有名企業の事例記事は人気コンテンツだが、中には企業名を出せない事例もある。そもそもなぜ、企業名を出せないのか。「名前を呼んではいけない“あの企業”」の事例に価値はあるのか。
汎用(はんよう)的なユースケースは、おもしろくないものだ。
「有名企業の事例を基に販促資料を作りたい」という依頼を受けて、ツールベンダーを取材した。ところが、その有名企業の名前は出せず、詳細も明かせないという。「名前を呼んではいけない“あの企業"」の事例に価値はあるのか。そもそも、なぜそんな事例を販促資料に載せようとしているのだろうか。
「とある仕組み」の販促資料として、日本では誰もが知る有名企業の事例を取材してほしいという依頼を受けた。
かなり大規模に製品が使われており、ベンダーにとっては"喉から手が出るほど"ほしい事例のようだ。企業名は出せないものの、何としても営業場面で使いたいという話だった。
その企業が日本全国に展開しているネットワークは巨大で、ベンダーがそれらを管理する仕組みを提供しているため、事例として紹介したくなるのもうなずける。ただ、事例企業による運用があまりに特殊であるために、管理項目を含めた各種数字を曖昧にしなければ、企業名がバレる恐れがある。
全国にある拠点数はもちろん、システムにアクセスする利用者数もぼやかさざるを得ない。業界の慣習なのか、経営指標として管理している管理会計の科目数が何万という単位に及んでいるらしい。それが本当に必要なのかどうかはさておいて、その業界では長年その手法が採られているとのこと。いやー、ちょっとでも書いてしまうと、即バレするレベルだ。
実際の運用はさておき、そのプロジェクトを成功させるために、ベンダー側でもさまざまな「特別対応」を取ったようだ。メンバーを見ても、実際のPM(プロジェクトマネジャー)やインフラ、セキュリティ、アプリケーションなどベンダーの各エースが集結し、数年かけてプロジェクトを成し遂げたらしい。
PMは、これまでのシステム開発プロセスを大きく変更し、プロジェクトが遅延しないようにさまざまな工夫をしたという苦労話を語ってくれた。ベンダーの組織体制を変更し、縦割りでコミュニケーションロスが多い環境を一新したことで、当初の予定どおりプロジェクトを完遂できたという。
プロジェクトの裏側をあますところなく披露してもらった結果、あっという間に2時間が経過した。
これほど濃密な話をそのまま書ければおもしろい読み物になるだろうが、今回は「どの企業の事例なのか分からないようにまとめてほしい」というオーダーだ。膨大なボリュームのある過年度の情報を円滑に検索、表示させるべく、数百ある画面のレスポンス改善に向けて、パッケージなのにSQLのチューニングに数カ月かけたなんていうエピソードは汎用的な事例としては使えない。
PMからも「これは特殊なケースだから、事例に書かれても同じ対応はできないよ」と指摘されたが、営業やマーケティングは販促物として仕上げたいと言う。その気持ちは分かるが、一体どのエピソードを選んで書けばいいのやら……。
そんなこんなで何とか原稿を仕上げて納品したのが1年ほど前だ。販促資料として使われているのかどうか当初は気になっていたが、いつの間にか忘れていた。
先日、とあるベンダーから営業を受けた際に、見慣れた資料が目の前に現れた。「これは“例の事例”では」と心の中でつぶやいていたところ、営業担当者が即座に「このユースケース、実は●●社の導入事例ですよ」と教えてくれた。事情を知っている身からすれば、これは情報漏えいという暴露ではないか。
口頭で事例企業を明かす営業担当者もいるだろうと思っていたが、まさか自分の目の前に現れるとは。代理店の営業担当者が語っているのであれば、どの企業の事例なのかを知っている人は多いはずだ。「これって大丈夫なのか」と筆者が心配しても、後の祭りである。
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