再保険会社が発表したレポートによると、サイバー保険市場は過当競争で保険料率が下落し停滞している。サイバー保険を契約しようとしている企業にはどのような影響があるのか。
スイスの再保険会社の調査レポートによると、サイバー保険市場の保険料率が低下していることが分かった。
保険業界では、大規模なサイバー攻撃の発生やデータプライバシーを巡る責任リスクへの懸念が高まっている。しかし、サイバー保険市場の保険料は下がっている。どうしてこのようなことが起きるのだろうか。サイバー保険を申し込もうと考えているユーザー企業はこの状況をどう生かせるのだろうか。
スイスの再保険会社Swiss Reが2025年9月3日に公開した調査レポート(注1)によると、サイバー保険を販売する保険会社間の競争が激化しており、サイバー保険の供給量は需要を上回っている。その結果、2023年からサイバー保険料率の下落が始まり、2025年時点で3年連続の減少が続いている。市場の不均衡によって、保険会社は保険料やサイバーセキュリティ管理、補償限度額で譲歩を余儀なくされているという。
Swiss Reによれば、2025年のサイバー保険料収入は156億ドルに達する見込みだが、市場環境の変化を受けて同社は年平均成長率(CAGR)を6%から5%へと下方修正した。
同社のファビアン・ウィリ氏(チューリッヒ支社 サイバー・キーアカウント部門長)は次のように指摘した。
「競争が激化しているサイバー保険市場では、保険を申し込む企業側が有利な条件で交渉できる状況にある。一方保険会社は市場でのシェアを維持するために基準が甘くなっている。申し込み企業に対して保険契約時に厳格な引き受け基準や条件を課す可能性は低い」
これは、企業がサイバー保険に加入する際、保険会社が求める基本的なセキュリティ対策を怠っていいということではない。「現在の市場環境では、企業が最低限のサイバーセキュリティ対策を確実に実施することが、保険契約の引き受けの可否を判断する上で重要な要素だ」とウィリ氏は述べた。
保険業界に特化した格付け機関A.M. Bestのスリダール・マニエム氏(シニアディレクター)によると、調査レポートの内容はサイバーセキュリティ市場全体の傾向と一致している。同社によると、「サイバー保険市場では保険料が継続的に下落しており、損害率*は40%で推移している」と同氏は『Cybersecurity Dive』に語った。
*損害率とは保険会社が受け取った保険料に対して、支払った保険金が占める割合をいう(損害調査費を含む場合がある)。本文の場合は受け取った保険料100に対して、40を支払っていることになる。なお、日本損害保険協会が2025年6月26日に発表した「令和6年度損保決算概況について」によれば、会員企業31社の損害率は64.1%だ。これは自動車、火災(地震)、海上・運送、傷害、自動車損害賠償責任、新種という6種の保険種目の合計値だ(キーマンズネット編集部)。
「サイバー保険市場は大規模なサイバー攻撃(の支払い)を経験していない。しかし、保険契約の引き受けは慎重に進められている*。保険会社はSwiss Reをはじめとした再保険市場からの健全な支援を受けながら、契約条件の精査とリスク管理に慎重な姿勢を取っている」(マニエム氏)
*この発言の意味は2つある。まず、現状では個別企業に対する保険金の支払いにとどまっており、世界中の多数の企業やクラウドサービスが一度に攻撃されるような場合の保険金の支払いを経験したことがない。次に、保険業界はこのような大規模攻撃を警戒しており、そのために引き受けの条件を緩和していないということだ(キーマンズネット編集部)。
これまでサイバー保険市場の成長を支えてきたのは、いざというときにサイバー保険による補償を必要とする大企業だ。
「変化が激しいサイバー保険市場の動向を踏まえると、保険料率の動向を予測するのは困難だ」。Swiss Reのファビアン・ウィリ氏(サイバー保険主要顧客責任者)はCybersecurity Diveへこう述べた。
「しかし、持続的な成長を実現するためには、新しい顧客セグメントへの市場拡大が必要だ」と主張するウィリ氏は、その対象として中小企業を挙げた。同氏によると、中堅・中小企業におけるサイバー保険の普及率はいまだ10〜20%にとどまっているからだ。
(注1)Shifting cyber insurance growth into the next gear(Swiss Re)
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