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「人が頑張る改善」をやめたオムロンが稼働ロス30%減、生産数16%増を遂げた秘訣

散在するデータの集計を自動化し、現場の改善提案は1年で250件へ。オムロンが実証した、現場主導のDXを根づかせる要点とは。

» 2026年06月19日 07時00分 公開
[平 行男キーマンズネット]

 基幹システムの刷新や全社的な生成AIの導入といった経営DXは着実に進む一方で、現場に残る非効率な手作業はなかなか解消されない。こうした「現場DX」の停滞は、多くの企業に共通する悩みだ。

 オムロンの金子陽平氏(データソリューション事業本部データ活用ソリューション事業部 戦略統括部長)は、同社における現場DXの実践を基に、現場のDXを阻む3つの壁と、「DXはなぜ現場で止まるのか?」という課題の乗り越え方を語った。

「一部の詳しい人への依存」が、現場改善を止める理由

 金子氏はまず、経営DXと現場DXの違いを整理した。経営DXは、基幹システムの導入や全社的なダッシュボード、生成AIの活用など、経営判断による大きな投資で成果を生み出す取り組みを指す。意義は大きく、効果も見込める領域だ。

 一方で現場には、基幹システムではカバーしきれない固有業務の手作業が残りやすい。例えば、FAXで届いた発注書を転記する紙運用や、継ぎ足しで使われ属人化した「Microsoft Excel」、人事システムから抜き出した情報を事業部へ展開する際のシステム間の手入力などだ。

 ERPを中心に各部門へ重要なシステムが入っても、その隙間に固有業務が残る。購買管理システムを導入しても発注書は現場が手作業でExcelを作り、会計システムを入れても入金引き当ては銀行のデータを手作業で処理している。こうした現場固有の業務をITスキルで自ら自動化し、業務改善を図る取り組みが現場DXだ。

経営DXと現場DX(出典:講演時の投影資料)

現場DXを阻む「3つの壁」とは

 なぜ良いツールやサービスが次々と登場する中でも現場DXは進まないのか。金子氏は、その要因は大きく3つに集約されると説明する。

 それは、業務理解の壁とITリテラシーの壁、そしてコストの壁だ。

 1つ目の業務理解の壁は、現場業務の複雑さに起因する。業務が細分化されるほどベテランの暗黙知や例外処理は増加し、何より業務そのものが可変的だ。システムやフォーマットが変われば業務の定義も変わる。「業務を理解している人自身が、人ができることと機械に任せることの線引きをし、その中身を進化させ続ける必要があります」と金子氏は指摘する。外注でシステム化しても、業務の変化に追従できず風化してしまう。

 2つ目はITリテラシーの壁だ。「現場の方々は各部門の業務のプロフェッショナルですが、ITの専門家ではありません。一部の詳しい人だけに依存すると、改善そのものが限定的になり、属人化してしまいます」(金子氏)。改善のスピードや範囲が特定の担当者に左右され、その人の異動や退職とともに取り組みが止まりかねない。誰か1人に頼るのではなく、現場の多くのメンバーが自ら改善に関われる状態をどう作るかが問われる。

 3つ目のコストの壁は、細分化された小さな業務の積み重ねという現場の特性から生じる。それら一つ一つの業務に対応するためにツールを導入していくとツールが乱立してしまい、ライセンス費用や内部の教育コストが膨らみ、投資対効果が見合わなくなる。

1つの工場が直面した、データ集計の限界

 オムロン自身も同じ壁に突き当たっていた。その打破のきっかけとなったのが、リレーやスイッチなどの電子部品の製造を手掛けるグループ会社、オムロンリレーアンドデバイス(OER)の取り組みだ。同社は現場主導の改善活動が評価され、熊本商工会議所が主催する「くまもとDXアワード2022」を受賞した。

 OERが抱えていたのは、データ集計の負荷だった。設備台数は85台、設備パーツ数は1万点以上に上り、チョコ停(短時間の設備停止)や不良など分析すべき項目は膨大に増えていく。勘や経験ではなく、データに基づく設備保全を進めるには、この集計を効率化することが不可欠だった。

 その効率化を阻んだのが、先の3つの壁だった。分析の切り口は日々変わるため、業務を理解する現場自身が集計の中身を更新し続ける必要がある。現場は品質保全のプロであってもITの専門家ではなく、一部の担当者だけが仕組みを握れば、その人が抜けた途端に改善が止まりかねない。そして、データは紙の日報やExcel、各種システムに散在しており、それらを個別のツールで網羅しようとすれば、コストが膨らんでいく。

 これらを既存のツールやサービスで解決しようとしても限界がある。そうした状況で、オムロンは自社で解決する道を選んだ。背景にあったのは、創業者・立石一真氏が制定した社憲「われわれの働きで われわれの生活を向上し より良い社会をつくりましょう」に込められた精神だという。良い社会とは到来を待つものではなく、自らが先駆けとなって築き上げていくものだ、という考え方だ。

 現場の課題も、誰かが解決してくれるのを待つのではなく、自分たちの手で打開する。こうして開発されたのが、業務効率化ツール「pengu」だ。工場と新規事業部門が協働して生み出した。

 penguは、現場業務のIT化を支援するツールと人材育成プログラムをパッケージにしたサービスである。中核となるのは、「世界一簡単」を目指して開発したRPA(業務を自動化するソフトウェアロボット)に、高度なExcel作業を自動化するETLツール、紙帳票をデジタル化するOCRを組み合わせた構成だ。これに育成プログラムとサポートを加え、現場が自走できる仕組みをリーズナブルに提供する。

penguの概要(出典:講演時の投影資料)

全項目を毎日集計し、改善サイクルを加速

 オムロンはまずOERの業務でpenguを検証した。システムや紙帳票に散在し、集計に多くの工数がかかっていたデータを、これらのツールで効率化していった。

 成果は集計範囲の拡大に表れた。これまで不良は約600項目あり、人手では一部しか集計できなかったが、自動化によって毎日、全ての項目を確認できるようになった。100項目に及ぶチョコ停も同様に、ワンタッチで全て自動集計し、毎日把握できる体制を整えた。13ライン分の設備稼働率や稼働ロスの集計も自動化した。

 変化は工数削減にとどまらない。これまで担当者が勘やヒアリングを頼りに進めていた設備保全が、全項目のデータを毎日見ながら議論できるものへと変わった。担当者が想定していなかった気付き、例えば、特定のラインの洗浄が効果を持つのではないかといった議論も生まれ、現場からの改善提案は大きく増えていった。提案・改善の件数は1年で250件に達したという。

 その結果、設備稼働ロスは30%低減し、日産の生産数は16%向上、納期順守率は1.4倍へと改善するなど、品質やコスト、納期(QCD)の全てに効果が及んだ。

penguで集計作業をワンクリック化(出典:講演時の投影資料)

一部門の成果が全社・社外へ波及

 今回の事例で重要なのは、成果が1つの工場にとどまらなかった点だ。きっかけを作ったのはOERの第2製造部だった。その取り組みが隣の製造部へ伝わり、同じ集計業務を抱える品質環境グループ、さらに営業統括本部やグループ会社へと連鎖的に広がっていった。一部門の成果は親会社の経営会議でも取り上げられた。

 グループ内に広まっていった理由を金子氏は、「現場で感じていた課題を、自分たち自身で解決できました。だから自信を持って他の部署にも広められましたし、聞いている側も面白いと感じてくれました。結果として現場の改善が進んだのだと思います」と語る。現場発の実感が、横への展開を後押しした。

 展開はOERの内部にとどまらず、本社の情報システム部門の後押しも受けて、社内70部門以上へと拡大している。同じ仕組みは社外にも広がり、現在はpenguというパッケージとして、製造業や物流、医療など幅広い業種の顧客に提供されている。

一部門の成果が他部門に波及(出典:講演時の投影資料)

現場DXを成功させる3つの示唆

 金子氏は最後に、現場DXを目指す企業への示唆を3点挙げた。

 1つ目は、大きなDXより毎日の困りごとから始めることだ。金子氏は、大きなDXだけでは社内に広まらないという悩みがあるなら、日々発生している小さなムダから着手すべきだと説く。「現実解や成功体験を早期に得ることが重要です」(金子氏)。小さくとも実感を伴う成果が、次の一歩を後押しする。

 2つ目は、作って終わりにせず育てる視点だ。現場の業務も人も変わり続ける。導入時のキーパーソンが数年後にいなくなる可能性もある。だからこそ、ノウハウを特定の個人に留めず、現場自身が改善を回し続けられる状態をいかに確保するかが問われる。「改善を継続するために組織を設計していく視点が重要」と金子氏は強調した。

 3つ目は、個別ツールではなく共通基盤で考えることだ。現場には多様な課題とデータが存在するため、個別最適でツールを増やすには限界がある。さまざまな業務に共通して適用でき、誰もがアクセスしやすいインフラ的な基盤を、組織設計とセットで整えることが望ましい。金子氏は自社のpenguに加え、「Microsoft 365」なども有力な選択肢として挙げ、「組織として推進できるツールや基盤を見つけられると強い」と締めくくった。

本稿は、2026年6月4日に開催されたカンファレンス「DX/AI RUNNER EXPO 2026」(主催:RUNNER EXPO運営事務局)の講演「DXはなぜ現場で止まるのか?」における内容を基に、編集部で再構成した。

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