最近バズワード化している「AIエージェント」。AIエージェントとRPAを組み合わせることで何ができるのか。UiPathの講演で紹介されたユースケースを見てみよう。
自律的に計画して意思決定し、タスクを実行する「AIエージェント」の登場で業務自動化はどう変わるのか。2025年は「AIエージェント」の活用元年になるとの見方もある中、ソフトウェアベンダーがAIエージェント製品を相次いで発表している。
RPA(Robotic Process Automation)を中心に業務自動化に取り組んできたUiPathは近年、AIを活用した業務自動化を打ち出しており、2024年11月にはAIエージェントを活用する新戦略「エージェンティックオートメーション」を発表した。
「AIエージェントの進化によってRPAがなくなるとは考えていません」と同社の夏目 健氏(プロダクトマーケティング部 部長)は話すが、ではUiPathが描くAIエージェント登場後の業務自動化の世界はどういうものか。
RPAは大量の定型作業の自動化に向いており、単体では自動化が難しい作業も存在するが、AIエージェントと組み合わせることでどの業務がどのように自動化されるのか。AIエージェントとRPAを組み合わせた自動化のユースケースを中心に、夏目氏の講演内容を紹介する。
本稿は、UiPathの自社主催イベント「AIオートメーションフォーラム2024」(2024年12月4日開催)で「新時代のオートメーションを実現するエージェンティックオートメーションと最新機能」をテーマにUiPathの夏目 健氏(プロダクトマーケティング部 部長)が講演した内容を編集部が再構成したものです。
夏目氏によると、エージェンティックオートメーションとは、RPAとAIエージェントを組み合わせて実現するエンドツーエンドのような幅広い自動化を指す。
夏目氏は、AIエージェントを「さまざまなAI技術、モデル、アプローチを組み合わせることでデータを分析して目的やゴールを設定し、人に代わってすべきことを自律的に計画し、計画に基づいてアクションし、フィードバックで自身を改善していくシステム」と定義し、「旅行手配エージェント」を例に説明した。
旅行手配エージェントは、交通手段や宿泊場所の調査や手続きを実施するAIエージェントで、その手順は次の通りだ。
旅行手配エージェントは、出張する従業員の情報や企業における出張に関する規定を踏まえて適したホテルや交通手段を検索し、候補を提示して手配まで実施する。実行結果にフィードバックされたデータを蓄積して提案を改善するため、「従業員の好みを考慮した提案や対応範囲の拡大が期待できます」(夏目氏)
AIエージェントの活用シーンとして他に挙がったのが、「勘定科目の分類」「請求書と発注書の照合」「ロジスティクスの最適化」「ヘルプデスクのサポート」の4つだ。
AIエージェントの活用が今後本格化すると見られる中で、UiPathが打ち出す製品戦略が「エージェンティックオートメーション」だ。エージェンティックオートメーションとは、RPAとAIエージェントを組み合わせたエンドツーエンドのような幅広い自動化を指す。
夏目氏は、これからの業務自動化はRPAのロボットとAIエージェントが共存、協力して実現するだろうと予測する。RPAのロボットが定型作業の自動化を得意とするのに対し、AIエージェントは柔軟性が求められる業務を自律的に判断してアクションすることに適している。
「AIエージェントの進化によってRPAがなくなるとは考えていません。業務自動化の未来の形として、RPAのロボットとAIエージェントがそれぞれ得意とする役割を担っていく世界をイメージしています」(夏目氏)
夏目氏は、エージェンティックオートメーションを「請求書のチェックと突合処理の自動化」を例にして次のように説明した。
2と3の間に発生する発注データと請求データを突合する作業と、その際発見された不一致を解決する作業
「AIエージェントは不一致項目を検出したり、Web検索や社内データを確認して製品名の不一致の読み替え可否を判断したりします。このとき、AIエージェントが判断した内容を人が確認し、AIエージェントにフィードバックするプロセスが重要です。AIエージェントがサプライヤーに電子メールで連絡したり、過去の会話やメモの履歴を確認したりして、不一致項目を解決することも可能です」(夏目氏)
さらに夏目氏は、エージェンティックオートメーションを活用したユースケースは、今後多くの業種や業務に広がる可能性があると指摘する。
「AIエージェントを組み合わせることで、カスタマーサービスにおける顧客の問い合わせ対応や、製造業における生産ラインの監視やメンテナンスの予測といったRPAだけでは自動化が難しかった業務の自動化が可能になるでしょう」(夏目氏)
夏目氏は、エージェンティックオートメーションを実現するUiPath製品群の中から、AIエージェントを開発する「UiPath Agent Builder」(以下、Agent Builder。2025年にプレビュー版の一般公開を予定)を取り上げて解説した。
Agent Builderを使うことで自社に適したAIエージェントを開発できるという。その際に重要なのが、「プロンプト」「ツール」「コンテキスト」「エスカレーション」の4つの要素だ。
プロンプトは開発するAIエージェントの役割や目的、制限などを自然言語で定義する。RPAの開発ではアクティビティを1つずつ並べてアクションを細かく定義する必要があるのに対し、Agent Builderは自然言語のみで定義できる。
ツールはAIエージェントが実行する内容を定義する。プレビュー版には「自動化アクティビティ」「自動化プロセス」「エージェント」の3つのアクションが用意されている。
UiPathが提供する自動化アクティビティはAPIを通じて各製品やサービスに接続する。自動化プロセスは、ユーザーや組織が既に開発して保有している、またはUiPathが提供する自動化プロセスを指し、AIエージェントが呼び出して実行する。
「自動化アクティビティと自動化プロセスによって、さまざまなシステムやアプリケーションに対してAPI連携を実行したり、GUI操作を実施したりすることが可能になります。こうしたAPI連携やGUI操作による自動化はUiPathの得意とするところであり、これまで培ってきたオートメーション技術を生かせると考えています」(夏目氏)
エージェントはユーザーや組織が既に開発した、またはUiPathが提供するAIエージェントを指す。これをAIエージェントが「子プロセス」として呼び出して実行する。
夏目氏は、「AIエージェントが何を実行するのか」を定義するツールは、AIエージェントを開発する上で重要だと強調する。
「現在、各ソフトウェアベンダーのAIエージェントに関する取り組みでは、自社の製品内でアクションを実行するAIエージェントの開発が主流です。一方でAgent Builderでは、日常業務で使う幅広いシステムやアプリケーションへのアクションを実行するAIエージェントの開発が可能です」(夏目氏)
コンテキストはRAG(検索拡張生成)の活用で検索可能になった社内情報を生かし、自社独自のビジネスルール、専門的知識などを生かしたAIエージェントを開発する。
「会社のポリシー文書や過去の発注書、対応事例、技術情報などを理解する価値の高いAIエージェントを開発できます」(夏目氏)
エスカレーションは、AIエージェントだけでは判断が難しいケースや最終的なチェックを人に任せたいケースなど、人の支援を必要とする際に判断を仰ぐ相手を指定できる。
サプライヤーの情報を検索しても電子メールのアドレスが見つからない場合、あらかじめ指定した人に自動で通知してサポートを求められる。「人によるサポートをうまく組み込むことで、対応が困難な場面でも確実に業務を進められます」(夏目氏)
エージェンティックオートメーションを実現するUiPath製品には、Agent Builderの他に対話型AIエージェント「Autopilot for Everyone」や自動化ワークフローの自己修復エージェント「Healing Agent」がある。
Autopilot for Everyoneは、個人レベルのタスクを自然言語によって自動化するのに適したソリューションだ。Healing Agentは、GUIの変化などでRPAのロボット実行時にエラーが発生した際に原因を解析してロボットを自動で修正する。
他にも、AIエージェントのテンプレート「Agent Catalog」や多くの要素を調整して実行する上で必要な計画や設定、学習を担う「Agent Service」、プライバシーを保護し、セキュリティやガバナンスを担保してプラットフォーム上でAIを管理・統制する「AI Trust Layer」といったソリューションが用意されている。
「エンドツーエンドのような幅広い自動化の実現では、APIやGUIを操作できるAIエージェントの活用が重要です。UiPathは生成AI機能を展開する中で、セキュリティやガバナンスを確保する仕組みを整備しています。これらをAIエージェントの世界にも広げ、AIエージェントやロボット、人、さまざまなAIモデルを組み合わせた幅広い自動化の実現を目指します」(夏目氏)
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