サプライチェーンにおけるAIの活用にはメリットとデメリットの両方が存在する。本記事ではそれぞれを5つずつ紹介する。
サプライチェーンにおけるAIの最も有望なユースケースとして、顧客の質問に答えたり、倉庫のレイアウトを最適化したりするといったことが挙げられる。しかし、こうしたユースケースには、潜在的な問題につながるものもある。例えば、機能していないチャットbotと対話することによって顧客は不満を募らせるかもしれない。
サプライチェーンでAIを活用することによる5つのメリットと5つのデメリットについて、詳しく学ぼう。
AIは、洞察の提供や顧客との対話などによってサプライチェーンの運用をさまざまな側面から改善する。AIはどのようにタスクを最適化するのだろうか。
AIはサプライチェーン全体の改善点を特定し、非効率な要素を削減するのに役立つ。
AIはサプライチェーンのプロセスを分析し、改善点を特定できるため、コストを削減し、特定のプロセスの完了時間を短縮できる。例えば、大量のデータを分析するような作業には、人間よりもAIの方が適しているかもしれない。
AIの活用によってデータ分析が可能となるため、サプライチェーンのプロセスに関する洞察を得られる。
例えば、ユーザーがデータをアップロードすると、AIは流通業者やメーカー、在庫などのデータを集計し、在庫数や調達材料の価格、商品の輸送に利用可能な運送業者などの情報を提供する。
このような可視性の向上は、配送追跡の改善、ボトルネックの迅速な特定、サプライチェーンの混乱の緩和をはじめとするさまざまな改善につながる。
また、AIの能力はサプライヤーとの関係の改善にも役立つ。なぜなら、サプライチェーンに関わる全ての人がより正確な情報をより迅速に受け取ることができ、サプライヤーとのコミュニケーションが円滑になるためだ。
AIのアルゴリズムはデータセットを比較し、傾向を特定し、それらの傾向の将来の動きを予測する。この機能により、ユーザーは顧客の行動や市場の将来をより正確に理解できるようになる。
例えば、予測分析の活用によって顧客の購買傾向を分析し、需要の急増が起こりそうなタイミングを特定できる。これによって適切な計画を立てられるようになる。
AIは、幾つかの異なる方法で倉庫の効率を最適化する。
AIは、棚の空間と作業者の動線を分析し、改善点を提案して倉庫の通路や床のレイアウトを最適化する。また、倉庫内の動きにおけるボトルネックを回避するために最適な在庫の保管場所を提案する。これによって作業者は注文をより迅速に処理できるようになる。
AIのアルゴリズムは、在庫データと需要データを比較して、企業が保管すべき在庫量を決定する。この分析によって在庫不足と過剰在庫を回避し、企業の経費削減と業務全体の運営改善を実現できる。
配送の可視化や利用可能な在庫数の増加などのAIによる利点は顧客体験の向上に役立つ。また、自然言語処理(NLP)の機能は顧客サービスの向上にも役立つ可能性がある。
NLP機能を備えたAI対応のチャットbotを活用することで、カスタマーサポートの窓口が閉じている営業時間外に顧客の質問に答えられるようになる。また、チャットbotは過去の購入履歴に基づいて製品を推薦することができ、消費者に役立つ情報となる可能性がある。
AIには落とし穴もある。ここでは、サプライチェーン業務にAIを利用することで起こる幾つかのデメリットと、それらを回避する方法を紹介する。
AIを導入するためには膨大な時間と費用が必要になる。サプライチェーンのエコシステムは複雑であり、AIを使用するにサプライチェーン全体のパートナーは専用のハードウェアを必要とする場合がある。
また、AI導入の初期段階においては、アプリケーションとデータソースの統合や、AIモデルのトレーニングをはじめとして、多くのメンテナンス作業が必要になる。
従業員はAIを使用するために適切な専門知識を持っていなければならない。そうでなければ問題が発生する可能性がある。不適切な入力やデータに関する誤った解釈は、サプライチェーン全体での不正確さを引き起こすなど、他の問題を生じさせる。
AIは急速に進化しているため、AIに必要な専門知識を持つ従業員を雇用するのは難しいかもしれない。AIを使えるように現在の従業員を訓練することも選択肢の一つだが、それには時間と費用がかかる。
また、従業員はAIに自分の仕事を奪われることを懸念しているため、研修に否定的な反応を示す可能性もある。
レガシーなインフラストラクチャはAIとの統合に適していない可能性があり、技術的な問題が生じる場合がある。
これらの潜在的な問題を避けるため、サプライチェーンのリーダーは自社の他のリーダーと協力して、AIを適用する最善の方法、全ての関連するソースからクリーンなデータを取り込む方法、システムの全面的な見直しが必要かどうかを決定する必要がある。
焦点は、データの可用性と品質の向上に置かれるべきであり、同時に混乱を最小限に抑え、企業の従業員や供給業者、顧客をはじめとするサプライチェーンに関与する全ての人にAIの使用がどのように影響を与えるかを考慮する必要がある。
組織のリーダーがテクノロジーを導入する前に潜在的な問題を考慮しない場合、AI によるデータセキュリティやプライバシーの問題で、企業データが危険にさらされる可能性がある。
例えば、顧客が特定の目的のために個人データを提供することに同意していても、そのデータをAIアプリケーションに提供し、顧客の同意していない方法で利用すると、顧客のプライバシーが侵害される。また、悪意のある人物がAIアプリケーションを標的にして機密データを盗み出す可能性もある。
サプライチェーンのリーダーは、他社のリーダーと協力し、こうした問題を防ぐための最善の戦略を検討する必要がある。例えば、データ保護担当者と協力し、データの使用方法やプライバシー権に関するルールを設定することが考えられる。
AIは従業員のスキルセットや顧客体験に悪影響を及ぼす可能性がある。
従業員がAIに頼って特定のタスクを遂行している場合、そのタスクを自分で実行する方法を知らないと、スキルギャップが生じる。例えば、AI技術が一時的に利用できなくなった場合、従業員は業務の一部を完了するためにトレーニングが必要になる場合がある。
さらに、チャットbotが顧客の質問に答えられなかったり、正しく機能しなかったりすると、顧客が不満を感じることがある。不満を持った顧客は、その悪い経験を理由に、別の会社から商品を購入することを決めるかもしれない。
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