SAPはAIアシスタントのJouleを通じて、支出管理製品Intelligent Spend Groupに生成AIを導入した。また、ビジネスネットワークおよびAriba向けの新しいサービスも発表している。
SAPは、AIアシスタントの「Joule」を通じて、支出管理アプリケーションに生成AI機能を追加した。また、同社は調達および購買業務向けのソフトウェア「SAP Ariba」のユーザー導入を促進し、「SAP Business Network」(以下、Business Network)での認知を通じてサプライヤーとバイヤーをつなげる新しいサービスも発表した。
2024年10月14日(現地時間)の週に米国で開催されたカンファレンス「SAP Spend Connect」で発表された新機能は、SAPの支出管理製品「Intelligent Spend Group」で最も利用されている活動やプロセスを対象としたものだ。このグループには、調達のためのSAP Ariba、外部ワークフォース管理のための「SAP Fieldglass」、旅行および経費報告のための「SAP Concur」、企業間取引を支援するBusiness Networkが含まれている。同社によると、生成AI機能の追加によってプロセスの生産性が向上し、支出管理スイート全体での可視性が高まるという。
SAPでIntelligent Spend GroupおよびSAP Business Networkを担当するマノジ・スワミナサン氏(最高製品技術責任者)は、カンファレンス前の「TechTarget」とのブリーフィングで次のように述べた。
「私たちは、調達から支払いに至るプロセスの全体に生成AIを組み込み、Intelligent Spend GroupおよびBusiness Network全体で生成AIの導入を進めている」
スワミナサン氏は「2023年に発表され、SAPのクラウド製品群に組み込まれているJouleは、支出管理アプリケーション全体で顧客が最も利用する活動の80%をカバーする」と述べた。
「また、ユーザーが少ない労力でより多くの業務に対応できるように、ユーザー体験全体にも生成AIを組み込んでいる」(スワミナサン氏)
Jouleは、Aribaを活用して調達から支払いまでをするユーザーに、定期的なステータス更新の管理や要約の生成、よくある顧客からの質問への対応などの支援を提供する。
Fieldglassのユーザーは、Jouleを活用することで、採用やサービスリクエストのために求人情報や業務委託契約書のテキストを作成できる。Business NetworkにおいてもJouleがユーザーをサポートし、物流や資産管理のタスクを支援するとともに、Network Discoveryのアプリケーションを通じてサプライヤーとビジネスの新しい機会をマッチングする手助けをする。
SAPによると、現在JouleはAribaで利用可能であり、FieldglassとBusiness Networkには2024年の第4四半期に段階的に展開される予定だという。
SAPは、Aribaの導入促進を目指した新しいソフトウェアサービス「SAP Ariba Intake Management」と、SAP Business Networkの新しいサブスクリプションサービスを発表した。このサービスはサプライヤーがバイヤーを見つける手助けをする。
スワミナサン氏は「Ariba Intake Managementは、調達に関する問い合わせやステータスの可視化をするための単一のインタフェースを提供する」と述べた。このアプリケーションは、Aribaからの情報を統合し、SAPの開発および統合環境である「SAP Business Technology Platform」を通じて企業のシステムと連携できる。
「これは経験豊富なユーザーと新しいユーザーの両方が所属する組織向けの機能だ。なぜならば、全てのCPO《最高調達責任者》は調達領域における採用促進に苦労しているためだ」(スワミナサン氏)
Ariba Intake Managementは、2025年の第1四半期に利用可能になると予想されている。
SAPによると、Business Networkにおける新しいサービス「Promote」は、サプライヤーによる自社の差別化と、バイヤーを見つけるための支援を目的としているという。
スワミナサン氏は「何百万ものサプライヤーがBusiness Networkでビジネスを推進している。その中で自社をいかに差別化するかが課題になり得る」と述べた。Promoteは、サプライヤーが自社のプロフィールをどのように定義すれば、提案依頼(RFP)や調達のプロセスでバイヤーから選ばれる可能性を高められるかに関する洞察を提供する。現在、RFPや調達プロセスに関する可視性はバイヤーだけが持っている。
スワミナサン氏は「例えば、ネットワーク内でどれくらいの取引が特定のサプライヤーの推薦につながったのかをサプライヤーが把握できるようになり、それに基づいて自分のプロフィールを調整できるようになる」と述べた。
「例えば、バイヤーに選ばれない理由は、適切なサステナビリティ証明書を持っていないためかもしれない。このような洞察を得ることで、サプライヤーはネットワークと良好な関係を築くためにどのように行動すべきかをより適切に理解できるようになる」(スワミナサン氏)
Promoteはサブスクリプションサービスで、2025年の第1四半期に利用可能になると予想されている。価格は未定だ。
調査企業であるConstellation Researchのレイ・ワン氏(アナリスト)は「調達は生成AIを活用しやすい領域の一つであり、SAP Aribaに追加された機能は、顧客のサステナビリティや契約の効率化、買い手とサプライヤーの関係管理に役立つだろう」と述べた。
ワン氏によると、Ariba Intake Managementは特に理にかなっているという。
「SAP Aribaを活用して実施される取引の量を考えると、オンボーディングを改善するための取り組みは全て役立つだろう」(ワン氏)
業界分析サービスを提供するDiginomicaのジョン・リード氏(アナリスト兼共同創設者)は「Intelligent Spendのアプリケーションにおける生成AI機能は注目を集めるだろうが、顧客はそれらに慎重に取り組むべきだ」と述べた。
「生成AIは安価ではない。また、生成AIに関するSAPの価格設定は必ずしも理解しやすいものではない。生成AIを活用して優れた結果を得るためには、実際のプロジェクトで顧客データがどのように機能するかを確認する必要がある。調達や支出は企業内で多くのプロセスを伴う分野だ。オートメーションへの移行や、カジュアルユーザーやネットワーク外の新しいサプライヤー向けに使いやすさを向上させることは、正しい方向への進展だ」(リード氏)
また、リード氏は「仮にSAPの支出管理やBusiness Network向けの生成AI機能が顧客の目標達成を支援するのであれば、それらは歓迎されるだろう」とも述べた。
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