あるツール”を情報共有の要として採用することにした。その経緯や背景についてマックスの白井啓一氏(デジタルイノベーション統括部 部長)が語った。
同社はデータ、業務基盤DXのテーマ目標として、「2024年度末までに定型業務にかける時間を2万4000時間削減して余裕工数を捻出し、分析、企画などの価値業務へシフトする」という明確な目標を掲げてDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。
「今期から新たにスタートした中期経営計画は、『未来を創る』をスローガンに、『事業戦略』『経営基盤強化戦略』『成長投資戦略』の掛け合わせで、収益力および企業価値を向上させる考えです。その構造は、デジタルの上に成立すると言ってもいいくらいです」
同社は従来、基幹系システムから情報系システム、グループウェア、Webサイトやメールまで内製でサーバを立ててオンプレミスで運用をしていた。
情報システム部門は、システムの運用に膨大な時間を割いていたという。
「マックスの仕事ではなく、IT技術者の仕事をしていたということです。そこで、650台以上あったサーバをクラウドへ移行し、情報システム部門の仕事を見直すことにしました」
働き方改革とコロナ禍もクラウド移行の追い風になった。従業員は在宅勤務を余儀なくされ、オンプレミスのシステムでは全く融通が利かないことが浮き彫りになったという。早急にテレワーク環境を整えるため、各部門独自で必要に応じてクラウドサービスを契約した。
その結果、情報システム全般がサイロ化され、今度はセキュリティの懸念や情報の分断が課題になった。これを解決するためにMicrosoft 365とBoxを同時に導入した。
「Microsoft 365で個人が成果物を管理するようになると、セキュリティリスクが生じるだけでなく、Microsoft 365のチームの共同作業というメリットを生かせず、効率が低くなるかもしれないと考えました。部門をまたいだプロジェクト文書は、責任の所在が不明確になる可能性があります。Microsoft 365だけを導入した場合、従業員がドキュメントの取り扱いを含めてルールを順守するのは難しいと考え、ドキュメントの管理はBoxに一本化することにしました」(白井氏)
Boxを採用したもう一つの理由はセキュリティだ。マックスは、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を取得して20年ほどたち、従業員は機密情報保持に関する一定の理解が備わっている。
「ドキュメントをクラウドに預けるという利便性と危険性が相反する状況に対して、システム側がユーザーの気持ちに寄り添って機能を実装しているかが判断の軸になりました」
機密性の高い情報を預けるには高いセキュリティが求められる。「Box Shield」による機密度に応じたラベル付けと、それに連動して動くアクセス権の規制、無制限のバージョン管理や柔軟性の高い保持スケジュールの設定、証拠開示のためのデータ保全、破棄の管理などを実現する「Boxガバナンス」、文書操作に対する監視力と現場への統制力を持つ「レポート」機能などが採用の決め手となった。
生産性向上の観点では、PPAP対策や共同編集、プロジェクトワークスペースという考え方を評価した。
「資料ありきでプロジェクトが進む現状を考慮すると、その土俵としてBoxを選ぶのが一石二鳥かつシンプルと考えました。今後の『Box AI』の進化への期待もありました」
「情報システム部門の目指すべき姿も見直すことになりました。BoxとMicrosoft 365に全てを集約することで、情報システム部門の役割も変わります。当社はメーカーですから、情報システムのインフラ構築や保守に関わる工数は、もっと価値ある分野にシフトさせるべきです。これからの情報システム部門は、事業部門に積極的に関わって意見できるDX推進リーダーとしての力を付けたいと考えています」
「サブスクの料金体系は、固定資産化できないので経費扱いになります。BoxとMicrosoft 365にかかる費用は高いと捉えられるため、社内理解を得るのに苦慮しました。そこで、将来に向けた価値をプライスレスで積み上げて表現することがポイントだと考えました。
社内にファンをつくり、働く人が『いいね』と言ってくれる関係性を大事にするための要素をPoC(概念実証)のプロセスの中にも組み込みました。『必然性』と『有効性』の二面で社内から求められていることで、経営層にも納得してもらえたと思っています」
費用対効果は、業務工数のビフォーアフターとPoCのアンケートから削減時間をまとめ、削減するオンプレミスサーバのリース料金およびサーバの構築、運用、保守にかかる情報システム部門の人件費、各種ツールのうちで解約できる金額を割り出して、5年で削減できるコストをシミュレーションした。
「5年先10年先を見据えたIT投資が重要と強調しました。私はITのトレンドについて他社事例を中心に見ています。特に注視しているのは、規模が同じくらいの異業種企業です。当社の価値観にマッチする施策を常に意識しています。その視点で必要となるシステム投資を捻出していくことがポイントです」
「製造業のDXの施策として、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンの改革を目指す企業は多いと思います。企業間、部門間の情報共有がうまくいかない、リードタイムがかかる、情報漏えいリスクが伴う、といった課題がある場合はBoxがおすすめです」
製造業においてBoxが有用な点については以下だという。
まず、リスク低減と業務効率化に効果があることだ。開発部門や工場のある製造企業には多くの人が関わる。機能施策や量産移行など、さまざまなタイミングで品質や環境問題、製造コスト、ライン設計、適正在庫量などの検討がされる。Boxで頻繁に情報が共有された結果、報告文書などが編集されて最終的な成果物がアクセス権を付与して残される。
製造工程では、施策や部品の外注加工、見積もりや環境情報の取得など、外部の企業が多く関わってくる。資料を外部に出すのではなくBoxを閲覧するという考え方は、情報漏えいリスクの低減と共同編集によるリードタイム短縮などにつながる。
製造業にとって重要なBCP対策(事業継続計画)にもつながる。有事の際に生産を継続することはメーカーとしての生命線だ。震災や台風などでは部品サプライヤーとの密な情報共有が必要になる。従業員が在宅勤務になることも想定すると、Boxの共同編集機能の有益性が高まる。
最後に白井氏は、「Box AIは要点を的確にまとめることに役立っていますが、近い将来、共同編集者ではなく、人と一緒に成果を生み出すことのできる共同取り組みの一人になることを期待しています」と今後の期待を語った。
本記事は、Boxが2024年6月25日〜26日に開催した「BoxWorks Tokyo 2024」の内容を編集部で再構成した。
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