業務効率化や生産性向上などメリットばかりに目を向けられるAIだが、その裏で問題となっているのが電力消費だ。AI処理は多くの電力を必要とする。その問題を解決する技術が誕生したという。
IT業界だけでなく多様な産業で活用が進むAI。AIはトレーニング時やエッジデバイスで利用する際に多くの電力を消費する。また、AIサービスを提供するサービスプロバイダーが運用するデータセンターでも大量のエネルギーが消費されていて、早急に解決すべき問題となっている。
爆増する電力消費問題とAIの性能アップをまとめてかなえる新技術が誕生したという。AIの能力を高めるとともにエネルギー問題までも解決する技術とは?
その新技術とは「CRAM」(Computational Random-Access Memory)だ。ミネソタ大学ツインシティー校の研究チームが、新たなハードウェアデバイスとしてCRAMの実証に成功した。これによって、AIのエネルギー消費量を少なくとも1000分の1、最大で2500分の1まで削減できるという。
研究チームの論文は、2024年7月25日(現地時間、以下同)に「Nature」のWebサイトに掲載された。また、世界中の大学の研究結果などを速報するニュースサイト「Newswise」が翌2024年7月26日に記事で紹介した。
記事によれば、一般的なPCでAIのプロセス処理を実行する場合、ロジック(システム内で情報が処理される場所)とメモリ(データが格納される場所)との間でデータを転送するため、大量の電力エネルギーを消費する。冒頭でも触れたように、AIによる膨大なエネルギー消費は深刻な問題となっている。
国際エネルギー機関(IEA)が2024年3月に発表した「世界のエネルギー使用予測」では、AIのエネルギー消費量は2022年には460TWh(テラワットアワー)だったのが、2026年には1000TWhに倍増する可能性があると予測されている。この消費量は日本全体の電力消費量とほぼ同等だという.
研究チームが実証したCRAMにはPCがメモリアレイで計算する機能があるため、データ転送の発生を抑え、高いパフォーマンスを実現すると同時に、エネルギー消費も抑制させる。現代のコンピュータの基礎である「フォン・ノイマン・アーキテクチャ」のボトルネックであった計算とメモリ間の壁を打ち破る新技術だ。
研究チームの論文では、AIが処理で利用する「スカラー加算」や「行列乗算」といった演算において、0.47μJ(マイクロジュール)のエネルギーを使用して434ns(ナノ秒)で実行できたとある。これと同じ処理を従来のPCで実行した場合と比較すると、必要なエネルギーの約2500分の1まで減少したという。
CRAMは20年以上の年月をかけて研究されてきたが、当初は「considered crazy」(狂気の沙汰)と呼ばれるほど無謀な研究だったという。しかし、それでもDARPA(米国国防高等研究計画局)やNIST(米国国立標準技術研究所)、NSF(米国国立科学財団)といった米国のITに深く関わる団体の他、Ciscoなどからも資金援助を受けて成功にこぎ着けることができた。
研究チームの代表の1人であるジャン・ピン・ワン教授によると、AIにCRAMへの組み込みも可能なことが実証されたという。つまり絵に描いた餅ではなく、数年以内にCRAMを採用したAIシステムが登場し、AI処理時の電力消費を抑える時代がやってくるということだ。
20年もの時間をかけて研究されてきた新技術が、まさにAIの普及著しい今に結実したのだ。AIとそれを取り巻く産業、ひいては社会全体にとって大きな福音となるはずだ。
上司X: AIの処理能力を高めるCRAMというデバイスが発表された、という話だよ。
ブラックピット: ほう。AIの機能を最高に高める、という触れ込みですが。
上司X: 処理が高速になってエネルギー消費も改善されるということだ。
ブラックピット: フォン・ノイマン・アーキテクチャを覆す新発明になりそうですね。よく知りませんけど。
上司X: 知らないのか! 簡単に言えば、今のPCの基本設計で、頭脳であるCPUと記憶領域であるメモリが別々に存在する設計のことだ。柔軟である一方で、データのやりとりにボトルネックがある。
ブラックピット: それを解消する設計なのがCRAMと。ふむ、期待しましょう。
上司X: あんまり期待していない風だが……。
ブラックピット: そ、そんなことはないですって。だって、2026年にはAIが1000TWhもエネルギーを消費するんでしょう? 日本の電力消費と同じってのはさすがにヤバいでしょう。
上司X: まさにヤバい事態だろうな。そんなタイミングで20年の研究成果が実ったのだから関係各所はさぞ喜んだことだろう。きっと俺たちの生活の中でも恩恵を受けるシーンが増えることだろう。CRAMは実証されているってことだから、今度は実際の製品の登場を期待したいところだな。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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