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「高いから移行したい」では失敗する これだけある脱VMwareの盲点

VMware製品のラインアップが刷新され、今、多くの企業で仮想化基盤の再構築が検討されている。コストアップにつながる恐れもあることから、VMware製品から離れようと考える企業もあるが、潜在的なリスクも勘案した上で慎重に進めたい。

» 2025年01月31日 07時00分 公開
[齋藤公二インサイト合同会社]

 BroadcomによるVMware買収を受けて、VMware製品から「Hyper-V」やHCIなどへ移行するか、もしくは利用を継続するかの議論が続いている。移行する場合、利用範囲や目的、自社のIT戦略にマッチした代替策を検討する必要がある。また、他製品へ移行するとなればアプリケーションの改修やシステムの再構築が必要なケースもある。こうした移行に伴う総コストを見積もり、生じるリスクを踏まえた上で移行するかどうかを判断しなければならない。

 キヤノンマーケティングジャパングループのITシステム企業であるTCSの大島靖雄氏(システムエンジニア)は「VMware製品移行において顕在化している課題はほんの一部にすぎない。課題は想像以上にある」と言う。本稿では、同氏の解説を基に、ライセンス変更のポイントとエディションの最適な選択方法、表面化していない移行課題など、VMware製品移行に関するポイントをまとめた。

VMwareライセンス変更でコストに響く3つの変更点をおさらい

 エディションやライセンス体系が大幅に刷新されたことでライセンスコストが大きく増加するケースが見られ、今の仮想化基盤を継続するか移行するかの判断が急務だ。大島氏は、コストに響く3つの変更点を挙げた。

 1つ目は永久ライセンスがサブスクリプションに変更になり、1年、3年、5年のいずれかでの一括払いになったこと。2つ目は、物理CPUに対する課金から物理コア課金に変更されたことだ。1CPU 16コアが最低購入数となり、これより低い数のコアでも16コア分から購入する必要がある。そして3つ目が、これまでは使いたい機能に合わせてユーザー側でコントロールできたが、機能が統合され選択肢が強制されるエディションになったことだ。

図1 コストに響く大幅な変更(出典:TCS提供の資料)

 CPUについては、1CPU 12コアであっても16コア分のライセンスが必要になる。16コア以上は1コア単位で購入でき、1CPU 20コアの場合、20コア分のライセンスとなる。2CPUの場合、12コアであっても16コア分になるので、32コア(2CPU16コア)分のライセンスが必要になる。

図2 CPU単位からCore単位のライセンスに変更(出典:TCS提供の資料)

 エディションについては「vSphere Standard」(VVS)、「vSphere Enterprise Plus」(VEP)、「vSphere Foundation」(VVF)、「vSphere Cloud Foundation」(VCF)の4つに統合された。利用する機能を単体では選べず、必要な機能が含まれるエディションを選択しなければならない。NSXやHCXはハイブリッドクラウド向けのVCFでしか利用できない。

 これに関連して、vSANのライセンスもCPUやコア単位からキャパシティー単位に変更された。バンドル容量とアドオン容量があり、VVFの場合、コア当たり0.25TiBのバンドル容量に不足分をアドオン容量として1TiB単位で購入することになる。VCFの場合は、コア当たり1TiBのバンドル容量がある。ユーザーは現状のシステムをコアで計算し、容量が足りない場合、不足分をアドオンで追加しなければならない。

図3 CPU/Core単位からキャパシティー単位のライセンスに変更(出典:TCS提供の資料)

今ある脱VMware課題は「ほんの一部」 想像以上にある移行課題

 アドオンが追加できるかどうかはエディションごとで制約がある。ユーザーにとって機能追加がコントローラブルでなくなったということだ。その他、販売チャネルの変更に伴って保守窓口が変更されることや、VMwareのOEM製品が終売になることも懸念点として挙がる。また、一部製品の提供終了や商流が変更になり間接的に値上げが発生する場合もある。

 VMware製品の4つのエディションの選択基準だが、必要な機能を基にエディションを選択し、不足分をアドオンするというのが基本的な考え方となる。大まかな目安として、DRSとvGPU、vSAN、Kubernetes、NSXが必要かどうかで絞り込むといいだろう。具体的には、DRSやvGPUが不要ならVVS、vSANやKubernetesが不要ならVEP、NSXが不要ならVCFとなる。

図4 エディション比較(出典:TCS提供の資料)
図5 エディション選択の目安(出典:TCS提供の資料)

 多くの企業が「脱VMware」か「続VMware」の検討を本格化させている。大島氏によると、コストを優先して「高いから変えたい」と企業が考える一方で、「どうせ変えるなら良いものを」という考えもある。実際に「インフラやセキュリティを見直すチャンス」「オンプレかクラウドかだけでなく、ハイブリッドも検討したい」「実際に何を検討すればよいのか」といった声が挙がっているという。

 VMware製品を使い続ける際の必要コストや今後の製品ロードマップへの不安などは表面化しているが、潜在化している課題はそれ以上に多いという。

 大島氏によると、コストだけで移行を検討すると余計にコストがかかる場合があるという。また、本来目指していた姿が見えにくくなるケースもある。脱VMwareを検討する際は、移行プロセスや副次的コスト、運用や機能の互換性、セキュリティ移行性、スキルと学習などの要素を検討することが重要だ。

移行に伴う副次的コストを把握することも重要

 VMware製品の代替として、オンプレミスではHyper-Vの他、「Azure Stack HCI」「Proxmox」や「OpenShift Virtulizaiton」などの選択肢が考えられる。クラウシフトする場合は「Amazon Web Services」や「Microsoft Azure」、VMwareおよびNutanix製品をベースとした環境、その他「Oracle Cloud VMware Solution」などが選択肢として挙げられる。移行方法としては、V2V(Virtual to Virtual)ツールの利用や移行期間、移行時に生じるダウンタイムの許容時間も確認する必要がある。

 システムを支えるインフラが変わればアプリケーションの改修やハードウェアの構成費用も発生する。HCIの場合、データ同期に10Gbや25Gbのネットワークが求められるので、ネットワークスイッチの費用がかかる場合もある。

 また、ライセンス形態の変更も考慮する必要がある。クラウドに移行する場合は、クラウド間またはクラウドからオンプレミスへのデータ通信コストがかかるため、ランニングコストやリソース利用時のコストを試算ツールで事前に見積もっておくことが重要だ。

 移行先を検討する上で、運用面で考慮すべきポイントとして、次の項目が考えられる。

  • バックアップソフトが対応しているか
  • ディザスタリカバリーの仕組みや実装に変更が生じるか
  • 運用スクリプトを改修する必要があるか
  • 監視ツールはそのまま使えるか
  • 可視化または可観測性が維持できるか
  • セキュリティ対策を変える必要はないか

 機能面では「VMware HA」「vMotion」「Storage vMotion」DRS、vDSなどの代替機能が提供されているかどうかを確認する必要がある。vSANを利用している場合、圧縮または重複排除などのデータ削減機能が提供されているかどうかも注意すべき点だ。

 セキュリティ面では、ロールベースアクセス制御および認証、マイクロセグメンテーション、ネットワーク分離、監視とコンプライアンス、データ暗号化、ログ管理、パッチ管理などをどう実施するかも検討すべきだろう。

「隠れている考慮事項」を可視化し、課題化することが重要

 外部に運用を委託している場合、移行製品のスキルを学習する必要がある。自社で運用する場合、運用スキルの学習や、ベンダーが提供するトレーニングがあるかどうかも確認したい。また、コマンドラインインタフェースに抵抗はないかなども確認しておく必要がある。

 これらの確認ポイントを押さえながらスムーズに脱VMwareを支援するために、TCSでは複雑化するITインフラ基盤を最適化するための「ITインフラ基盤最適化診断サービス」を提供している。環境情報を基に生じ得る課題や対応方針をヒアリングし、移行前のアセスメントを実施する。現状を把握して、あるべき姿と目的、ゴールを共有しながら、導入計画と基盤導入、移行、運用を支援する。

 大島氏は、表面化している問題だけでなく潜在化している「隠れている考慮事項」を可視化し、顕在化することが脱/続VMwareの大きなポイントだという。

本稿はTCS主催のウェビナー「VMware導入企業が悩む『継続or移行』、自組織の最適な選択をどう見極めればいいのか? 〜ブロードコムの買収で迫られる『ITインフラ戦略』再考、失敗しない実践方法を紹介〜」の講演内容を基に、編集部で再構成した。

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