企業読者180人への調査から見えてきたのは、議事録AIは会議後の対応や情報共有の迅速化に一定の効果がある一方で、使いこなし方によって業務効率に差が生じている点だ。議事録AIで「仕事が回る会社」と「ムダが増える会社」の境界線はどこにあるのか。
議事録AIは、住友商事やソニーグループ、リクルート、三井住友銀行といった大手企業でも導入が進み、会議の記録や共有といった実務でも使われ始めている。もっとも現場では、「会議後すぐに次の対応につながるようになった」という声がある一方で、その使い方や評価にはばらつきがある。
後編となる本稿では、議事録AIの利用状況に関するアンケート(実施期間:2026年4月2日〜4月10日、回答件数:180件)を基に、会議後の対応スピードや要約・認識精度の評価、バラつきを補うための運用上の工夫などを整理し、同じツールを使っていても成果に差が生じる原因を探る。
議事録AIの導入により、会議後の議事録作成だけでなく、会議の進め方にも変化が生じているのか。本調査では、利用者の実感を尋ねた。
議事録AIを利用している回答者に対して「会議の進め方にどのような変化があったか」を聞いたところ、「やや変わった」(32.1%)と「大きく変わった」(19.8%)となった(図1)。
具体的な変化としては、「会議後のフォローが早くなった」(62.6%)が最も多く、「会議時間が短縮された」(13.0%)が続いた(図2)。この結果からは、議事録AIの価値が単なる記録精度だけでなく、情報をすぐに活用できる点にある。議事録作成の効率化にとどまらず、会議で決まった内容を次のアクションにつなげやすくする役割も担っていると考えられる。
図1 議事録AIによって会議の進め方に変化はあったか(左) 図2 会議の進め方で変化を感じた点はどこか(左) ※議事録AIを「全社的に導入している」「一部の部署・チームで導入している」「試験的に利用(PoC)している」と回答した人を対象また、「会議の進め方が変わった」と回答したグループと「変わっていない」と回答したグループを比較すると、その差は会議後のフォローの速度に表れている。変化を感じている層では約8割が「フォローが早くなった」と回答したのに対し、変化を感じていない層では5割未満にとどまった(図3)。単にツールを導入するだけでなく、会議後の情報共有や運用方法までを含めて見直しているかどうかが、実感の差につながっているとみられる。
前編でも触れたように、議事録AIの満足度は「議事録に何を求めるか」によって分かれる。一字一句の正確さを重視するのか、それとも決定事項やToDo、ネクストアクションの迅速な共有を重視するのかによって、活用の仕方や会議の進め方にも違いが出る。議事録AIは、単なる効率化ツールにとどまらず、会議の成果の出し方にも影響を与えつつある。
フリーコメントを見ると「メモに気を取られず議論に集中できるようになった」「録音・記録を前提に発言が明瞭になった」といった声も見られた。従来は、記録する役割と議論する役割が分かれる場面も多かったが、AIの導入によってその分担が薄れ、参加者が議論に集中しやすい環境が整いつつある。会議の進行だけでなく、意思決定にも一定の好影響があるとみられる。
関連して、議事録AIの利用者に対して「導入前の期待」と「導入後のギャップ」をフリーコメントで尋ねた。回答を見ると、同じように議事録AIを利用していても、会議の進め方に変化があったケースと、そうでないケースに分かれる。
課題は大きく2つに整理できる。1つは「人手による補正を前提としなければ実用性を保証しにくい点」、もう一つは「特定条件下で認識精度が大きく低下する点」だ。これらの結果から、現時点では議事録AIを完全に自動化されたツールとして運用するには、まだ課題が残っていることが分かる。
まず前者では、要約や文脈解釈の精度にばらつきがある点だ。例えば、「声の抑揚に含まれる重要なポイントが拾われず、逆にささい細な発言が強調されてしまう」といった声や、「『Google Gemini』が過度に要約し、会議時間に関係なく似た分量に圧縮され、話者識別も十分でない」といった指摘が見られた。
こうした問題は、単なる認識精度というよりも、AIが判断する重要度が人間の意図と一致しないことにある。要約のズレや補完の不正確さが、結果として人手による修正を前提とした運用につながっている。
一方、後者では音声認識や用語理解といった基礎的な精度に関する課題が挙がった。「単語の認識精度が低く修正が必要になる」「要約の過程で重要な論点や因果関係が抜け落ちる」といった声に加え、「専門用語や業界用語の誤認識が多く、そのままでは使えないため、手作業の方が早い」といった指摘も見られた。
この点については、AIが十分に学習していない領域や、分野ごとの用語特性に依存する側面が影響しているとみられる。特に専門性の高い会議では、実務での活用ハードルが上がる要因となっている。
こうした傾向は定量調査にも表れている。「期待と少し違った点」としては、「専門用語・業界用語に弱い」(47.3%)が最も多く、「そのまま使えず手直しが必要」(37.4%)、「話者識別の精度が低い」(36.6%)、「要約の質が不十分」(34.4%)、「音声認識の精度が期待より低い」(32.8%)が続いた(図4)。
また、「課題や障壁」を問う設問でも、「専門用語の誤認識」(64.1%)と「話者識別精度の低さ」(35.1%)が上位を占めており、フリーコメントと定量結果の傾向はおおむね一致している(図5)。
図4 議事録AIについて「期待していたのに少し違った」と感じた点はどこか(左) 図5 議事録AIの利用に当たって特に感じた課題や障壁(右) ※議事録AIを「全社的に導入している」「一部の部署・チームで導入している」「試験的に利用(PoC)している」と回答した人を対象一方で、こうした課題がそのままネガティブな要素にとどまるとは限らない。運用面の見直しにつながっているケースもある。例えば、誤認識を減らすために専門用語や社内略語の使用を控えたり、マイク環境や雑音対策を整備したりするといった対応が挙げられる。また、発言の重複を避け、誰が話しているかを明確にするなど、会議中のコミュニケーションにも変化が見られる。
結果として、議事録AIは単なる記録の効率化にとどまらず、会議の進め方やコミュニケーションの在り方を見直すきっかけになっている。
そうした視点で、議事録AIを有効活用するために「実施している工夫や社内ルールがあるか」をフリーコメントで尋ねたところ、幾つかの取り組みが寄せられた。これらは「発話設計の標準化」「環境・インフラの最適化」「AIを前提とした業務プロセス設計」の3つに整理できる。
まず1つ目は、会議中の発話そのものをAIに合わせて調整する取り組みだ。「資料のタイトルを口頭で読み上げる」「発言時に主語を明確にする」「発言前に氏名を名乗る」といったルールが挙がった。これらは、AIの認識精度にある程度頼ることを前提に会議の進め方を調整するもので、人がAIに合わせる形の対応だ。
次に2つ目は、認識精度を支える環境や設備面の改善だ。「専門用語の辞書登録」や「議事録作成の手順のマニュアル化」「会議用マイクやスピーカーの見直し」といった取り組みが挙げられた。背景には、前段でも触れた専門用語の誤認識や音声認識のばらつきといった課題がある。実際、議事録AIの利用時に発生した問題としては、「専門用語や固有名詞の誤変換」(45.0%)、「文字起こしミス」(44.3%)、「要約の不正確さや情報の欠落」(33.6%)、「話者の取り違え」(31.3%)などが挙がった(図6)。
そして3つ目は、議事録AIを単体のツールとしてではなく、業務フローの一部として組み込む動きだ。「議事録作成時のプロンプトを共有する」「生成された議事録を別ツールで整理・要約し直す」「議事録からタスクを自動生成し、管理ツールと連携する」といったアイデアが寄せられた。AIの出力をそのまま使うのではなく、他のツールと組み合わせて活用する動きも一部で見られる。
以上の通り、議事録AIを活用している組織では、現時点での精度や機能の限界を知りながらも、それを補う形で会議の進め方や業務プロセスを調整している様子がうかがえる。実際に別の設問でも、「今後期待する機能」としては「要約精度の向上」(67.8%)、「話者識別精度の向上」(57.2%)、「リアルタイム翻訳の強化」(34.4%)が上位に挙がった。一方で現場では、ツールの改善を待つだけでなく、使い方を工夫することで成果を高める動きも見られる(図7)。
こうした工夫は議事録AIの活用にとどまらず、会議の進め方や情報共有の在り方にも影響を与えている。結果として、効率化だけでなく、会議運営そのものを見直すきっかけになっている面もある。
今後は、機能の向上とあわせて、こうした現場での運用がどのように整理・共有されていくかが、活用の広がりを左右するポイントになりそうだ。
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