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AIエージェントで進化するNotion 競合サービスとの違いは?――Notion CEOが語る製品哲学とAIの未来

Notionの共同創業者兼CEOのアイバン・ザオ氏に、AIを軸とした今後の展開について聞いた。

» 2025年03月07日 08時00分 公開
[平 行男, 溝田萌里合同会社スクライブ]

 Notionは、メモや文書作成、プロジェクト管理、ナレッジベースの構築など、ビジネスに必要な機能を一つにまとめた多機能ツールだ。ブロックを組み合わせるように機能を柔軟にカスタマイズできる設計が特徴で、「レゴブロックのように自在に構築できる」ことを重視して開発されてきた。2025年には、そのツールの一つとして「AIエージェント」が加わる予定だ。

 AIエージェントは、自律的にタスクを実行する機能として、多くの企業が開発・提供を進めており、2025年は「AIエージェント元年」とも言われ、普及の兆しが見えている。競争が激化する中で、NotionのAIエージェントは何が違うのか。さらに、同社は2025年に「Notion Mail」の一般提供も予定しており、その展開にも注目が集まる。

 Notionの共同創業者兼CEOのアイバン・ザオ氏に、AIを軸とした今後の展開について聞いた。

AIエージェントで進化するNotion 競合サービスとの違いは?

――AIに関する2025年の取り組みを教えてください。

 Notionには「Notion AI」というAI機能がありますが、2025年はAIエージェントをリリースする予定です。Notionを使ってAIエージェントを作り上げることが可能になります。Notionの導入企業はAIエージェントによってビジネスプロセスの一部を自動化でき、利用するツール数を減らすこともできます。結果として、コストと時間の両方を節約できます。

――AIエージェントというのは具体的にどのようなものですか?

 現在、Notion社内では20種類のAIエージェントが稼働しています。その中から代表的な2つの活用例をご紹介しましょう。

 1つ目は、社内ITサポートを効率化するエージェントです。従来、従業員からの問い合わせにはITチームのメンバーが手作業で対応していましたが、AIがこれを自動化しました。問い合わせを受けると、エージェントが内容を分析し、適切なカテゴリー分類やステータス管理を実施します。さらに、課題が解決されたかどうかの確認まで自動的に実行するため、ITチームは本来の技術的な課題解決により多くの時間を割けるようになりました。

 もう一つは、私の情報収集をサポートしてくれるエージェントです。このエージェントは私にとって必要な情報を自動的に収集し、要点をまとめたレポートを作成してくれます。この仕事を任せていた私のアシスタントは、定型的な情報収集から解放され、より戦略的な業務に注力できるようになりました。

――他社のAIエージェントとの違いは何でしょうか?

 最大の違いは、Notionのレゴブロック的な特徴がいきている点です。レゴブロックは1個1個はシンプルですが、非常にパワフルで何でも作れます。基本のビルディングブロックであるため、どのような組み合わせでもおもちゃを自由に作り上げられる。Notionも同様の概念で作られています。だからこそ、シンプルでありながら多機能なのです。

 AIエージェントも、Notionというレゴブロックに加わった特別なツールです。他社のAIエージェントの多くは、カスタマーサポートなど、特定の領域に特化して作られています。一方、Notionのエージェントは、ユーザーが必要とする機能を自由に組み合わせて作り上げられます。

 組み合わせられる柔軟性があるため、より汎用的なエージェントを作ることが可能です。ユーザーは自分の業務や目的に合わせて、好きな範囲で好きな作業を行うエージェントを作れるのです。

――社内での活用事例は他にありますか?

 Notion社内では実際に2、3の職種において、新たな人材を雇用する代わりにAIエージェントで役割を補完することに成功しています。ただし、これはまだ最新の技術であり、現在アーリーアダプターのお客さまとともにテストを進めている段階です。具体的な効果の検証結果については、2025年中には共有できる見込みです。

京都発、匠の精神を継承

――Notionのレゴブロックのようなコンセプトは、どのように生まれたのでしょうか?

 実はレゴブロックは、子供の頃から私のお気に入りのおもちゃだったんです。私は17歳の時に母と共にカナダに移住し、ブリティッシュコロンビア大学で認知科学を学んだ後、2013年にNotionを立ち上げました。

 当時私たちが目指したのは、レゴブロックでできることをソフトウェアで実現することでした。コンピュータを使う誰もが自分自身のソフトウェアを構築できるツールを提供するという、それが私たちのミッションでした。

 しかし会社設立後しばらくして、何かが足りないと感じ始めました。そこで共同創業者と私は原点に立ち返ることにしました。そして「足りない何か」を探し求めて京都に長期滞在したのです。

――京都での滞在は、製品開発にどのように反映されましたか?

 京都の匠の技にとてもインスピレーションを受けました。匠が作った製品や商品は、見た目も美しく、触り心地も非常に良いと感じました。漆器の箱などの伝統工芸品はもちろん、おそばやおすしでさえ、作る時、盛り付ける時、ものすごく繊細に気を使って作られています。あらゆるものがディテールにこだわって作られているのを感じます。

 そういった匠の技で作られる物は数が限られていて大量生産できません。それに対してソフトウェアは、どんどんコピーができるし、スケールも拡大できる。本当に美しく使い勝手のいいソフトウェアを作って、皆さんに使っていただくというアイデアでNotionが生まれました。

――その世界観は今も大切にされているのですか?

 もちろんです。私たちのプロダクトはもちろん、オフィスも私たちの精神を反映したデザインになっています。私たちはシンプルで美しく使いやすいものを尊重しています。例えばオフィスの中の会議室にも、ソニーのトランジスターラジオやホンダシビックといった、日本の優れた製品の名前を付けているんですよ。

ブロックのように組み合わせて実現する自由な働き方

――レゴブロックの概念は、どのように製品に生かされているのでしょうか?

 私たちのお客さまは、自分たちが抱えているビジネスの問題を解決するために、Notionというブロックを使って素晴らしいソリューションを生み出せます。

 現在、世の中は新しいソフトウェアで溢れ返っています。アメリカの平均的な企業では、1社につき80種類以上のツールが使われていると言われます。しかしそれらは柔軟性に乏しく、相互の連携も十分とは言えません。そのような状況は持続可能なものとは思えません。

 そこで私たちは、レゴブロックのように使える柔軟なソフトウェアを提供することで、お客さま自身が最適なソリューションを構築できる環境を創造してきました。これこそが、他のソフトウェア企業とNotionを分かつ最大の特徴だと考えています。

――競合は意識していますか?

 競合のことは常に注目していますけれども、社内で私たちが言っていることは、特定のソリューションと競うことはしないという方針です。例えばレゴは、特定のおもちゃと競合していませんよね。それと同じです。

 このNotionを使えば、お客さまのビジネスの問題に対して、完璧なソリューションを作り上げられます。これが私たちの競合優位性です。

――企業には、Notionだけを使ってほしいですか? それとも他のツールと組み合わせて使ってほしいのですか?

 もちろん、私たちは他の多くのツールと共存する考えです。NotionとMicrosoftやGoogleは共存していますし、「Slack」や「Microsoft Teams」との連携も重視しています。「Salesforce」や「Jira」など、私たちが競合しない分野のツールとは積極的に連携を図っていきます。

2025年は「Notion Mail」も公開

――2025年はどのような新サービスを予定していますか?

 2025年には「Notion Mail」をお客さまにご利用いただけるようになります。2024年11月にプレビュー版をリリースし、現在お客さまにテストしていただいているところです。2025年の早い段階で一般公開する予定です。

――Notion Mailの特徴を教えてください。

 Notionと同じレゴの哲学を適用したメールサービスです。メールの受信箱には、ユーザーごとに異なるワークフローが存在します。私のCEOとしての受信箱の使い方は、ジャーナリストの方々とは異なるでしょう。それぞれの立場や役割に応じて、必要な情報の取り扱い方が違うのです。そのような個々の使い方に沿った最適なワークフローを設計できるメールサービスです。

 例えば、営業担当者であれば受信箱にマーケティングオートメーションツールを統合して、継続的な作業フローを構築したいかもしれません。Notion Mailなら、そういった柔軟な使い方が可能になります。現在、アーリーアクセスのユーザーたちが「YouTube」でNotion Mailのさまざまな活用事例を公開していますので、ぜひ見てみてください。

日本市場でNotionが求められる理由

――日本市場での展開について教えてください。

 ビジネスという観点から言えば、より多くのエンタープライズ企業を獲得していきたいと考えています。だからこそ私は日本に来て多くのお客さまにお会いしているのです。日本の顧客が求める、「Microsoft Teams」や「Box」などとの統合も積極的に進めていきます。

――日本企業がTeamsやBoxとの連携を重視している背景をどのように分析されていますか?

 日本は世界的に見ても大きな企業向け市場を有しており、特に2021年10月の日本語β版リリース以降、企業ユーザーによるNotionの導入が加速しています。β版リリース後は、スタートアップへのさらなる浸透に加え、急成長中の中堅企業や、特に大手企業のDX推進、イノベーション推進、新規事業開発部門での利用が拡大しました。

 また、日本は世界最大級のNotionユーザーコミュニティーを持つ国の一つであり、製品機能やロードマップについて非常に活発なフィードバックやアイデアをいただいています。特に既存ツールとの連携に関する要望は、日本のユーザーから多く寄せられています。

 私たちの考えでは、従業員がNotion内で他のツールの情報にアクセスできれば、職種を問わず従業員はNotionから離れる必要がなくなります。つまり、Notionは全ての情報を集約するハブとなれるのです。この考えは、特に日本の企業文化と親和性が高いと感じています。

――AIに関する展望や2025年への期待をお聞かせください。

 AIとAIエージェントについて、私たちは非常に良いポジションを確立しています。過去5年ほどの間に必要なレゴブロックを全て作り上げてきたことで、AIを活用した強力なソリューションを提供できる体制が整いました。

 2025年には、私たちは市場の中でユニークな存在となり、お客さまのコスト削減と時間の節約に大きく貢献できる企業になっていると確信しています。

――楽しみにしています。ありがとうございました。

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