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生成AIでSalesforceやSlackはどう変わるのか

Salesforceが2024年9月に開催する「Dreamforce」の最大の目玉は「Agentforce」になるかもしれない。生成AIでSalesforceやSlackはどう変わるのか。

» 2024年09月11日 08時00分 公開
[Don FluckingerTechTarget]

 Salesforceが2024年9月に開催する「Dreamforce」の最大の目玉は「Agentforce」になるかもしれない。Salesforceによる新機能の発表が期待される。Salesforceは、AgentforceがSalesforceのAIプラットフォーム「Einstein 1」に接続されることを確認したが、最終的な詳細はまだ確定していない。

 製品リリースの様子や2024年の夏にSalesforceの幹部が示唆した内容からすると、Agentforceは、「Salesforce Data Cloud」を基盤とし、共通の顧客データを共有する営業およびサービス用の生成AIbotの集まりのようだ。どのような内容を期待できそうか。

生成AIでSalesforceやSlackはどう変わるのか

 Salesforceのマーク・ベニオフ氏(CEO)は、2024年7月5日以降にX(旧Twitter)でAgentforceの機能やデモビデオを公開し、「Einstein Sales Agent」を含む幾つかの情報を示している。そして、同年9月15〜17日に開催されるDreamforceのユーザー会議で全貌を明らかにするとしている。Einstein Sales Agentは、2024年8月22日にリリースされた生成AIを活用した営業botで、営業担当者向けのオンボーディング機能や、電話やオンライン会議の内容を聞きながら生成AIによるコーチングを提供する機能を備えている。

 Einstein Sales Agentは、2024年7月にリリースされたService Agentに続くものだ。複数の重要なリリースとともに、営業とサービスから始まるチーム間で生成AIbotが一体となって連携する統一プラットフォームを示唆している。調査企業であるConstellation Researchのリズ・ミラー氏(アナリスト)によると、Salesforceのような生成AIエージェントは、自然言語処理と複雑なデータセットを瞬時に融合させられるため、顧客向けチャットbotやエージェント支援ツールに大規模な改善をもたらすという。

 「この種のbotを使うことで、人間同士のように対話できるようになる。AIが双方向型のリアルタイムな会話を自然で有機的にできるようになるのだ。botと話している感覚にはならないだろう。非常に複雑な状況を把握していると感じるはずだ。1年前には、実現できなかったものだ」(ミラー氏)

 AIの助けを借りずに営業目標を達成している経験豊富な営業担当者の間では、営業テクノロジーの導入を促進するのが難しい場合がある。しかし、Salesforce Sales Cloudのケタン・カルカニス氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー)は、Salesforce Sales Agentは、このような要求の厳しい人々にも受け入れられると予想している。それは、生成AIが記録の更新や顧客の初期対応などの事務作業にしかし、通常、Salesforceは、Dreamforceで対応できるためだ。

 「ベテランの営業担当者は、これらの機能を迅速に受け入れるだろう。なぜならば、それらの営業担当者が、自らのスキルを活用して取引を成立させることに集中できるようになるからだ。それ以外の仕事をする必要がなくなるのだ」(カルカニス氏)

 Winter '25のリリースノートの次のバージョンは、2024年9月6日、同年10月5日、同年10月12日の週末にリリースされる予定だが、地域によって異なる。リリースノートでは、新機能に関する手掛かりも提供されるだろう。ユーザーは、どのWebページにもショッピング用の「mini carts」を設置できるようになった。また、新たに「Einstein for Developers」のドキュメントサイトが開設された。さらに、Herokuに新たなスポットライトが当たり、Herokuのアプリを通じて外部サービスからアクションを生成する機能や、アプリ全体の機能が拡張されるようだ。

生成AIが注目を集めるなか、Slackが生まれ変わる

 Agentforceのリリース日に関する情報はまだ発表されていない。しかし通常、SalesforceはDreamforceで最初の情報を公開してから6カ月から1年をかけて大規模な新しい取り組みを展開する。その際、幾つかの機能がアジャイル方式で段階的に提供されることが多い(注7)。

 SalesforceがDreamforceで発表またはプレビューする技術はAgentforceだけではないだろう。2023年にプレビューされた「Einstein Copilots」は、Salesforceのユーザーである企業内の営業担当者、マーケティング担当者、カスタマーサービス担当者などを支援する生成AIを備えている。Salesforceがこれらのプレビューを製品リリースに向かって展開するにつれて(注8)、Dreamforceの参加者はさらに多くの機能の追加を期待できる。

 「Copilot for Slack」は、Dreamforceと同じ時期にリリースされる予定だ。Salesforceが2020年にSlackを買収した際、ベニオフ氏は「SlackがSalesforceのインタフェースになる」と述べたが(注9)、いまだに実現されていない。しかし、Slackが、開発者やマーケティング担当者、カスタマーサービス担当者、営業担当者が問題解決や収益創出のために協力する重要なプラットフォームであることに変わりはない。

 SalesforceとOracleで長く経験を積んできたデニス・ドレッサー氏が、SlackのCEOに就任してまだ1年だ。同氏は、従業員の生産性を向上させるためにSlackとSalesforceの統合を深めるという課題に取り組んでいる。同氏は「Einstein Copilot for Slackのような生成AIツールが、目標達成にさらなる進展をもたらす」と述べている。

 「構造化データと非構造化データをSalesforceとSlackで活用すると、信じられないほど強力な機能を実現できる」(ドレッサー氏)

 SalesforceはWorkdayと提携し、両社のユーザー向けにAIを活用した従業員サービスエージェントを構築している。これにはSalesforceとWorkdayのデータが使用され、2024年の年末には稼働する可能性がある。Dreamforceでは、これらがData CloudやAgentforceとどのように統合されるのか、また、従業員のオンボーディングツールや販売手数料の追跡および支払いをはじめとして、どのような機能が提供されるのかについて、新しい発表があるかもしれない。

Data Cloudの進化

 ここ数カ月のインタビューにおいて、Salesforceの幹部たちは、AIがより効果的に機能するためには、より多くかつ質の高いデータが必要であると強調している。

 Salesforceは、長年にわたりユーザーの顧客データをより有効に活用する取り組みを進めてきた。まず2020年に「Customer 360 Audiences」という顧客データプラットフォームを立ち上げ、2021年にはこれを「Salesforce CDP」に再ブランドした。2022年にはマーケティング用途を超えた使用ケースに対応できるように「Genie」へとアップグレードされ、「魔法のウサギ」というマスコットも登場した。その1年後、「SalesforceはGenie the Rabbit」を廃止し、Genieを「Data Cloud」として再ブランドした。

 2024年はData Cloudにとって特別な年となっており、その名称は今後も維持される可能性が高い。

 Salesforceプラットフォーム上で生成AIが徐々に導入される中、SalesforceはユーザーにData Cloudを導入することを検討するよう促している。他社のデータレイクを利用して顧客データを保存している場合でも、Data Cloudの特定業界向けに事前構築されたデータモデルや、外部データに対しても操作可能なゼロコピー機能が、開発者やインテグレーターがより迅速にツールを導入する助けとなる可能性がある。

 「皆が自分の時間でChatGPTやBingを試したことがあると思います」とSalesforce AIのCEOであるクララ・シーは語る。「しかし、エンタープライズで使用する場合は、これらのモデルを訓練するために使われるインターネットデータの影響で、かなり異なります。良いコンテンツも多いですが、偏った情報、不正確な情報、単に誤った情報も多く存在します」

 ユーザーのデータを公共の大規模言語モデルから分離する「Einstein Trust Layer」は、Salesforce外でも評価されている。Salesforceユーザーは自社データでモデルを訓練し、必要に応じて公共の生成AIの大規模言語モデルを安全に活用することで、ビジネス上の利益を得ることができる。

 これを実現するために、Salesforceは6月に独自のベクターデータベースをリリースし、Data Cloudの新たな統合、AI駆動のエージェントや機能の発表に向けた基盤を整えた。

 ベクターデータベースやEinstein Trust Layerのような高度な技術概念は、多くのSalesforceユーザーや管理者にとってはまだなじみが薄いと、独立系調査会社Valoirの創設者であるレベッカ・ウェッテマン氏は指摘する。しかし、これらはDreamforce以降に登場する次世代の技術の重要な構成要素である。

 「多くのユーザーが、すぐに使える機能を有効化しています」とウェッテマンは言う。「そのため、データサイエンス部門、法務、コンプライアンスなどが満足するためには、SalesforceはTrust Layerを導入する必要があります。また、非構造化データに対するアプローチを持たなければなりません。これらはAIの未来に向けた基礎であり、今日、多くの顧客が直ちに採用するものではないかもしれません」

 これにより、SalesforceはWebの顧客行動や販売記録、その他のやりとりを追跡し、メタデータを付加してSalesforce全体で活用可能にすることができると、Salesforce Data Cloudのエグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーであるラウル・アウラドカールは説明している。導入の例として、クロスセルやアップセルの施策、顧客サービスの向上、あるいは以前は不可能だった非構造化データの分析が含まれる。

 「Data CloudはEinstein 1プラットフォームに深く組み込まれています」とアウラドカールは語る。「これにより、Webサイトやモバイルアプリでの顧客の行動、過去数秒間の購入履歴、ページのスクロールの仕方など、構造化されたデータを取得し、私たちがすでに持っている顧客に関するメタデータと統合して、データを活用することが可能になります」

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