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優秀な若手が辞め、中間層が闇落ちする職場

優秀な若手社員の成長は、企業の未来を大きく左右します。成長を求める彼らが魅力を感じる職場とは。離職の背景を解明し、若手が活躍し続けられる環境づくりのための具体的な改革案を成功事例から探ります。

» 2025年01月23日 08時00分 公開
[西脇 学DLDLab.]

 皆さん、こんちには。西脇 学です。フリーコンサルタントとして、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)成功への道筋を描くサポートをしています。

 「最近の若手は育たない」「すぐ辞める」なんて声を職場で聞くことはありませんか。実際のところ厚生労働省が2024年10月に発表した『新規学卒就職者の離職状況』によれば入社から3年経過した令和3年3月卒業者の3年以内離職率は、大卒で2.6ポイント、短大などで2ポイント、2023年比で上昇しています。辞めてしまうのは「根性がないから」と考える方もいるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。むしろ、仕事ができる優秀な若手ほど早く辞めてしまうと感じる人も多いのではないでしょうか。さらに、若手のサポートを担うはずの中間層が「闇落ち」しているケースも見られます。

 優秀な若手が離職してしまう背景には、コミュニケーションの問題だけでなく、組織の構造的な課題など、複数の要因が絡んでいます。本稿では、これらの要因を掘り下げて考察するとともに、解決策をさまざまな視点から提案していきたいと思います。

優秀な若手ほど辞めてしまう本当の理由とは?

 よくあるのは「厳しく接しすぎる職場」と「猫かわいがりしすぎる職場」どちらも極端なケースです。厳しくしすぎれば「自分には無理だ」となり、甘やかしすぎれば「ここでは成長できない」と感じて辞めてしまうのです。近年、パワハラ防止を意識するあまり、若手社員への対応が過剰に寛容になり、それが離職につながるケースが見られます。また、教育への意識不足や育成リソース(時間、人員、予算)の不足といった課題も、若手社員の定着を妨げる要因となっています。

教育不足がもたらす「厳しさ」の感覚

 「見て覚える」とか「自分でなんとかしろ」と言われると、若手社員はかなりのストレスを感じるケースもあります。かつては当たり前とされていたこれらの指導方法も、現在では「サポート不足」と受け取られることが少なくありません。

 特に、職場をキャリア形成の「学びの場」として期待する若手にとって、十分な成長支援が得られない環境は、「厳しい職場」として映るのです。逆に言えば、育成コストを惜しまず、若手に寄り添ったサポートをすることで「ここなら成長できる」と感じてもらえる傾向にあります。これは若手定着の大きなカギになります。

若手社員が選ぶ「成長できる職場」の魅力

 若手社員が「この職場で頑張りたい」と思うためには、自身の成長を信じられる環境が大切になります。近年、就活生の人気が高まっている企業にはさまざまな教育制度が用意されています。

  • 研修制度: 業務の基本から専門スキルまで、ステップアップを支援する場がある。従業員のキャリアビジョンとリンクした成長ロードマップを提示し、具体的なゴールとステップを明示している
  • メンター制度: 困ったときに相談できる年次の近い先輩がサポートしてくれる。憧れる気持ちを持ち、将来の自分の姿を想像できる
  • 自己啓発支援制度: 資格取得やスキルアップに積極的な姿勢を評価し、必要な費用の補助や手当支給といったサポートがある
  • 定期的なフィードバック: 1on1面談などでキャリアの方向性を一緒に考える取り組みをしている

若手の退職問題を「自分事」として捉えられない管理職

 若手社員の離職が止まらない背景には、管理職の関心の薄さもあると感じています。「辞めるのは若手の責任だ」「自分たちが若い頃はもっと厳しかった」と考える人は意外と多いものです。しかし、そのような姿勢では若手の離職を防ぐことはできません。むしろ、管理職が「どうすれば若手の離職を防げるのか」を自分ごととして捉え、真剣に向き合う必要があると私は思っています。

 特に、終身雇用が当たり前だった世代は、若手の価値観や働き方の違いを受け入れられず、「最近の若者は……」と“ひとくくり”にしてしまうことがあるかもしれません。しかし、こうした姿勢は、組織全体の崩壊につながる深刻な事態を招きかねない「デスロード」の入口となり得ます。

中間層の「闇落ち」――モチベーション低下とチーム崩壊の連鎖

 さらに厄介なのが中間層の「闇落ち」です。中間層は若手の育成と現場業務の両方を担うことが多く、さらにこれ以上責任が増える管理職にはなりたくないと考える人もいるでしょう。その結果、自分自身のキャリアや成長を諦めてしまうケースが見られます。この状態が続くと、現場全体のモチベーションが低下し、最終的には次のようなチーム全体の崩壊を引き起こす可能性があります。

  • 何でも自分でやってしまって、次の担い手を育てられない管理職
  • 上司を見て「出世したら損」と考える、闇落ちしてやる気が出せない中間層
  • 成長は「自己投資による自己解決」だと言う上司に当たってしまい、成長意欲があるのに阻害される若手社員

 管理職は若手だけでなく中間層のケアにも目を向け、全体のバランスを保ちながらチームが機能する状態をつくることが重要です。

“普通に”接することの重要性とは

 若手社員の離職対策では、特別扱いをしたり、逆に突き放したりするのではなく、「普通に接する」ことが最も重要だと考えています。過剰に期待して抜擢することも、簡単な仕事を与え続けることも逆効果です。適度な距離感を保ちながら、評価方法を事前に明確にして、年次にかかわらず公平に評価することが求められます。

 良い結果は素直に称賛し、悪い結果についても率直に伝えることで信頼関係を構築しましょう。さらに、改善が必要な場合は、そのための具体的な方法をともに考え、実行に向けたサポートを惜しまないことが重要です。

 つまり「普通に接する」とは組織の上司として振る舞うことではなく、同じ人間として向き合う姿勢を見せることだと言い換えられます。

 これだけでも若手社員の働きやすさは格段に上がります。職場で「話しやすい雰囲気」をつくることが大切です。以下で、若手社員が「話しやすい」と感じるポイントをお伝えします。

傾聴とフィードバックのバランス

 まずは若手社員の話をしっかり聞き、彼らの考え方や感じていることを理解することが大切です。その上でフィードバックをします。ただし、その際にこうあるべきだという「べき論」を一方的に押し付けたり、詰めよったりすることだけは避けてください。もしも「言っていて気持ちよく」なっていたら、それはフィードバックとして最悪であることのアラートです。

定期的な対話の場を設ける

 ランチなどで気軽に話せる場を用意します。重要なのはお互いにコミュニケーションを取りやすい状態をキープすることです。日常会話の中で相手の関心を引き出す質問を心掛けたり、共通点を見つける技術を磨いたりすることで、アイスブレークのトレーニングにもなります。

心理的安全性を確保する

 チーム内で意見や疑問を安心して共有できる環境、いわゆる「心理的安全性」が重要です。失敗を恐れず挑戦できる場があることで、若手社員は成長意欲を保ちやすくなるのです。これはチーム運営において最も重要なルールであり、難易度の高いことでもあります。あなたの上司はあなたにとって心理的安全性の高い人物ですか。そしてあなた自身は、若手社員からどのような人物に見えているでしょうか。

 若手社員に「この人には相談していいんだ」と思わせることが、離職防止につながります。少なくとも、相手に喋らせるだけ喋らせてからダメ出しだけを突きつけて放置するようなことはしないでください。

成功事例:若手が辞めない職場に変わる企業のツール活用

 現代の職場では、ツールの活用がコミュニケーションを円滑にする大きな助けになります。

社内SNS

 心理的安全性の確保に加え、リモート環境下でも帰属意識を持てる場を設けることが重要です。業務以外の話題も職場や自社への愛着を醸成する上で効果的であることを理解し、積極的に導入しましょう。自社製品やサービスについて従業員同士が立場をこえて消費者目線で話し合う場などが生まれるとベストです。コミュニティーはグループ化やそれに伴う対立が生じる可能性がありますが、これを防いで健全な方向性を保つために、全てのコミュニティーをオープンにし、「誹謗中傷は絶対に禁止」を厳守することが不可欠です。

オンライン会議ツール

 オンライン会議ツールは「会議大国日本」の仕事に欠かせないミーティングシステムですが、会議だけではなく「自由相談」の時間を設定することで社内の情報流通速度を向上させられます。この取り組みによって、物理オフィスで先輩に「ちょっといいですか?」と言う“アレ”がネット越しでも可能になります。

フィードバック管理ツール

 目標や評価をシステム化し、明確化するHRテックサービスですが、最も有効な使い方は、上司が1on1前に前回の会話を復習するツールとしての役割です。また、評価基準について評価前に話し合い、相互理解を深める場を設けることで、エンゲージメント強化に役立つツールとなっています。

 これらのツールを使えば、若手社員が感じる「疎外感」や「孤立感」を軽減できます。

若手社員が「成長」と「働きがい」を感じられる取り組み事例

 ここで改めて、若手社員が「成長」と「働きがい」を感じられる取り組みが充実している企業の事例を紹介します。

  • スキルアップ支援プログラム: 「成長」をダイレクトに実感できる環境を提供するため、研修費用や外部講座の受講を会社が積極的にサポートし、結果として従業員の求人市場価値を高める。
  • 透明性のある評価制度: 何を基準に評価されているのかの「評価基準」を全社にオープンにする。前項のスキルアップも評価基準の一つとすることで市場価値と社内価値のギャップを回避する。
  • 定期的なキャリア相談: キャリアコンサルティングのような面談で、定期的に将来像を一緒に描く機会を設ける。社内でキャリア相談を定期的に実施することによって、外部のキャリア相談に頼る必要がなくなる。採用担当者は最新の市場状況を社内にフィードバックすることで、従業員が自身の市場価値を把握しやすくなり、キャリア形成の指針として活用できるようになる。

 こうした仕組みを整えることで、若手社員が「自分は会社に評価され、大切にされている」と感じやすくなります。モチベーションの向上やエンゲージメントの強化が期待でき、結果として若手社員の定着率や成長意欲の向上にもつながります。

若手社員が活躍し続けるための企業の方向性

 若手社員が辞めずに活躍し続ける職場を実現するには、「成長できる環境」を提供し、心理的安全性のある職場文化を育むことが欠かせません。そのためには、研修やメンター制度を整備し、評価やフィードバックを透明性の高い状態で運用することで、若手社員の満足度を高めることが重要です。

 管理職や中間層が若手社員の課題を「自分事」として捉え、チーム全体で若手を支える姿勢を持つことも求められます。若手社員が育てば中間層の負担が軽減され、管理職や経営層が戦略的な業務に専念できるようになります。こうして良いループが回り始めることで、企業は持続的な成長を実現できるのです。

 変革は未来へ向けた一歩から。まずは小さな改善から始め、働きやすい職場を目指して取り組みを進めていきましょう。

著者プロフィール:西脇 学(DLDLab. 代表)

 大学卒業後は電源開発の情報システム部門およびグループ会社である開発計算センターにて、ホストコンピュータシステム、オープン系クライアント・サーバシステム、Webシステムの開発、BPRコンサルティング・ERP導入コンサルティングのプロジェクトに従事。

 2005年より、ケイビーエムジェイ(現、アピリッツ)にてWebサービスの企画導入コンサルティングを中心に様々なビジネスサイトの立ち上げに参画。特に当時同社が得意としていた人材サービスサイトはそのほとんどに参画するなど、導入・運用コンサルティング実績は多数に渡る。2014年からWebセグメント執行役員。2021年の同社上場に執行役員CDXO(最高DX責任者)として寄与。

 現在はDLDLab.(ディーエルディーラボ)を設立し、企業顧問として、有効でムダ無く自立発展できるDXを推進している。共著に『集客PRのためのソーシャルアプリ戦略』(秀和システム、2011年7月)がある。

Twitter:@DLDLab


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