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Notes移行にSaaS乱立、事例で分かるグループウェア問題への対処法

スケジューラーに掲示板、社内ポータルなどを備えるグループウェア。「Microsoft 365」などのスイートサービスが出始めて、グループウェアの組み方や活用法も変わりつつある。

» 2022年12月20日 07時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 「Microsoft 365」はオフィススイートの域を超え、もはや「他のグループウェアは必要なのか」という疑問を持つ人もいるはずだ。この疑問に対してJBCCの富来 奈津子氏とクロス・ヘッドの高畑有香氏の両氏が見解を語り合った。

クラウド時代に陥りがちな「グループウェアあるある」

 企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する総合ITサービス企業のJBCCは、20年前からサイボウズのサービスを500以上の顧客に提供してきた。JBCC自身も「サイボウズ Garoon」ユーザーだ。クロス・ヘッドは、インフラ構築やSES(System Engineering Service)に30年の歴史をもち、15年以上にわたってサイボウズのパートナーとして活動する。

 講演の冒頭では、「グループウェアによる情報共有方法がバラバラだがこのままでいいのか」「今の機能を全て移行できる製品はないものか」「そろそろ今のグループウェアのライセンス期限が切れるが、このまま使い続けるしかないのか」などの課題が紹介された。

図1 紹介されたオフィスの「あるある」(出典:イベント投影資料)

 こうした「あるある」について、富来氏と高畑氏は次のように語り合った。

JBCC株式会社 富来 奈津子氏

富来氏: さまざまなシステムを導入する中で、1つにまとめたいというお話はよく聞きます。ただどうやってまとめればいいのかが分からないまま既存のライセンス期限を迎え、結果的にそのまま継続して使い続けるというケースが多いようです。また、Microsoft 365を導入する企業では、自社でやりたいことが膨らんで現在のライセンスでは事足りず「他のサービスも併用しなくては」となりがちなようです。

クロス・ヘッド株式会社 高畑有香氏

高畑氏: 確かに、今のシステムをまとめたいという意見はよく聞きますね。でも、無理に1つにまとめようとするとメンテナンスも複雑になって、かえってレガシー化が進むというデメリットもあります。また、システム数が増えがちという点ですが、用途に応じて複数のクラウドサービスを契約するケースも珍しくなく、7つ以上のサービスを利用するユーザーが増えているとも聞きます。クラウドサービスはすぐに利用できてすぐに止められる手軽さがあるので、こうした悩みが多いのかもしれませんね。これは、もしかしたら使い方に課題があるのかもしれません。

「脱Notes」で迷ったら? グループウェアの再構築事例

 グループウェアにクラウドサービスを併用して構築する例として、白鶴酒造とエスアールエス、商社A社(現在構築中のため社名は非公開)の事例が紹介された。

 白鶴酒造は全社統一のグループウェアとしてサイボウズ Garoonを、そして一部でMicrosoft 365をと使い分けをしているという。エスアールエスはクロスヘッドの顧客で、A社はJBCCの顧客だ。

富来氏: ある商社A社ではもともと「HCL Notes/Domino」のユーザーで、「脱Notes」を目指して他製品への移行を図っておられます。HCL Notes/Dominoは一昔前のオールインワンのグループウェアですが、その機能全てを一から構築するとなると時間の面とコスト面で考えても現実的ではありません。そこで現在、Microsoft 365とサイボウズ Garoonを組み合わせた環境を構築中です。サイボウズ Garoonの基本機能にはないメールやオンライン会議、チャットなどのコミュニケーション系ツールはMicrosoft 365で補います。全社ポータルサイトや掲示板、スケジュール管理、施設予約などグループウェアの基本機能はサイボウズ Garoonが担います。オンライン会議の予定調整に関しては、クロス・ヘッドのTeams連携用のプラグイン「CROSSLink 365 Teams連携」を用います。サイボウズ GaroonとMicrosoft 365で補えない領域はkintoneで開発します。加えて、ユーザー管理とシングルサインオンはOktaのソリューションを利用します。これが構成の全体像です。

図2 A社は3種類のクラウドサービスを使い分けた(出典:イベント投影資料)

 次に、クロス・ヘッドが導入を支援したエスアールエスの事例が紹介された。エスアースエスでは当初からガルーンを導入してきたが、コロナ禍を機にリモート会議のニーズが増え、オンライン会議ツールの導入を検討していた。そこで「Microsoft Teams」(以下、Teams)の利用を進めたが、サイボウズ Garoonのスケジュール表に会議予定を登録してTeamsで会議URLを発行し、それをサイボウズ Garoonの画面に貼り付けるといった多重登録作業が発生していた。URLの貼り忘れで担当者に問い合わせが増えるという事態もあった。

高畑氏: Teamsのプラグインを利用して、全ての操作をサイボウズ Garoonのスケジュールで完了するようにしました。スケジュール画面でオンライン会議のスケジュールを登録すると、日時や参加者、外部招待者のメールアドレス、メッセージがTeamsに即時反映されます。ユーザーはTeams画面を開くことなく、サイボウズ Garoonから会議に参加できます。サイボウズ Garoonのスケジュール画面で会議内容や出席者を確認できるのもポイントです。

図3 ガルーンとTeamsを連携させるプラグインの機能紹介(出典:イベント投影資料)

富来氏: 商社のA社さまもそこが大きなポイントになったようです。グループウェアとTeamsを行ったり来たりする使い方では仕事の進捗(しんちょく)や転記漏れなどが生じることに不安を持っていて、どうしてもWeb会議が必要だというタイミングでお勧めし、即座に導入を決断いただきました。

高畑氏: 「Microsoft Outlook」(以下、Outlook)のスケジュールをお使いの方も多いかと思いますが、サイボウズ GaroonのスケジュールからOutlookのスケジュールを表示させて、予定の重複を確認できるようにしています。プラグインはユーザー数に応じたライセンス形態で、必要なユーザーのみ契約すればよく、コストの最適化が可能になります。

機能の○×表だけでサービスを評価するのは危険?

 グループウェアの構築を考える際に、Microsoft 365やサイボウズ Garoon以外のサービスも検討に入れたい場合は、どのように考えるべきか。両氏は次のように語った。

図4 機能の○×比較表は、○の部分が自社に適切な○なのかの判断が必要(出典:イベント投影資料)

高畑氏: 機能を○×表で比較するユーザーがほとんどだと思います。ですが、「○」が本当に自社が求めている機能であるかどうかをちゃんと見極めなければいけません。

富来氏: 機能が多い方がやりたいことを実現しやすいのは確かですが、本当にその機能が使えるかどうかは企業によって異なります。そこを冷静に見極めていただきたいですね。それを確かめるにはトライアル利用が有効です。サービスによっては1カ月〜2カ月程度のトライアル利用が可能な場合があるので、その間に○×表の「○」の機能が本当に自社に適しているのかどうかを確認できます。中には2〜3製品、多い場合は9製品以上を試用する企業もあるようです。ただ、設定や基本的な使い方が良く分からなくて検証が進まなかったり、複数のサービスを利用し過ぎて正当な判断に迷うケースもあるようです。

高畑氏: われわれのような支援業者が入ることで、課題が浮き彫りになりやすくもあります。課題に対して客観的な判断ができるので、○のついた機能が本当に適切なものかどうかが分かります。

「サービスの併用=コスト増」なのでは?

 前述した事例のように、Microsoft 365に加えて他のグループウェア製品も利用するとなると、ライセンスコストも懸念されるところだ。コストの最適化をどう考えればいいのだろうか。高畑氏と富来氏は、複数製品の導入コストについて次のような見解を示した。

富来氏: 複数の製品を導入するとなるともちろん相応のコストになりますが、必要なものとそうでないものを支援事業者の見解を基に判断すればいいのです。例えば、この機能のライセンスは従業員全員に必要だけれどもこの機能は一部の従業員だけでいいなど、ニーズに応じて分けて考えればコストのスリム化も可能です。コストは単純に積み上がるわけではないのです。

高畑氏: 1つの製品にまとめるとライセンスはその製品分だけで済みますが、機能を追加または開発するとなるとイニシャルコストに加えてメンテナンスコストも膨らみがちです。複数製品を導入した場合の年間ライセンスコストと比較すると、必ずしもサービスを1つにまとめた方が安価になるとは限りません。

富来氏: ライセンスコストは基本的には固定の金額ですが、メンテナンス、保守費用は後から機能を追加すればするほど上がるので、正確に予算を見積もることができなくなるんですよ。

コストだけでなく情シスの負担もスリム化するには?

 また、利用するサービスが増えると増加するのが、ユーザーのログイン操作と管理者側のユーザー管理の手間だ。

高畑氏: 「Microsoft Acrive Directory」(以下、AD)や「Microsoft Azure AD」(以下、Azure AD)によるユーザー管理など、サービスが増えるとシングルサインオンやユーザー管理に関するお悩みをよくお聞きします。Azure ADとサイボウズ製品のユーザー管理については、当社の「CROSS Link Single Sign On」で連携が可能です。現時点(本稿公開時点)ではまだ開発中ですが、ユーザー情報の登録、削除などAzure ADでの操作内容がサイボウズのサービスにも同期されます。Microsoft 365にログインすればサイボウズのログイン画面での操作は必要なく、そのままクラウドサービスを利用できるようになります。

富来氏: JBCCでは「Okta」というサービスを提供しています。複数のオンプレミスシステムとクラウドサービスへのログインの際、OktaをADと連携させてることで1度の操作で複数のサービスが利用可能になるシングルサインオンを実現できます。また、ユーザー数が増えるとユーザーの新規登録や変更の手間も増えますが、Oktaを通すことで連携するクラウドサービスにも操作を反映することができるんです。これをユーザープロビショニングサービスと呼んでおり、クラウドサービスのユーザー管理の負担を軽減させることができます。

図5 ADとクラウドサービスの間をとりもつユーザー管理サービス(出典:イベント投影資料)

 このように、Microsoft 365とグループウェアの連携はユーザーの利便性向上と管理者の負担軽減に役に立ち、作業の削減にも貢献するわけだ。うまく活用すれば運用コストの上昇を最小限に抑えることも無理ではない。ただし、どの企業でもこれがベストの方法とは限らない。最後に両氏はアドバイスを送った。

富来氏: サイボウズ GaroonとMicrosoft 365は得意領域が異なり、機能の○×表でもどれが自社にとって「○」なのかが企業によって変わります。機能の有無と適否を組み合わせて考えるのがベストではないかと思いますね。

高畑氏: 正直なところ、使い慣れていてそのサービスがいいというお客さまは「どうぞ続けて使い続けてください」というのが本音です。ただ、サイボウズ Garoonを含め、他のサービスも一度はトライアル利用してみることをおすすめします。既存の製品でいいと思考停止状態にならずに、より効率化できる方法を探す努力はすべきでしょう。

本稿は「Cybozu Days 2022 宝島 −DXの勇者たち−」(主催:サイボウズ)のJBCCとクロスヘッドによる講演の一部を抜粋し、編集部で再構成した。

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