PCのキッティングは地味だが重要な情シス業務の一つだ。自社で実施するにしろ外部に委託するにしろさまざまな課題が付き物だ。しかし、経営層にはそれらの課題が「見えていない」可能性が、キーマンズネットの調査で浮かび上がった。
AIブームの中、業務PCで求められるスペックに変化は生じているのか、またPCのキッティング作業の課題は――。キーマンズネット編集部は定期的に実施しているPCに関する読者調査の最新版「PCとキッティングに関するアンケート(2025年)」(実施期間:2025年3月28日〜4月11日、有効回答数:283件)を実施した。
前編となる本稿では2024年に実施した前回調査から順位が変動した人気PCメーカーランキングや、利用しているPCへの不満、PCのキッティング作業を今でも手作業で実施している企業の背景に迫る。
まず、業務利用端末やライセンス、ソフトウェアなどの資産管理状況を尋ねたところ、「IT部門が一括管理している」(74.6%)という回答が圧倒的に多かった。「総務部門が一括管理している」という回答も12.7%に上り、管理部門による一括管理が大半を占めた。
ただし従業員100人以下の中小企業では「個人の管理に任されている」という回答が22.6%と、中堅・大企業と比べて高い傾向にあった。501人以上の中堅・大企業では総務部門でなくIT部門で管理している割合が高まるなど、従業員数によって管理状況にも違いがあった。
業務で利用しているPCのメーカーを尋ねたところ、トップ3に入るメーカーの順位が昨年調査から変化していることが分かった(図1)。
「HP」(42.0%)、「Dell」(39.6%)、「Lenovo(NEC、富士通《FCCL》を含む」(36.7%)の海外3メーカーに票が集まり、「Dynabook」(17.0%)や「パナソニック」(16.6%)の国産メーカーが続いた(複数選択可)。2024年7月に実施した前回調査では「Lenovo」「HP」「Dell」の順だったが、1年足らずでHPの割合が高まった。なお、タイプ別でみるとノートPCを利用している企業では「Lenovo」「VAIO」の利用率が若干高い傾向にある。
今後の動向を占う際に注目したいのが、PCに対する不満だ。今利用しているPCに対する不満として「スペックが低い(処理速度が遅い、メモリ不足など)」を挙げた割合が、「HP」「Dell」を利用している回答者は全体よりも5ポイント以上高かった。
後編で詳しく触れるが、「AIの業務での利用をはじめとする新しい要素が加わったことで、今後PCを選定する際に重視するポイントは変わるか」という設問に対し、「大きく変わる」、あるいは「ある程度変わる」と答えた回答者は約半数を占めた。今後重視するポイントとして「コスト」とともに多くの票が集まったのが「PCのスペック」だ。スペックをより重視する傾向が強まり、AI利用に特化したAI PCの新機種が次々と登場する中で、今後順位が変わる可能性もありそうだ。
PCの購入頻度は「4〜5年おき」(58.3%)が過半数で、「6年以上」(18.0%)、「2〜3年おき」(10.6%)が続いた。使用頻度や利用環境によって差はあるが、一般的にHDDやSSD、メモリやバッテリーは3年を過ぎると劣化すると言われるため、6年以上は利用期間としてやや長い印象を受ける。この背景にはPC購入は「一括購入」(48.4%)に次いで「リース契約」(38.2%)が多いことがありそうだ。
次にPCキッティングの実施状況に移ろう。PCキッティングの実施形態について最も多くの票が集まったのが「自社で実施」(55.1%)だった。
アウトソーシングサービスを利用している企業(「自社とアウトソーシングの併用」と「全てアウトソーシング」の合計)は3割弱だった。
企業規模別に見ると、PCキッティングをアウトソーシングしている割合は501人以上の中堅、大規模企業に多かった。特に5001人以上の大企業では「自社とアウトソーシングの併用」「全てアウトソーシング」の合計が43.5%に上り、「自社で実施」(29%)を10ポイント以上引き離した。
キッティング方法を決める際のポイントを尋ねる設問に対しては、全ての企業規模で「金額コストが安い」という回答が「作業コストが安い」という回答を上回った。ただし、中堅・中小企業と大企業には大きな違いが見られた。
500人以下の企業では「金額コストが安い」を選んだ回答者の割合が「作業コストが安い」よりも20ポイント以上高く、1001人以上の大企業ではこの2つの回答を選んだ割合の差は約2ポイントで、中堅・中小企業に比べて作業コストを重視している様子がうかがえる。当然、従業員数が多くなるほどPCの台数が増えて作業負担が増大するため、アウトソーシングを選ぶ企業が増えるものと考えられる。
自社でキッティングする際の方法としては「1台ずつ手作業でクリーンインストール」(50.3%)が最多で「クローニングツールの利用」(28.7%)が続いた。
従業員数が大きくなるほど「クローニングツールの利用」が増加し、5001人以上の大企業の過半数がクローニングツールを利用している。ただし、前回調査と比べると、100人以下の中小企業でクローニングツールを利用する割合が約5ポイント増加し、「Windows Autopilot」などを使った自動セットアップが2倍以上に増加した。小規模企業においてもキッティング効率化に向けた施策の検討が進んでいると見られる。
先ほども触れたとおり、キッティング方法の選定ポイントは「金額コストが低い」(40.3%)、「作業コストが低い」(26.9%)、「特殊なソフトウェアや環境が必要ではない」(17.0%)の3項目で合計8割を占めている。人的コスト含めていかにコストを抑制できるかが重視されている。
こうした中で、PCや契約サービスの数、移行データの量などによって変わる業務工数を、人員数や移行ツールの有無などの状況と照らし合わせて最適解を導き出さなくてはならない。頭を悩ます担当者も少なくない。
自社でPCキッティングを実施している企業の課題としては「自動化が難しく手作業が多い」(36.4%)や「コストや時間がかかる」(24.6%)、「コストの問題でアウトソーシングできない」(18.5%)が上位に上がった(複数回答可)。
環境の制約や予算上の都合もあり、キッティング業務の最適化を図ろうとしても難しいという企業が多い様子がうかがえる。
従業員規模別で見ると、中小企業では「人手不足で作業を進めるのが困難」といった人材面での課題が大きく、アウトソーシングを進めようにも「コストの問題でアウトソーシングできない」というジレンマがある。反対に企業規模が大きくなると「台数が多く作業負担が大きい」や「社内ルールが煩雑で対応に手間がかかる」など、従業員数の多さに起因した課題が生じるようだ。
特筆すべきは「特に課題はない」という回答にも25.1%と多くの票が集まっている点だろう。所属部門別に見ると、「経営者・経営部門」に所属する回答者の52.9%、「営業・販売部門」に所属する回答者の41.2%が「特に課題はない」を選んでいる。
一方、「情報システム部門」に所属する回答者で「特に課題はない」を選んだ割合は17.1%で、キッティングに対する認識が情シスとそれ以外の部門、特に経営者・経営部門とで乖離(かいり)していることが分かった。
キッティングの課題として寄せられたコメント
- 作業の属人化
- 個別設定があり、外部に全てを委託できない
- クローンツールを利用したいが、上の理解がない
- マニュアルがすぐ陳腐化する
- 担当者の技術レベルが低いため自動化の実施が難しい
キッティングをアウトソースする際の課題についても聞いたところ「コストが高い」(39.7%)が最も多く、「セキュリティの懸念がある」(23.8%)、「緊急対応が難しい」(23.8%)、「業者とのコミュニケーションコストがかかる」(23.8%)が続いた。
こちらも部門別でクロス集計したところ、情報システム部門とそれ以外で認識にギャップがあった。情報システム部門に所属している回答者は「コストが高い」「セキュリティの懸念がある」「自社にノウハウが蓄積されない」を課題に挙げた。
ここまで見てきたように、PCキッティングは煩雑で工数や手間がかかるのが、主に経営層には課題が存在するという認識が薄く、現場が求めているキッティング作業の自動化やアウトソーシングの予算の獲得に苦労している実態が透けて見えた。情シス担当者はさまざまな制約の下で最適解を導き出すべく、奔走している様子が見て取れる調査結果となった。
後編ではAI PCの利用状況や2025年10月にEOSが迫っている「Windows 10」から「Windows 11」への移行状況、PCに関連するトラブルの実態を明らかにする。
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