星野リゾートでは、データ分析に取り組むための人材確保や基盤整備が十分に進んでいなかった。そこで、データ分析を専門とする人材が入社し、社内の協力者を募りながらチームを形づくっていった。
国内外に75の宿泊施設を展開する星野リゾートには、少し前までデータ分析を専門とする人材がいなかった。「Tableau」の利用者こそいたものの、本格的なデータ分析基盤は整っておらず、データエンジニアも不在だった。
データ分析業務には手作業が多く、改善の必要性を強く感じていた。同社には、スペシャリストやデータエンジニアに加え、データ分析業務を継続的に続けるための社内体制が求められていた。
そんな折に、2024年6月、データ人材として木村いずみ氏(情報システムグループ ITサービスマネジメントユニット)が入社した。木村氏はコンサルタントとしてキャリアをスタートさせた後、Tableauを知ってデータアナリストになった。その後、データ分析を推進する木村氏がリードし、社内でデータ人材を拡充していく体制づくりが進められた。
木村さんはそこから、星野リゾートでデータ人材の仲間を増やしていくことになった。
木村さんが入社した当時、星野リゾートではマーケティンググループがTableauライセンスを最も多く持っていた。そこから差をつけて情報システムグループと経営企画がTableauを使っているという状況だった。
しかし、マーケティンググループにも専門家がいるわけではなく、分からないことがあれば調べて対応するレベル感だったという。木村さんはまずマーケティンググループでデータ人材を育成し、全社展開するプランを考えた。しかしこの計画は早々に“ボツ”になる。
「進めていくうちに大きな課題に直面しました。まず、マーケティンググループに話を持って行ったところ、断られてしまいました。後で話を伺うといろいろ事情があったことが分かりましたが、当時の私としては、これしかないだろうと思っていたプランが急に白紙になってしまったので、この後どうしたらいいのかという状況になっていました」
もう一つの課題はデータ分析環境の不足だった。当時の星野リゾートには分析に適した“ちゃんとした”データ分析基盤がなく、データエンジニアもいないため、欲しいデータを求めることもできず、「Microsoft Excel」で手作業で分析するしかなかった。
そこで木村さんは、情報システムグループで仲間を増やすことにした。具体的にはTableauコミュニティの認定制度「DATA Saber」を使った。DATA Saberには、3か月以内に所定の課題をクリアすることでなれる。公式Webサイトでは「データを通して世界を理解し、それを人に正しく伝える努力を怠らず、 人の心を動かし、行動を促す。これがDATA Saber」とされている。
「ただ、DATA Saberは90日間で最低でも200時間学習が必要といわれているくらいハードなプログラムですし、そもそもTableauを業務で使っている人がほとんどいない状態で本当に申し込んでくれる人がいるだろうかという不安なありました。とはいえ大胆に動かないと何も変わらないなと思って募集してみたところ、めでたく3人のDATA Saberが誕生しました」
DATA Saberがいることで社内でTableauの勉強会が開かれてTableauで何ができるのかという認知が広がり、データ分析に関する相談が集まるようになった。DATA Saberになった3人はデータ活用の推進やダッシュボードの構築、第二期のDATA Saber募集など精力的に活動しているという。
仲間が3人増えたところで、次の課題はデータ分析環境の整備だった。星野リゾートはデータ分析支援などを手掛けるprimeNumberに協力を仰ぎ、基盤構築プロジェクトを立ち上げた。
残る課題はデータエンジニアの確保だ。そこで現れたのがDATA Saberになった岡田敦さん(情報システムグループ テクノロジー研究開発ユニット)だ。木村さんと岡田さんはユニットの壁を超えてデータ分析チームを構築した。
「仲間が増えたといっても、社内のデータ活用の推進を業務として責任を持って推進するという点では、どこか1人のままだったっていうところから、同じ目標を同じ熱量で目指す仲間が増えたというタイミングでもあったので、すごく印象深い出来事として覚えてています」(木村さん)
岡田さんはもともとWebやインフラなど、広く浅くやるエンジニアだったという。社内のデータを集めて戦略を考える経営企画室とやりとりする中で、課題を感じるようになった。
「とにかく社内データがカオスだと感じました。データ集めてくるのも大変だし、従業員が言っていることとデータが合わないとという本当にカオスな状況に、日々絶望している状況でした」
DATA Saberの認定に挑戦する中で、岡田さんは「自分が社内データを整備していかなきゃいけない」という使命感を持つようになったという。
「ITエンジニアの中には技術をゴリゴリやっていきたいという人も多いと思います。僕はどちらかというととにかく目の前の課題を技術の力で解決していきたいという思いが強い人間で、整理整頓が好きな性格でもあります。そういう人がもし周りにいるなら、DATA Saberになってみないかと言ってみてください」
こうしてできたデータ分析チームのミッションは「スタッフ一人一人がデータを使って高度な意思決定ができるようにすること」になった。具体的な行動としては人材育成とデータ分析基盤の拡大だ。
星野リゾートには宿泊管理システムやPOSシステム、人事システム、会計管理システムなどがあるが、データは分散している状態だった。一部で使っていたTableauもパフォーマンスを出しにくいシステム構成になっていた。これをprimeNumberの支援で解消した。
その後目まぐるしく変化する環境に適応するため内製化をし、星野リゾートとして自走できるようにした。内製化によりデータソースの追加と保守も迅速になった。
今後について岡田さんは、圧倒的なリソース不足であるとしながらも目の前にあるデータに向き合っていくという。
これらの取り組みの結果、当初はほとんどマーケティンググループしか使っていなかったTableauが、宿泊施設でも使われるようになってきた。DATA Saberを増やす活動も継続しており、第3期の募集では宿泊施設のスタッフも含めた10人が認定制度への申し込みをした。
木村さんは「現地スタッフにDATA Saberがいたら、ものすごい爆発力になるんじゃないか」と期待感を示している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。