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AIや派手な機能よりもグループウェアに望む2つのこと【ユーザー調査】グループウェアの利用状況(2025年)/前編

グループウェアに本当に必要なものとは何か。AIや派手な機能よりも、現場が求めるのとは。調査結果から、ユーザー課題を読み解く。

» 2025年06月05日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 SVPジャパンが2024年5月に発行した市場分析レポート「エンタープライズSaaS(グループウェア)国内市場の現状と将来展望」によると、2023年のSaaS型グループウェア国内市場規模は2600億円に達し、2020年以降は年率6〜8%の成長を続けており、2024年までの5年間で市場は1.5倍以上に拡大したと推定される。

 グループウェアの市場拡大の動向を踏まえ、キーマンズネットでは「グループウェアの利用状況に関するアンケート」(実施期間:2025年5月14日〜30日、回答数:205件)を実施した。本稿(前編)では、同調査の結果から、企業におけるグループウェア活用の現状について紹介する。

定着の鍵は「ストレスのなさ」 グループウェアへの現場の評価

 グループウェアは単なる業務効率化ツールを超え、組織内コミュニケーションの要としてその重要性を増している。特に、働き方の多様化が進む中で、物理的な距離を超えた情報共有と連携の基盤として不可欠な存在となっている。今回の調査では、企業におけるグループウェアの利用実態を分析し、利用率や継続性、企業規模別の利用傾向の違いやグループウェアに対する要望などを調査した。

 まず、勤務先におけるグループウェアの利用状況について尋ねたところ、「利用している(リプレース予定なし)」が68.8%、「利用している(リプレース予定あり)」が10.2%となった(図1)。全体の約8割に当たる企業が「グループウェアを利用している」と答え、そのうち約7割がリプレースの予定がなく、長期間にわたって同一のツールを利用し続けている。

 利用者に対してツールの利用期間を尋ねたところ、「3年以上5年未満」(22.2%)、「5年以上7年未満」(20.4%)が多く、さらに「10年以上」継続して利用している企業も全体の約3割に上った(図2)。

 グループウェアは一度導入されると、操作習熟や業務フローへの定着が進み、短期的な乗り換えが難しい。また、ツールの安定性や信頼性が高いこと、そして何より業務に不可欠な基盤として組織内に深く根付いていることが背景にあるだろう。

図1:勤務先でのグループウェアの利用状況とリプレースの意向(左) 図2:勤務先で使っているグループウェアの利用期間(右)

 一方で、「利用していない」とした回答者の多くは100人以下の中小企業に偏っており、大企業と比較して利用率が約20ポイント低い。この点は、規模の小さい企業においては情報共有の課題が大企業ほど顕著でないことや、コスト面での導入障壁、さらには既存のツールや手法で代替可能なケースが多いことが要因と推察できる。グループウェアの必要性や導入の優先度は、企業規模や業務に大きく左右されると考えられる。

AIも派手な機能よりも、グループウェアに望む2つのこと

 グループウェアは情報共有やスケジュール管理といった枠を超え、業務を支えるプラットフォームとしての役割を担っている。そこにAIを組み合わせることで、業務自動化や効率化に寄与するだろうと期待が高まっている。

 次の設問では、グループウェアの機能に対する要望や改善点、ベンダーに望むことについて、利用企業から自由回答を募った。その中で「グループウェアにAI機能は必要か」という問いに対する意見も併せて聞いた。アンケートから得られた現場の率直な声を紹介する。

 ベンダーへ望むことを尋ねたところ、最も多く寄せられたのか、他サービスやシステムとの連携の容易さに関する要望だ。具体的には、「『Teams』や『Outlook』との連携」「他クラウドサービスとのデータ連携のしやすさ」「別サービスへのスムーズな移行(特にデータ移行)」「他グループウェアとの連携性向上」などが挙がった。スケジュール管理やメール、文書、ファイル共有など、グループウェアが日常業務のハブとして機能しているからこそ、取得データを他サービスと連携させ、より柔軟に活用したいというニーズが強まっていると考えられる。

 次に多く寄せられたのは、「自社に合わせて使いやすくカスタマイズできるようにしてほしい」「柔軟なカスタマイズ設定が可能な操作性を求める」といった、カスタマイズ性に関する声だ。特に従業員の使用頻度が高いツールであるため、「操作性が変わらないことが望ましい。多人数で共有する以上、長期間同じ操作感で使える方が良い」「一般職員のITリテラシーが低いため、できる限り簡単で違和感のないインタフェースを期待している」「ユーザーインタフェースの改善を継続的に進めてほしい」といった意見が多く、ベンダーへの継続的な改良への期待がうかがえる。

 今回の調査で特徴的だったのが、「生成AI機能の継続的なアップデート」「AI機能の搭載」「文書管理が使いにくいため、AI機能による改善を期待」など、AI機能の強化を求める声だ。実際に、「グループウェアにAI機能は必要か」を問う設問では、「非常に必要性を感じる」(13.2%)と「まあ必要性を感じる」(41.0%)を合わせて54.1%が必要だと回答した(図3)。中でも、従業員数500人以上の中堅・大企業においては6〜7割がAI機能の必要性を認識しており、特に強いニーズがあることが分かる。

図3:グループウェアにおいてAI機能を必要だと感じるか

 AI機能の必要性について「ある」「ない」と回答した利用者に、自由記述でその背景や理由を尋ねたところ、以下のような多様な意見が挙がった。

AI実装にポジティブな意見

  • AIは業務効率化に貢献する可能性があるが、セキュリティやコンプライアンスへの配慮が不可欠であり、現時点では効果が限定的だと思われる
  • 勤怠管理業務において、AIの導入による効率化が期待できる
  • 問い合わせ対応業務では、過去の対応履歴を基にAIが自動回答する仕組みに期待
  • AIの活用にはセキュリティ上の懸念があるものの、業務効率の向上につながるだろう
  • 必須ではないが、スケジュール調整やドキュメントの振り分けといった補助的な業務で有用だと思う

AI実装にネガティブな意見

  • 現在利用中のグループウェアで十分であり、AI機能がなくても支障はない
  • グループウェアにおけるAI活用の具体的なイメージが湧かない
  • 「AI」という言葉だけが独り歩きしており、実態が不透明。学習用データの出所や処理内容への不信感があり、テキストマイニング程度の成果しか得られていないのではないか
  • AIの導入は時期尚早。ユーザーが機能を使いこなせるかも疑問
  • 利用シーンのイメージがわかず、具体的なメリットが見えにくい
  • AI実装によるコスト増が心配。現在のグループウェアでは費用対効果が見合わない

グループウェアとコラボレーションツールとの垣根

 次に、実際に利用しているグループウェアについて尋ねたところ、「Microsoft 365/Office 365」(57.4%)が最も多く、次いで「Google Workspace」(21.0%)、「サイボウズ Office」(11.1%)という結果となった(図4)。

 2020年4月に実施した前回調査と比較すると、「Microsoft 365/Office 365」は16.9ポイント、「Google Workspace」(旧G Suite)も11.5ポイントと、それぞれ大きく回答割合を伸ばし、海外製ツールの存在感が増している。一方で、国産グループウェアではサイボウズが「サイボウズ Office」と「サイボウズ ガルーン」を合わせて4.7ポイント増加したものの、他の製品はやや伸び悩んでいる様子が見られた。

 ただし、グループウェアのリプレース先として挙げられた製品を見ると、「Microsoft 365/Office 365」(57.1%)に次いで、「desknet's NEO」(23.8%)や「サイボウズ ガルーン」(19.0%)と国産製品も上位に挙がった。導入の再検討時には国産グループウェアへの回帰を検討する企業も一定数存在していると考えられる。

 グループウェアの実装する機能を見ると、「Microsoft 365」や「Google Workspace」のようなスイートサービスがスケジュール管理など従来のグループウェア機能を内包する一方で、「従来のグループウェア」に分類される製品がチャットなどのコラボレーション機能を強化するなど、両者の境界が曖昧(あいまい)になりつつある。

 一般的には、グループウェアは社内での情報共有やコミュニケーション支援を通じて業務効率化を図るツールとされ、コラボレーションツールはチームやプロジェクト単位でのリアルタイムなやりとりによる効率化を目的とするが、いずれも情報の円滑な共有とコミュニケーションの活性化による生産性向上を目的とする点で重なり合う部分が多い。

 最後に、「グループウェアを利用しておらず、今後も導入予定はない」と回答した企業の理由を尋ねたところ、最も多かったのは「利用コストが高い」(33.3%)で、次いで「多くの機能を必要としていない」(30.6%)、「業務フローに合わない」(27.8%)、「既存システムの組み合わせでグループウェアの機能を代替できている」(19.4%)と続いた(図5)。従業員数が少ないため、情報共有やコミュニケーションに関する課題を既存ツールで補えているケースや、導入に対する費用対効果が見合わないと判断する企業も少なくないようだ。

図4:勤務先で利用しているグループウェア(左) 図5:グループウェアを利用していない理由(右)

 前編では企業におけるグループウェアの利用状況を中心に紹介した。後編では、ツール選定時に重視されるポイントや利用頻度の高い機能など、より具体的な活用実態についてみていく。

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