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「Gemini for Google Workspace」完全ガイド メリット、利用シーン、今後の展望

Googleの生成AIモデル「 Gemini 1.5 Pro 」を搭載した Google Workspace とはどのようなものか。サイドパネルから誰でも簡単に利用できる機能と、その活用シーンを詳しく解説する。

» 2024年08月08日 06時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 Googleは2024年5月14日、生成AIサービス「 Gemini Advanced 」に生成AIモデル「 Gemini 1.5 Pro 」が搭載された。6月24日には、「 Gmail 」「 Googleドキュメント 」や「 Google スプレッドシート 」「 Google スライド 」「 Google ドライブ 」など、「 Google Workspace 」のサイドパネルに Gemini を統合したことを発表した。これに伴い、「 Gemini for Google Workspace 」の利用を検討する企業も増えている。

 既に生成AIアシスタント機能を備えたコミュニケーションプラットフォームは幾つかあるが、Gemini for Google Workspace を利用するメリットはどこにあるのか。Googleの生成AI開発の歩みや Gemini for Google Workspace の機能、ライセンス形態などを、長年 Google Workspace の組織導入に携わり、また Google Cloud の認定トレーナーでもある吉積情報株式会社の丹羽国彦氏(事業推進役)に聞いた。

 なお Gemini は日々進化しているため、当記事公開時と最新の状況は異なる可能性があることをご承知おきいただきたい。

Transformer から Bard 、Gemini へ

 Googleは長年にわたってさまざまな生成AIサービスを開発、提供してきた。2017年、自然言語処理と機械学習のオープンソースライブラリ「 Transformer 」を公表。Transformer は、ChatGPTなどその後の大規模言語モデル(LLM)開発に大きな影響を与えた。

 さらにGoogleは、LLMの「 LaMDA 」や、より汎用性の高い「 PaLM 」を開発、提供してきた。2023年2月には、テキスト生成や翻訳、質問応答など、多様なタスクをこなせる高性能な対話型AIサービス「 Bard 」を発表。Google検索と連動するサービスとして高い利便性を実現した。

 一方、法人向けには、Google Cloud での生成AI開発基盤となる「 Vertex AI 」、 Google Workspace と連携する生成AIサービスとして「 Duet AI for Google Workspace 」を提供してきた。

 そして2024年2月、Bard が Gemini に名称変更され、それに伴い Duet AI も Gemini for Google Workspace に変更された。さらに5月15日には、従来の Gemini モデルよりさらに強力な生成AIモデル Gemini 1.5 Pro の提供が開始された。

 有償の Gemini Advanced に搭載された Gemini 1.5 Pro は、LLMの処理能力を示すコンテキスト ウィンドウが、Gemini 1.0 Pro の3.2万トークンから100万トークン以上に拡張されるなど、大きな進化を遂げた。最大1500ページの複数のドキュメントを理解したり、100件の電子メールを要約したりできる。

 これに伴い Gemini for Google Workspace もアップデートされた。日本語版の一般提供は年内にかけて順次対応の予定だが、英語環境の各アプリで Gemini 1.5 Pro を利用できる。

Googleのソリューションにおける Gemini の位置付け(出典:吉積情報の提供資料)

Gemini for Google Workspace の機能

 Google Workspace で Gemini の生成AI機能を利用する方法は、以下の3つに分けられる。

  • Gemini アプリでの自然言語での対話
  • Google Workspace 各アプリのサイドパネルでの Gemini の利用
  • Gmail や Meet などの各アプリに特化した Gemini 機能の利用

 いずれも人に質問するような感覚でAIに作業を依頼でき、「ファイルを探して、その内容をまとめる」といったシンプルな機能については、どの方法でも重複して利用できるが、(1)(2)(3)の順にハルシネーションが少ないと言われている。

 (1)の Gemini アプリでの自然言語での対話については、チャットアプリでの Gemini との会話で作業を依頼できるものだ。アイデア、企画の壁打ちや精緻化、翻訳、文章チェックといった基本的な作業を依頼したい場合に便利だ。

 (2)として Google Workspace 各アプリのサイドパネルでも Gemini を利用できる。各アプリで、右上にある「 Ask Gemini 」ボタンをクリックすると Gemini のサイドパネルが表示される。具体的にどのように Gemini のサイドパネルが使われるのか見ていこう。

Gemini for Google Workspace でできること(出典:吉積情報の提供資料)

Gmail

 Gmail では、「メールを要約する」「メールに対する回答を提案する」「メールについての質問への回答」「メールの下書きの補助」「メールまたは Google ドライブ ファイルからの特定の情報を検索する」といったことがサイドパネルで実施できる。

 サイドパネルにはあらかじめ数種のプロンプトが表示されているため、それらを選ぶだけで基本的な機能を利用できる。もちろん、自由な形式で質問することも可能だ。「次のチームミーティングはいつですか?」などのプロンプトを入力すれば、 Gemini が受信トレイを検索して回答する。

Gmail のサイドパネル利用(出典:吉積情報の提供資料)

Google ドライブ

 Google ドライブ でサイドパネルを使えば、1つまたは複数の文書をまとめたり、プロジェクトに関する複数のファイルから最新情報を抽出したり、大量の文書から特定のトピックに関する情報を収集、調査したりできる。

 なお特定のファイルについて質問したい場合、該当ファイルを選択してチェックを入れた後、サイドパネルで質問を入力する。より直感的な方法として、サイドパネルに「@」を入力すると関連ファイルの候補が表示される。そこからファイルを選択し、質問することも可能だ。「@」を用いたメンション機能は、クラウドサービスの標準的な作法に沿っており、ユーザーにとってなじみやすいインタフェースといえる。

Google ドライブ のサイドパネル(出典:吉積情報の提供資料)

Google ドライブ のサイドパネルにドラッグするだけでファイルを要約開始(出典:吉積情報の提供資料)

Google ドキュメント

 Google ドキュメント のサイドパネルにある Gemini は、コンテンツを作成したり推敲したりするのに役立つ。また、情報を要約したり、ブレーンストーミングしてアイデアを創出したり、他のファイルを参考にしてコンテンツを作成したりといった作業もサポートしてくれる。

Google ドライブ のサイドパネルで文章を要約(出典:吉積情報の提供資料)

Google スプレッドシート

 Google スプレッドシート では、データを追跡して整理するのに役立つ。サイドパネルで素早くテーブルを作成したり、数式やグラフを生成したり、シートで特定のタスクを達成する方法を質問したりできる。

Google スプレッドシート のサイドパネル(出典:吉積情報の提供資料)

Google スライド

 Google スライド では、新しいスライドを生成したり、カスタム画像を生成したり、プレゼンテーションを要約したりといった作業をサポートする。

 Google Workspace で Gemini の生成AI機能の利用方法として、(3)各アプリに特化した Gemini 機能も利用できる。例えば、Gmail では「 Help Me Write 」という機能を利用することでメールの下書きを作成させることが可能だ。他にも、Google Meet や、2024年7月に公開したビジネス向け動画作成アプリ「 Google Vids 」などで特化機能を利用できる。

Gmail のhelp me write (出典:吉積情報の提供資料)

Google Meet

 Meet では、会議中の相手の発言をリアルタイム翻訳してくれる。60以上の言語が対応しており、「英語→日本語」だけでなく他言語から日本語への翻訳が可能だ(一部テナントでは日本語→英語も提供されている)。

 また、議事録を作成したり、会議のサマリーを作成したり、アクションポイントを抽出したりできる。会議の途中で参加したメンバーも、会議のサマリーを Gemini に作ってもらえば、これまでの会議内容を説明してもらう手間が省ける。

Google Meet での Gemini 機能(出典:吉積情報の提供資料)

Google Vids

 Google Vids とは、 Gemini が搭載されたビジネス向け動画作成アプリケーションだ。Google Workspace 内のドキュメントやスライドなどドライブ内の資産を基に、動画のアウトラインやストーリーボード、脚本などを生成する。自然言語で動画作成に関する指示を出せる他、スタイルテンプレートやストック動画、画像、BGMなども用意されており、初心者でも簡単に見栄えのよい動画を作成できる。複数のメンバーによる動画作成を支援するコラボレーション機能も備わっているようだ。

 現時点で新しいAI機能をテストするための招待制プログラム「 Google Workspace Labs 」の一部として公開されており、一般向けの正式リリース日は未定だ。

Google Workspace の思想を受け継いだ Gemini

 Gemini for Google Workspace は、Google Workspace のコンセプトや考え方をそのまま受け継いでいる、と丹羽氏は分析する。

 「他社製品の各アプリは多機能で幅広い用途に対応できるものもありますが、その豊富な機能ゆえに使いこなすのが難しい場合があります。一方、Google Workspace は業務に必要な機能を絞り込み、使いやすいインタフェースや操作感にこだわっています。Google にとってシンプルであること、体験は非常に重要なものです。さらに、アプリ間のシームレスな連携を前提として、全てが1つの Google Workspace というアプリとしてブラウザで完結する操作性を実現しています。これによりクラウドの優位性を生かした情報共有や共同作業もスムーズに行えます。

 この使いやすさを重視する姿勢は、Gemini for Google Workspace にも表れています。Gemini for Google Workspace は、ユーザーに選択肢を提示することで、プロンプト作成に不慣れな人でも活用しやすい設計になっています」

 Gemini for Google Workspace は、サイドパネルで扱いたいデータを選択し、あらかじめ用意された複数のプロンプトの中から必要なものを選ぶことで、ITスキルの高低に関わらず、誰もが簡単に利用できる。この「誰でもが使いやすく、直感的にパフォーマンスを引き出せる」というGoogle Workspace の哲学が、Gemini の実装にも一貫して反映されているといえる。

 また、Google Workspace がクラウドベースのサービスであることも、Gemini for Google Workspace の強みにつながっている。Google Workspace を利用する企業では、ユーザーの情報は全てクラウドに集約されている。そのためユーザーは、Googleドライブ や Gmail、Google Chat など、個人のPCという閉じられた領域でなく、広く社内に公開、共有された幅広い情報ソースを横断して Gemini のサポートを受けられる。

 とはいえユーザーは、Gemini を通して社内のどんな情報にもアクセスできるわけではない。ユーザーが Gemini を利用して Googleドライブ などのデータにアクセスする際、Gemini は各ユーザーの権限に基づいて情報を参照・提供する。つまり、ユーザーに権限がない情報には、Gemini もアクセスしないということだ。権限を管理しやすい点も、Gemini for Google Workspace の特徴といえる。

自然言語の対話・指示(プロンプト)で生成をヘルプ(出典:吉積情報の提供資料)

Gemini for Google Workspace で業務プロセスを型化する

 Gemini for Google Workspace の業務部門別の利用シーンを考えてみよう。

人事部門

 人材採用の応募書類をGoogleドライブに保管。それを Gemini のサイドバネルを使って複数の履歴書ファイルを分析・要約し、企業の採用基準に基づいて候補者の適性を判定し、判断基準を提示する。面談を設定する際には、Gemini が適切なメール文面を作成し、スケジュールを考慮した日程候補を提案する。面談準備にあたっては、ヒアリングシナリオや質問リストを Gemini に作成してもらう。

営業部門

 テンプレートに顧客情報を入力すると、Gemini は過去の成功事例や取引履歴に基づいて適切な提案アイデアや問答シナリオを提示する。面談設定時には、適切なメール文面を作成してサポート。さらに提案準備段階では、Gemini のサイドバネルからメールの要約をし、メール内容を基にした提案書の作成支援やレビューをして、営業担当者の業務を補助する。

法務部門

 取引先から受領した契約書を Gemini に読み込ませ、法的観点から懸念点や改善点を提示させる。契約書修正時には、文言のチェックとレビューを実施し、法的整合性を確保する。最終化段階では、変更履歴の要約や条項番号の割り当てを自動化し、法務担当者の業務負担を軽減する。文章のチェックはハルシネーションが起きづらい生成AIの得意領域でもある

マーケティング部門

 マーケティングデータを取得し、Gemini に詳細な分析をさせ、改善点を提示させる。次に、優先度とコストの算出をGemini にサポートしてもらいつつ、検討すべきアクションを決定する。マーケティング施策実行後は、その効果を Gemini に評価させ、さらなる改善点を提示してもらう。

Gemini for Google Workspace で「型化」する(出典:吉積情報の提供資料)

 このように多様な使い方ができるのが Gemini for Google Workspace だ。とはいえ、その豊富な機能ゆえに使いこなすのが難しい場合もあるだろう。企業での活用を推進するにはどうすればいいか。丹羽氏は次のように語る。

 「 Gemini for Google Workspace の導入に際しては、Gemini の活用プロセスを設計し、最適化する役割を担う人材が重要になると予想されます。そのような人材が活用シナリオを型化し、継続的に改善することで、社内での Gemini の活用が効果的にスケールアップできるでしょう」

月額3千円台で、Copilot と比較して割安

 Gemini for Google Workspace の特筆すべき点は、リーズナブルであることだ。主なプランとして「 Business 」または「 Enterprise 」を選べる。ニーズが高いと思われる Google Meet の会議効率化機能(文字起こしや議事録作成)も含めた全機能が利用できる Enterprise は、1ユーザーあたり月額3400円(税別)で提供する。競合する「 Copilot for Microsoft 365 」(4497円)と比較すると安価に利用できる。

 ちなみに下記の図にある「 AI Security 」は、企業のニーズに合わせてチューニングしたLLMも用い、ドライブ内の機密ファイルを自動的に分類する機能だ。データ損失防止(DLP)機能と組み合わせることで機密ファイルの保護効果を高める。

Gemini for Google Workspace の料金プラン(出典:吉積情報)

Gemini for Google Workspace の今後は?

 本稿で紹介した Gemini for Google Workspace のサイドパネルは、現在英語環境でのみ利用可能だが、2024年9月に日本語版がテストローンチされる予定だという。2024年8月1日、2日に開催された「Google Cloud Next Tokyo '24」(Googleの最新技術やサービスを紹介する年次イベント)において、Google Cloudのクリスティナ・ベア氏(Google Workspace 事業本部 コラボレーション アプリ プロダクト マネージメント バイス プレジデント)が発表した。

 また、Googleは順次機能追加を予定しており、ユーザーのニーズに合わせた改善が進められている。生成AI技術は日々進化しており、Gemini の機能も急速に強化されていくことだろう。丹羽氏は、企業のAIソリューション選定についてこうアドバイスする。

 「日進月歩でAIが進化するような現在の状況下では、単純な機能比較ではなく、プラットフォームの設計思想や自社の働き方との親和性を重視して、導入するAIを選択することが重要です。例えば、Microsoft 365が業務の中心になっている企業は、Copilot の利用を検討するケースが多いでしょう。一方、働き方や協働性を変革したい企業には、Google Workspace とGemini の組み合わせた、Gemini for Google Workspace が魅力的な選択肢となり得ます」

 企業はGemini for Google Workspaceの動向を注視しつつ、自社のデジタル化戦略や働き方改革の方針に照らし合わせて最適なソリューションを選択することが重要といえるだろう。

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