ある人物は「日本のソフトウェアは恥ずかしくなるほどヒドいものだ」と評した。その理由はスキルなどではなく、もっと根深いところにあった。
ソフトウェア産業の多くが外資系ベンダーにシェアを奪われているという見方がある。もちろん、日本企業が手掛けているソリューションも多い。ただ、世界的に利用されているものはというと、それほど多くはないだろう。
日本がソフトウェア開発に出遅れたきっかけは、かつて日本にあったあるモノが原因であり、それが品質にも関係しているという。どうやら人材やスキルなどではないようだ。一体、何が原因なのか?
本稿で解説する内容は、Google for Startups Japan代表のティム・ロメロ氏の見解であることをあらかじめご了承いただきたい。
ロメロ氏がホストを務め、日本のスタートアップを海外に紹介するポッドキャスト番組「Disrupting Japan」の配信200回記念番組の内容が記事化された。そこには「日本製のソフトウェアは国際基準からすると恥ずかしいほどヒドい」と記されていた。
その原因は財閥にあるとロメロ氏は指摘する。財閥とは明治時代から第二次世界大戦の終わりまでの日本経済を支配した企業集団であり、日本の近代化と経済発展に大きく寄与した。
ご存じの通り、第二次世界大戦で敗戦国となった日本において、財閥はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)によって解体された。しかし戦後、米国を中心とする資本主義陣営とソ連を中心とする社会主義陣営の間に生じた冷戦が激化する中で再成長した日本経済にとって、旧財閥系の企業グループが形成されたのはある意味必然だった。
旧財閥系の企業グループ各社は当時の日本経済を成長させ、世界の多くの産業で革新を起こして影響力を拡大していった。ロメロ氏は「自動車やカメラ、機械部品、鉄鋼、半導体、時計、家電製品に至るまで、日本の系列企業は世界のルールを書き換えた」とし、「その中で出遅れたのがソフトウェア産業だ」と指摘する。
日本のソフトウェアは、特定の機器で動作する組み込み型や専用システムで動作するタイプが中心だった。コンピュータが市販されるようになった1980年代、旧財閥の企業グループでは系列内のテクノロジー企業が同じグループ企業にコンピュータやソフトウェアを販売する方策で収益を得るようになった。その結果、グループ外および日本国外の企業との競争が活発でなかったため、日本のソフトウェア開発力は停滞し、海外のSIerの台頭を許すことになったというのがロメロ氏の見方だ。
さらに同氏は、日本のソフトウェア開発において「顧客と契約した後に機能を実装する」という方式を採っていたことも問題だと指摘する。
1980年代〜1990年代にかけてソフトウェア開発は事務的な仕事の一種とされ、グループ内の企業に依頼された内容に沿った機能だけを開発していたため、イノベーションを生み出そうという試みがなかったという。また、特定のハードウェアで動作するソフトウェア開発に固執し、標準的なハードウェアプラットフォームで動作するソフトウェアを開発するという世界的な流れにも追随できていなかった。
ITバブルが到来後も日本企業はソフトウェアエンジニアを軽視してきた結果、優秀なソフトウェアを評価し見極める能力が欠けていたことから、必要な人材を集められなかったという。つまり、ロメロ氏の見方によれば、日本の財閥こそが国内のソフトウェア業界の発展を妨げてきたということになる。
しかし、1990年代のバブル崩壊後、旧財閥系の企業グループの一部は倒産したり再編を迫られたりして影響力が弱まり、それによって多くの企業が終身雇用制度を見直したり拠点を海外に移したりすることで企業構造に変化が生まれた。
シリコンバレーが台頭し、クラウド活用が進むようになったことで日本国内のソフトウェアエンジニアの地位向上も進み、優秀なプログラマーが誕生するようになった、とロメロ氏は語る。そして今後は、スタートアップと教育機関が連携し、次なる経済成長が生まれるとも予測する。
1945年の財閥解体から既に80年が経過した。その影響から脱して日本のソフトウェアが発展することに期待したいものだ。
上司X: 日本のソフトウェアが世界と比較するとイマイチなのは財閥のせいだ、という話だよ。
ブラックピット: 財閥ですか。うーむ。もちろん今は昔、という話ですけど、いわゆる「四大財閥」に関わる企業って今もたくさんありますよね。
上司X: あるね。コングロマリットで事業を展開する企業は世界的にも少なくないし、必ずしも否定されるものもないとは思うけど。ロメロ氏が言うように、日本のソフトウェア業界の発展を妨げた要因だとすると……。
ブラックピット: いずれにしたって今さら感はありますけどね。
上司X: そう言うなよ。こういう分析があるって話なんだから。
ブラックピット: ええ、そうですね。
上司X: でも、財閥や解体後の企業グループの存在がなかったら、日本経済の発展はなかったかもしれないわけでな。
ブラックピット: そうですよね。結局過去のことは振り返っても仕方ないんですし。前向きに生きましょう!
上司X: ずいぶんポジティブだな(笑)。ともかく、これからは日本のソフトウェアの質がさらに向上することを期待するしかないだろう。俺たちも何か貢献できるかもしれんしな。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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