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» 2022年12月13日 07時00分 公開

サイボウズ、さくらの社長が激論「日本IT企業が海外勢に敗北した理由」

「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業が躍進する中で、迷走し続ける日本企業。グローバル企業に大きな差を付けられた理由とは。そして、社会と企業を転換させるために必要なこととは。サイボウズとさくらインターネットの両社長が語り合った。

[土肥正弘ドキュメント工房]

 2022年で創業25周年を迎えるサイボウズの青野社長は、同社が開催したイベント「Cybozu Days 2022」の基調講演で、さくらインターネット社長の田中邦裕氏をゲストに迎えてグローバルビジネスと日本企業、DXなどについて語り合った。本稿は、その模様の一部をお届けする。

本稿は「Cybozu Days 2022 宝島 −DXの勇者たち−」(主催:サイボウズ)の基調講演の一部を抜粋し、編集部で再構成した。

日本企業はグローバルでなぜ勝者になれなかったのか

サイボウズ 青野慶久社長

青野氏: ゲストにさくらインターネットの田中邦裕社長をお迎えして、語り合いたいと思います。若くして日本を代表するインターネット運営会社を育ててこられた田中社長は、このほど一般社団法人ソフトウェア協会の会長に就任されました。さくらインターネットは創業が1996年と当社(サイボウズ)よりも少し早いですが、私とは7歳ほど年齢が違うんですね。創業から26年を迎られましたが、この四半世紀を振り返ってどうですか?

さくらインターネット 田中邦裕社長

田中氏: インターネットが成熟して、データセンターの波とクラウドの波が訪れましたが、当社は常に成長している市場で事業を展開しています。その中で「次は何が伸びるか」に目を向けることが重要です。サイボウズさんがクラウドシフトの波とノーコード/ローコード開発の波の中で成長してこられたのと同じですね。

青野氏: 日本のデジタル化が進まないと言われる一方で、業容を転換しながら新しい価値を追求してきた会社が伸びています。でも、貴社は競合が巨大資本のグローバルIT企業なので大変ではないですか?

田中氏: いろいろ学ばせてもらっています。SaaS(Software as a Service)は国ごとでさまざまなサービスがありますが、下のレイヤー(インフラ)では文化はほとんど関係ないのでハードな戦いになります。

青野氏: 性能とパフォーマンスの戦いになりますね。

田中氏: 良い人が入社したいと思う環境を作り続けられて、強い競合企業があっても市場から排除されない企業になれれば生き残れるのではないかと思います。「蜂の一刺し」のように、巨大競合企業があっと驚くようなことができるテックカンパニーであり続けたいですね。

青野氏: ところで、田中社長は一般社団法人ソフトウェア協会の会長に就任されて「Software Everywhere」をキーワードに協会のビジョンを作り直されているところですね。

田中氏: かつては「鉄は国家なり」「半導体は国家なり」と言われましたが、今はまさに“ソフトウェアは国家なり”という時代です。ソフトウェアにフォーカスして社会を発展させていこうというのが協会のテーマです。設立当時は今のようにまだクラウドがなかった時代ですが、最近ではAmazonやGoogleも会員に名を連ね、2021年には定款が変更されて一般のユーザー企業も入会できるようになりました。そこから、多くのユーザー企業に参加いいただくようになりました。現在、情報処理技術者試験(IPA)の受験者数が爆増しているのですが、その多くがユーザー企業の方です。ユーザー企業がエンジニアを育ててソフトウェア企業にもなり得る時代なのです。

青野氏: ただ、この25年ほどを振り返ると、僕の中では海外勢に差をつけられた感覚があるんですよ。日本の検索エンジンやPC、携帯電話なども気付いたら全て海外勢に持っていかれたような。

田中氏: やはりモノを売っていてはダメだということですね。例えば、Appleは「iPhone」を売っているように見えて、実際はソフトウェアやサービスを売っていますよね。対して、日本のIT企業はソフトウェアをモノのように売っています。受託開発やパッケージソフトの事業にこだわり、インフラ企業やネット企業ではなくメーカーとしてモノを売る方向に重点を置いていたのが一つの敗因だと思います。

青野氏: 日本はモノを作って稼ぐビジネスモデルから抜けられなかったと。

田中氏: モノではなくサービスを提供する社会にシフトできなかった。モノからコトへの転換ができていればこうはならなかったはずです。モノは納品されて使っていくうちに徐々に使いにくさが目立っていきますが、サービスは常にアップデートが加えられてどんどん便利になりますよね。モノは納品時をピークに、そこからお客さまが感じる価値は徐々に低下しますが、ソフトウェアやサービスは導入時を超える価値を得られるのです。これを米国系のソフトウェア企業は進めてきましたが、日本企業はそうはなりませんでした。それでもある程度は稼げていたので、今までのやり方を変える努力をしてこなかったのが、敗因ではないかと思うんです。

青野氏: DXってビジネスモデルの転換なのかもしれません。ソニーの出井さん(元CEO)とお会いした時に「PlayStation」の話をしたのですが、サービスの提供は別会社でやっていたようなんです。それはなぜかと尋ねたら、原価を計算して価格を設定する人たちには、あのモデルは無理なんだとおっしゃっていたのを思い出しました。

田中氏: モノを売るとなると原価を積み上げて価格を設定しないといけませんが、サービスの場合は原価はライフタイムバリューの中で回収すればいいので、あまり意識されませんよね。データセンターを作るのに100億円、200億円とかかるのに、VPS(仮想専用サーバ)を980円で売れば原価で考えると絶対に釣り合いません。でも10年間使ってもらえれば割に合う。そういうことだと思います。

社会を変えるためにスタートアップを支援する

青野氏: ところで、田中さんはスタートアップ企業を支援されていますね。それはどうしてですか?

田中氏: 僕は単純に日本が良くなったらいいなと考えているんです。そのためには政治家も含めて多方へのアプローチが必要になりますが、事業を起こす人たちを応援するのが一番ではないかと考えているんですよ。何か新しく事を成そうとしている人たちを応援することで、このままいけばお先真っ暗な未来が10年後にはそうじゃない世界線にそれていくのではと。そんな未来をスタートアップの方たちと作っていきたいですね。新しいことを成す人が日本をよくするんじゃないかと思って、(スタートアップ企業の支援を)続けています。

青野氏: この四半世紀で、米国や中国などにデジタルで差をつけられた理由も、そこにあるように感じるんですよね。

田中氏: ITが浸透してみんながフラットになると、既得権のある人は損をするのが怖いと思っているのでしょう。高い給料をもらっている人たちがいる一方で、頑張っている人たちの収入が少ないのはおかしいですよね。能力に差がないのに性別だけで給料に差があるのもおかしい。スタートアップ企業がこうした社会をガラッと変えてくれるはずです。既得権のある人はそれが怖くて動かない。一方で、スタートアップは本気で社会を動かそうとしています。スタートアップが地域の雇用を吸収すれば、社会はいい方向に向かうかもしれません。

青野氏: 田中さん自身が今、東京ではなく沖縄に住まわれていて、新しい働き方を実践しているところを世間に見せているような気もします。

田中氏: 沖縄にいても普通に仕事をしていますよ。喫煙室や宴会で物事が決まる比率が減りました。東京の従業員には僕がいないことでコミュニケーションがとりにくいと思う人もいるようですが、一方で大阪や北海道の従業員は以前よりも僕と話がしやすくなったと言う人もいるようです。地域を超えて機会の平等を得られるのが、リモートでの働き方の良さなのだと思います。

青野氏: 地方からもスタートアップ企業が生まれるかもしれないし、どこにいるか分からないない人ともネットでつながれば起業できる時代です。

田中氏: 当社は大阪の会社ですが、北海道にデータセンターを作って東京に半分近くの従業員がいて、社長は沖縄にいる。そういう時代なんだと思います。

青野氏: 場所はどんどん関係なくなっていますね。また、若い方には社会の活性化のために、どんどん新しいことに挑戦していただきたいです。

会社を変えるためには経営陣をどう口説けばいい?

青野氏: これからDXに立ち向かう人たちへ、IT業界の先輩としてアドバイスを頂けますか。

田中氏: トップが「やりたくない」と思っていたら、DXの実現はまず無理です。まずは、社長や経営陣が(DXを)やりたいのかどうかが大切です。関係のある会社を見ていても、社長によってDXへの取組みが良くも悪くもなっています。

青野氏: コロナ禍でDXが進んだことで、社長が「このタイミングだ」と思って取り組んだ企業は成功していますが、音頭を取る人がいなければ何も変わりませんよね。

田中氏: 経営陣が変わらないと何も変わらないと。

青野氏: トップを口説く時のコツやアドバイスをいただけますか。

田中: 当社が働き方改革を実践するきっかけとなったのは、あるワークショップだったんです。経営層や若手が一緒になったワークショップで「どういう会社にしたいのか」を話し合いました。アグレッシブな意見も出てきて、確かにそうだと思ったなら議事録に書き留めます。社長や役員をのけ者にするのでなく一緒に将来像を語り、それを基に動くことで経営が変わるのです。社長の考えを一般従業員が変えるのは不可能なので、社長自身が変わることを誘発する手段が必要かなと思います。

青野氏: 無理に変えようとするのではなくて、ちゃんと会話をすれば変わっていくはずだと。

田中氏: 人を変えようとしても変わらないですが、その人を頼りにしながら会話をしていくと変わることがある。その時をチャンスに、アプローチすると良いのではと思います。

青野氏: 全ての企業がソフトウェア企業に変わり、ビジネスモデルも変わっていく。そして若い人たちが活躍するための場所を作り、トップとの対話を重ねていく。たくさんのヒントを頂いたような気がします。ありがとうございました。



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