勤怠管理とは従業員の出勤や退勤、休暇、勤務時間を適切に管理することで、これらを電子的に行えるようにするのが勤怠管理システムだ。労働時間や休暇の取得状況を正確に把握することで、給与計算や労務管理に活用される。また、法令や企業の規定に従い、勤務時間外労働の管理や残業代の算出なども行われる(続きはページの末尾へ)。
労働基準法では「始業・終業時刻の確認および記録」が義務とされており、その記録は3年間保管しなければならないことになっている。記録の方法としてタイムカード、ICカードなどの客観的な記録を基礎とすることが定められており、自己申告制は実態調査などの条件つきでのみ認められる。自己申告制の場合でも多数の従業員対象に実施するのは、人手に頼る方法では難しいだろう。勤怠管理のためには、何らかのツール導入は事実上不可欠といってよいだろう。
勤怠管理の方法はさまざまだ。かつては紙に打刻されたタイムカードを人事、総務部門が手計算していたが、現在はタイムカードを利用していてもタイムレコーダー側で打刻時間と従業員をひも付けてデータ保持し、勤怠管理用サーバにデータを集約して管理する手法が主流だ。
打刻にはICカードや指静脈などの生体認証デバイス、PC入力、スマートフォン入力(図3)なども使われるようになり、従来型のタイムレコーダーを設置せずにICカードリーダーや生体認証デバイスを代わりに設置するケースも多くなっている。
従来型のタイムレコーダーとカードによる打刻手法では、テレワークや直行直帰が常態化している職種には向かない。PCやスマートフォンからの打刻はこの課題への最も簡便な解決になる。位置情報と関連付けながら正確な時間を管理できるため、出退勤の虚偽申告を防ぐことにもつながる。
タイムレコーダーや他のデバイスで記録した打刻データは従業員個人とひも付けて勤怠管理システムで管理され、APIやバッチ転送により給与管理システムなどに連携させるのが一般的だ。このような勤怠管理システムでは当然、勤務時間の計算事務は大幅に軽減する。だが最も注目すべきなのが、勤務時間を個人別に、月末などの集計時期を待たずにリアルタイムに集計できることだ。
例えば次のようなことが可能になる。
従来なら月に一度の集計では気が付かないようなことが毎日確認でき、システムによっては条件を設定してアラート発報することもできる。アラートメールを管理者だけでなく従業員自身に向けて自動発信することも場合によっては可能だ。残業時間の規定超過や過重労働の傾向などが、事後ではなく事前に把握できることにより、適切な指導や助言、業務負荷軽減などの対策が取れ、コンプライアンス違反や健康状態悪化の予防につなげることができる点がITツールならではのポイントだ。
勤怠管理システムにはどのような機能が備わり、製品選定においてはどのような点に留意すれば良いのだろうか。
勤怠管理システムを導入する際には、従業員にとっての打刻の利便性だけではなく、労務管理の観点から「勤務実態と乖離しない打刻方法」を選ぶ必要がある。Webブラウザやスマートフォンで打刻できることは、外出の多い従業員にとっては便利だが、一方で工場のようにPCを設置できない職場や、機密管理の都合上スマートフォンが持ち込めない職場も存在する。
こうしたケースでは、それぞれの環境において従業員が業務を始めるタイミングと終えるタイミングでタイムリーに打刻できる仕組みを用意する必要がある。例えば、工場での勤務開始を「更衣室に入る時点」と定めているのであれば、PCやスマートフォンより、更衣室に打刻機を設置する方がいいかもしれない。外出先でスマートフォンを使って打刻する場合には、あわせてスマートフォンの位置情報も取得することで虚偽の打刻を防ぐこともできる。
効率的、かつ正確に打刻できるようになっても、取得した打刻データを集計するのに多くの人手を費やしていてはシステム化の効果が限定されてしまう。そのため、大半の勤怠管理システムでは打刻データを自動的に集計してさまざまな切り口から可視化できる機能を備えている。こうした機能を活用することで、人事・労務部門における勤怠管理業務の負荷を大幅に低減できる。
企業によっては、所定労働時間や日をまたいだ際の残業時間の処理などが異なる場合がある。こうした独自要件に製品が対応できない場合、別途手作業で補完する必要があるため、せっかくシステムを導入したにもかかわらず業務負荷がほとんど減らないということもあり得る。こうした事態に陥らないためにも、自社独自の勤怠管理ポリシーをあらかじめ洗い出し、製品仕様とのフィット&ギャップを丹念に行っておく必要がある。
こうして打刻と集計をシステム化して労働時間を適正に管理できるようになったら、次の段階として収集したデータを基に残業時間を管理したり、従業員の働き方を改善するフェーズへと移れる。
多くの勤怠管理システムが、残業時間が法令で定める上限に近づいた際にアラートを通知する機能を備えているため、法令違反のリスクを回避するとともに、従業員の健康管理に配慮した健康経営の実現にも貢献できる。
IT製品を導入する際には、どうしてもコストの観点が欠かせない。代表的なクラウド勤怠管理製品はどれも月額料金300〜400円のレンジで価格が設定されており、利用コストに大きな差はないようだ。
中には「基本機能のみなら月額100円」といったサービスもある。その場合は自社にとって必須の機能が基本機能とオプションのどちらになっているか確認してほしい。
クラウド勤怠管理製品の中には、細かなパラメータ設定によりさまざまな業務プロセスに柔軟に対応できるものもある。しかし、ユーザー側がこうした機能を生かしきれず、導入効果を十分に発揮できていないケースもある。自社で製品の導入・運用に十分な人的リソースを投入できない場合は、製品ベンダーやサードパーティーベンダーに導入・運用作業の支援を依頼することも検討してみるべきだろう。
勤怠管理システムはそれ単体で利用することも可能だが、給与計算システムに代表される他の人事・労務管理システムと連携することでより広い範囲の業務をシステム化できる。そのため、外部システムとの連携インタフェースの有無も重要な選定ポイントの一つになる。
API連携をうたう製品でも、ユーザーが独自に追加した項目のデータをやりとりできない場合があるようだ。自社の既存ツールとの親和性を十分に考慮した上で導入したい。
クラウド勤怠管理システムは社員情報や組織情報をクラウドで管理するが、「クラウドに社員情報を預けるのは心配」という理由から導入のメリットを逃してしまうのはもったいない。
製品の選定に当たってはセキュリティ対策がしっかり行われているかどうかをリサーチし、安心してデータを預けられる製品を選びたい。
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