次世代バッテリーに期待が集まるが、リチウムイオンバッテリーもまだまだ主力だ。ある研究で、リチウムイオンバッテリーを長持ちさせる方法が見つかった。
スマートフォンやPC、スマートウォッチなどモバイルデバイスに内蔵されているバッテリー。そのバッテリーとして採用されているのが「リチウムイオンバッテリー」だ。
リチウムイオンバッテリーを1.5倍も長持ちさせる手法が発見された。しかも、それは決して特別な方法ではないという。一体、どうやって?
リチウムイオンバッテリーを製造し、バッテリー工場から出荷する前に一回充電する工程がある。米国の研究機関SLAC(SLAC National Accelerator Laboratory)に属する「Stanford Battery Center」の研究チームは、この初回充電がリチウムイオンバッテリーの性能を決定する要因になるという研究結果を発表した。Stanford Battery CenterはSLACとスタンフォード大学が共同で設立した研究所で、次世代エネルギーに関するさまざまな研究を進めている。
2024年8月29日、エネルギー分野に特化した科学ジャーナル『Joule』に研究チームの論文が掲載され、その内容がSLACの研究ブログに詳細が掲載された。それによれば、研究チームはリチウムイオンバッテリーの初回充電の方法によって充電速度が30倍高速になり、電池寿命が50%伸びるという研究結果を得たという。
リチウムイオンバッテリーに初回の充電で電池の性能や寿命の長さが左右されるという特性があることは以前から知られていた。研究チームは機械学習を使って性能と寿命の要因となる電極の特性の変化を正確に特定することに成功した。研究によって初回充電時の「温度」と「電流」が大きく影響することが分かった。
新品のリチウムイオンバッテリーの正極(プラス側)はリチウムで満たされている。リチウムイオンバッテリーが充電と放電を繰り返すほど、リチウムの一部が不活性化される。リチウムの不活性化とは、バッテリー内でリチウムイオンが電気化学的に反応しなくなることだ。
不活性化によってリチウムイオンバッテリーの容量が小さくなるため、リチウムの不活性化を最小限にすることが寿命を延ばす要因になる。だが、初回充電でリチウムを不活性化させることも実は欠かせない。不活性化したリチウムは負極の表面に「SEI」(Solid Electrolyte Interphase:固体電解質界面)を形成し、負極を保護する役目を果たすからだ。SEIがあることでリチウムイオンバッテリーの急激な劣化を防ぐことができるため、初回充電は形成充電と呼ばれることもある。
バッテリーメーカーが初回充電をするのはSEIを形成するためだ。研究チームは「初回充電において低電流で時間をかけて充電するというセオリーがある」と説明する。10時間かけて初回充電し、リチウムの9%が不活性化されてSEIとして利用されることで損失を最小限に抑える手法だとされてきた。
研究チームは、さまざまな条件でリチウムイオンバッテリーの初回充電を実験し、その結果を機械学習で分析した。そこで導き出されたのが「高電流で短時間の充電を行なう」ということだ。高電流で初回充電することでリチウムの不活性化は30%まで膨らみ、その後に充電と放電を繰り返しても劣化が抑えられるという。研究チームの実験では、バッテリーの平均寿命が50%も伸びることが確認された。
研究チームのシャオ・ツイ氏によれば、「初回充電でリチウムイオンを多めに不活性化することは、バケツで水を運ぶときに満タンではなく少し水を少なくして運ぶことに似ている。バケツにヘッドスペースがあると水はこぼれにくい。リチウムイオンバッテリーの正極にヘッドスペースがあることでリチウムイオンが効率的に循環できるようになり、バッテリーのパフォーマンスが向上する」と説明している。また高電流で充電することで、これまで10時間かかっていた初回充電が20分、つまり元の30分の1まで短縮できる。これは製造現場にも大きなメリットをもたらすだろう。
さまざまな次世代バッテリーの開発が急がれているが、リチウムイオンバッテリーはまだまだ主力のバッテリーとして採用され続けるだろう。今回研究チームが明らかにした手法は、われわれの生活に不可欠なリチウムイオンバッテリーをさらにもう一段高性能な製品へ引き上げるきっかけになるかもしれない。
上司X: リチウムイオンバッテリーの性能を向上させる手法が発見された、という話だよ。
ブラックピット: 工場での初回充電するときに今までと違う方法で充電するだけなんですね。
上司X: 従来は10時間かけて低電流で少しずつ充電していたのを一気に高充電でやっちゃうと、最初にリチウムの劣化は進むのに最終的には長持ちするっていうね。
ブラックピット: 今までの定説が覆った感じですね。研究に機械学習が有効に使われているのも面白いですねえ。
上司X: この手法だと、工場の設備を整え直したり新しい装置を導入したりする必要がないだろうからな。早速、リチウムイオンバッテリーの製造現場でも試してみる、なんてこともありそうだ。
ブラックピット: でも、バッテリーの寿命が延びちゃうと製品サイクルが長くなるから……って考えるメーカーもいたりしませんかね?
上司X: また、そういう斜めな考えをする。
ブラックピット: そんな苦々しい顔をしなくても。僕だってそんなこと本気で思っていませんよ。
上司X: ともかく、われわれが使っているリチウムイオンバッテリーの性能アップにつながるなら、なんにせよ今回の研究結果は歓迎すべきものだろう。確かに次世代バッテリーにも期待したいところだけど、今のリチウムイオンバッテリーがより良くなるなら何よりだ。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
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中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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