アウトソーシングの認知度は高いにもかかわらず、利用率が低いのはなぜだろうか。最新の実態調査結果から、IT系BPOサービスの現状と課題を探る。また、主要なIT系BPOサービスの基本や各特徴についても紹介する。
情報システム部門の業務量は年々増加し、次々と新しい課題が生まれる一方で、人員は限られたままだ。そんな状況を打開する一つの選択肢として注目されている「アウトソーシング」の活用術を紹介する。
情報システム部門の業務量は年々増加している。クラウドサービスの導入やテレワーク環境の整備、セキュリティ対策の強化など、次々と新しい課題が生まれる一方で、人員は限られたまま。そんな状況を打開する一つの選択肢として注目されているのが、IT系BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスだ。
本稿では最新の調査結果を基に、IT系BPOサービスの現状と課題、活用のポイントについて解説する。情報システム部門の負担軽減に向けて、どのようにサービスを活用すべきか具体的な方法を探る。また、主要なIT系BPOサービスの基本や各特徴についても紹介する。
キーマンズネットが2024年6月に実施した「ITアウトソーシングサービスの利用状況に関する調査」(実施期間:2024年5月8日〜22日、回答件数:219件)は、IT系BPOサービスについて「名称もサービス内容も知らない」と回答した人を全体から引いた割合は82.3%だったと伝えている。一方で、「現在利用しておらず、今後も利用する予定はない」という回答が59.8%にも上った。
なぜ、IT系BPOサービスは多くの人に認知されているにもかかわらず利用者が少ないのか。
「展示会などで情報システム担当者にサービスを紹介すると、『いいサービスですね』『絶対に導入したい』と前向きな声が聞かれるものの、経営層からの承認が得られず、結局導入に至らないというケースはよくあります」
そう語るのは、IT系BPOサービス「IT with」を展開するPSソリューションズの三菅淳平氏(事業開発部 マーケティングマネージャー)だ。
利用率が低い背景には主に3つの要因がある。1つ目は、IT系BPOサービスの導入効果が可視化しにくいためだ。IT系BPOサービスによって得られるものは、売上向上のような分かりやすい効果ではなく、「業務の円滑化」や「セキュリティリスクの軽減」といった目に見えにくい効果であり、数値化が困難だ。費用対効果の説明が難しいため、特に経営層を説得する上で障壁となっていると考えられる。
2つ目には、「今の体制で何とか回っている」という現状維持バイアスが、特に経営層に強く見られることが挙げられる。情報システム部門の担当者が懸命にカバーしている現状では、新たな投資の必要性が見えにくい。
3つ目は、企業規模による認識の違いだ。大企業では情報システム部門の業務量が膨大で、セキュリティリスクへの意識も高いため、IT系BPOサービスへの投資判断がしやすい傾向にあることだ。一方、中小企業では投資判断が慎重になりがちだ。
ただし、中小企業でもIT系BPOサービスのニーズは高まっているという。
「特に従業員数50人以上の中堅・中小企業でニーズが高まっているように感じます。企業規模がある程度大きくなると、社内のPC台数が増加し、利用システムも多様化してきます。そうなると、一人の担当者では対応しきれない業務量となり、またセキュリティリスクへの意識も自然と高まってくるのだと推察されます」(三菅氏)
情報システム部門の業務を従来通りの体制で回すことが難しくなる「境目」を越えると、IT系BPOサービスへのニーズが急速に高まるということだ。また、働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染症の影響により、IT業務の切り出しを検討し始める企業が増えているといった事情もある。
前述の「ITアウトソーシングサービスの利用状況に関する調査」でも、「101〜500人の中堅・中小企業で27.5%、100人以下の中小企業でも15.7%と、小規模企業帯がサービス利用に前向き」という結果が明らかになっている。
中小企業の情報システム担当者が直面している課題は深刻で、業務量の増加が特に大きな課題となっている。企業のIT化が進むにつれて、情報システム部門が担当する業務の範囲は年々広がっている。PCやスマートフォンなどのデバイス管理、クラウドサービスの導入・運用、セキュリティ対策など、求められる専門性も高度化している。
カフェの公衆無線LAN(フリーWi-Fi)への接続や、個人のクラウドストレージへの業務データ保存など、新たなリスクへの対応も必要になっている。
さらに、SaaSの導入増加に伴う課題も深刻化している。部署ごとに必要なサービスを個別に契約することで、全社で見ると無駄なコストが発生しているケースや、アカウント管理が適切にできていないケースも多い。
加えて最近は、「ChatGPT」などの生成AIの登場によって新たな課題も発生している。従業員が勝手に生成AIの利用を始めてしまい、知らないうちに機密情報が外部に流出するリスクもある。
「これらの業務の全てを、一人の担当者あるいは少人数の情報システム部門で対応するのは、もはや限界にきています。社内からの問い合わせ対応に追われ、本来やるべき業務に手が回らないという声も、よく耳にします」(三菅氏)
現状が何とか回っているからといって、それがいつまでも続くとは限らない。むしろ、水面下ではさまざまなリスクが蓄積されつつある。
例えば製造業では、マルウェア感染や機密情報漏えいの被害が増加しており、知的財産が脅かされるケースが報告されている。情報処理推進機構(IPA)の「令和4年度中小企業等に対するサイバー攻撃の実態調査」では、工場のFA端末など情報システム部門の管理外にある端末でウイルス対策ソフトが未導入のまま運用されているケースや、USBメモリの使用が適切に管理されていないケースが確認されており、情報セキュリティの深刻なリスクとなっている。
医療機関も深刻なサイバーセキュリティの課題に直面している。例えば2022年、ランサムウェア攻撃を受けた医療機関が約2カ月にわたり診療停止を余儀なくされる事例が発生するなど、サイバー攻撃は医療機関の事業継続に関わる重大なリスクとなっている。これを受けて2023年4月からは医療法施行規則の改正によりサイバーセキュリティ対策が義務化され、病院や診療所での対応が急務となっている。
このように、業種を問わずセキュリティリスクが高まっている現状において、専門家による適切な対策の実施は、もはや選択肢ではなく必須といえるだろう。
このような状況を打開する手段が、IT系BPOサービスだ。どのような目的でサービスを利用する企業が多いのか。
先の調査結果によると、IT系BPOサービスの利用目的として、「慢性的に不足しているITリソースを補填するため」(62.5%)、「人件費などのランニングコストを削減するため」(45.5%)、「従業員の時間外労働時間を削減するため」(26.1%)などが挙げられている。
特に中小企業はIT系BPOサービスを導入することで以下のようなメリットが得られると考えられる。
まず、必要なときに必要な分だけ依頼できること。新入社員の入社時期など、一時的に業務が増える時期に合わせて利用できる。人材を採用する場合と違い、柔軟に対応できることが大きな利点だ。
次に、専門的なスキル・ノウハウを活用できること。セキュリティ対策など、専門性の高い業務に自社で対応しようとすると、担当者の教育に時間とコストがかかる。IT系BPOサービスを利用すれば、外部の専門家に任せられる。
業務の標準化・効率化が図れることも大きい。例えばヘルプデスク業務をアウトソースすることで、問い合わせ内容の可視化や分析が可能になる。これにより、業務プロセスの改善にもつながるだろう。
個別の業務課題に特化したIT系BPOサービスは数多く存在する。
など、個々のサービスで見ると実に多様だ。提供している事業者もPCメーカーやSIerなどさまざまだ。
しかし、中小企業の情報システム部門が抱える課題を包括的に解決できる、いわゆる「丸ごとアウトソーシング」型のサービスは、実はそれほど多くはない。具体的なサービスとしては以下のようなものがある。
ITデバイスとSaaSの統合管理に特化したクラウドサービス。特にデバイス管理やアカウント管理の効率化を重視しており、社内IT資産の一元管理を実現する。
月額4.9万円からという手頃な価格帯で、社内ヘルプデスク業務やキッティング作業などを提供。環境改善から業務代行まで幅広い情シス業務に対応している。
プロジェクト単位での発注やスポット発注にも対応する柔軟なサービス体系が特徴。情報システム部門の立ち上げ支援などもしており、コンサルティング面での支援も充実している。
PC調達やキッティング、ヘルプデスク業務やセキュリティ対策まで、コーポレートITに関する幅広い業務に対応。AIチャットbotを活用した24時間365日の問い合わせ対応が特徴だ。
「中小企業にとって、個別の業務ごとにIT系BPOサービスを利用すると、かえって管理の手間が増えてしまう可能性があります。従って、幅広い業務に対応でき、かつ状況に応じて柔軟に対応してくれるサービスを選んだ方が、手間を省けるといえます。任せる業務範囲を広げて一つの事業者に依頼した方が、コストメリットも生まれるでしょう」と三菅氏はアドバイスする。
なお、各サービスで得意分野や料金体系が異なるので、自社の課題や予算に合わせて比較検討するのがいいだろう。次回は、IT系BPOサービスの具体的な導入事例や、利用企業の評価、そして成果を上げるためのポイントについて解説する。
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