「管理職多すぎ問題」解消したらどんな組織ができるか
「No上司」「No部署」をやってみた会社の話(1/2 ページ)
部長も課長も係長もいない会社は日本でも可能なのか。海外の著名なスタートアップをはじめ、ミレニアル世代を先導する成長企業が採用する手法を、純正日本企業が実践したら、どうなるか。
管理者も役職も部署もない組織体制「バリフラットモデル」はなぜ生まれたか
ITサービス企業として多くのITシステム・サービスの企画・開発の実績を持ち、パブリッククラウドのクラウド活用支援サービス「くらまね」などの独自サービスの開発・販売などを手掛ける株式会社ISAO(以下、ISAO)。
技術力を武器に着実にビジネスを成長させてきた同社だが、ここのところ、組織のユニークさで注目を集めつつある。その理由は同社に管理職や役職者が存在しないからだ。「役職ゼロ」「管理職ゼロ」「階層ゼロ」を掲げ、社員全員がフラットな関係性の元で業務を推進する「バリフラット」と呼ぶ組織体制を運用する。
新しい組織運営の方法論として近年注目を集める「ティール組織」や、契約に基づく民主主義の思想を色濃く反映する「ホラクラシー」などの組織論とも異なる、同社独自の組織運営だ。
ISAOは最初からこうしたユニークな組織だったわけではない。経営者が指揮を執り役員や部課長が方針を定め、その意思を各部門やチームが具現化する、あるいは部課長などの責任者を役員や経営者らが束ねるという、よくある日本企業らしい組織だった。組織運営の方法そのものの大方針転換に、同社はどう取り組み、どう実践し、どう定着させているだろうか。
ISAOは1999年にセガが発売した家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」のネットワークサービスなどを手掛ける企業として創業した。しかしその後、セガがドリームキャスト事業から撤退し、2010年に親会社が変わったことに伴い、現在の業態へと大きくシフトした。
そのタイミングで取り入れたのが、現在の「バリフラット」と呼ばれる新たな組織体制につながる「ピラミッド構造」の縮小だ。その背景について、同社の湯川啓太氏は次のように説明する。
「親会社が変わった2010年当時は業績が思わしくなく、挽回のために新たに着任した中村(編集注:ISAO CEOの中村圭志氏)を中心に組織改革に着手しました。その際に最も重視したのが『スピード』でした」
市場環境の変化が速く、社内の意思決定も早めなければ環境の変化に追随できない、という危機感があった。だが当時のISAOの組織体制は、社長を頂点に役員、本部長、部長、チームリーダー……と4~5階層のピラミッド型の構造だった。
多くの階層が意思決定に関わっていては、その分、動き出しのスピードは落ちる。加えて最終決裁者には多くの意思決定が委ねられてしまう。結果として処理し切れない状況が生まれてしまう。
「ならばいっそのこと、階層をなくして現場の個々人に意思決定を委ねればいいではないか」――こうした大胆ともいえる発想から、バリフラットの取り組みは始まった。
「一般的なリテラシーや個々の案件の詳細については、役員や部長よりも現場の人間の方が詳しい。現場の個々の担当者が自身の責任で意思決定を行った方が正しい判断を素早く下せるはずです。そうした考えからピラミッド型組織をフラットな組織へと変えていくことになったのです」(湯川氏)
経営・業績から人事・評価に至るまで全ての情報をフルオープン
とはいえ、旧来型のピラミッド型組織から一足飛びに完全フラット組織に移行するのはさすがに無理がある。そこでまずは中間管理職の役職を廃止して、5つあった階層を4階層、3階層と徐々に減らしていき、最終的には5年を掛けて完全にフラットな組織形態を完成させた。
部長や課長といった中間管理職を全て廃止した同社には、「部」や「課」といった部署の概念はない。その代わり、全ての仕事はプロジェクト単位で進行する。仕事の案件はプロジェクトの単位で遂行され、このプロジェクトを束ねるリーダーが必要なメンバーを社内でスカウトして集める。
リーダーはプロジェクトの運営に関して責任を持つが、プロジェクト内におけるリーダーとメンバーの関係は固定化されておらず、1人の社員が複数のプロジェクトに所属でき、かつあるプロジェクトでリーダーを務めている者が別のプロジェクトではメンバーとして働くこともできる。
プロジェクトには厳密な予算はない。「プロジェクト化が必要である」と示すことができれば、いつでもスタートできるからだ。四半期ごとに予算を編成して、その予算の中でプロジェクトを運営する、といった長いプロセスを持たないことで機動力が高まる仕組みだ。
この組織形態を機能させる上で、最も重視しているのが「情報をオープンにすること」だという。意思決定権がピラミッドの上位層に集中する組織では、重要な経営情報にアクセスできるのは上位層の役職者だけに限られる。しかしバリフラットモデルでは、全社員に等しく意思決定権があるため、正しい意思決定を下すためには経営情報を全社員に対して完全にオープンにしておく必要がある。
オープンにする情報には、人事や給与、勤怠に関する情報も含まれる。ともすると非常に個人的な情報でもあり、妬みやそねみといったマイナスの感情が生まれそうな施策に見える。だが、このオープン性は組織の「自浄作用」を期待できるのだという。
「社員が互いの給与額や待遇を知るため、『あの人はこれだけの給料をもらっているのだから、もっと成果を出すべきなのでは?』『あの人はあれだけ成果を上げているのに、なぜこれしかもらっていないのか?』といったように、いい意味での相互チェック機能が働きます」(湯川氏)
同社の経験によれば、相互チェック機能があればこそ、全員が手を抜かず、不正を働かずに正しく行動しようという意識付けも強くなるそうだ。ティールやホラクラシーといった次世代型の組織論では細部に違いはあるものの、本質においては自律性と公平で対等な関係性を重視するものといえる。バリフラットの場合、これに加え、よりコミュニティとの関係性の中で正しくあることを要求され、それに応える意識付けが自律性や主体性を強化する装置として機能しているといえそうだ。
評価者を自分で選べる「コーチ」制度
また、人事評価制度も極めてユニークだ。一般的な組織であれば、所属する課や部の管理職が部下の評価を行うが、そうした部署や役職者がいないISAOでは、その代わりに個々の社員に「コーチ」が付く。社員は、自身の成長を支援してくれる社員を「コーチ」として自ら指名する。何か困ったときにはコーチにアドバイスを求めるられる。
ISAOのバリフラット組織は、指名したコーチがその社員の評価も担当する。その評価プロセスも極めてユニークだ。まず社員は、自身の評価コメントを寄せてくれる他の社員を複数人指名し、そこで集めたコメントをコーチに託す。コーチはそれらの内容と、自身の評価を吟味した上で、総合的な評価内容を「人事ミーティング」と呼ばれる会議体に諮る。ここでは、他のコーチからも意見が出されることがあり、それらを加味した上で最終的な評価が決定する仕組みになっている。
社員が自らの評価相手を指名できるため、一見すると「出来レース」になってしまうのではと考えがちだが、湯川氏によれば「社員を評価するメンバーの顔ぶれも全てオープンにしているので、やはり相互チェック機能が働いて、“なあなあ”や“忖度”が生じないよう自然と自浄作用が働くようになる」という。
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