では、通話の仕組みを紹介しよう。中核となるのは「スマートフォン内線化」技術だ。キーマンズネットでも企業内でスマートフォンを内線として使う手法として詳しく紹介しているが、IP-PBXを導入する方法のバリエーションに1つに当たる。
つまり、スマートフォンのWi-Fi機能を利用し、アクセスポイントを介して無線LANで交換機能を持つIP-PBXサーバに接続する仕組みだ。
企業内なら「内線番号」を利用するところだが、この場合は各スマートフォンにVoIP通話を行う専用アプリを配布し、もともとの電話番号をそのまま内線として使えるようにした。エリア内の人々が従来の電話番号で通話し合えるようにするためだ。契約するキャリアにかかわらず、同じ方法で通話ができるのがポイントだ。
被災者が行う具体的な操作は次の通りだ。まず、無線LANアクセスポイントへの接続設定と通話アプリをダウンロードし、IP-PBXへの電話番号を登録する。複雑なようだが、会津大学学園祭での実証実験などの結果では操作に慣れた人なら1〜2分、不慣れな高齢者などでも15分以内に設定が完了できたという。その後、アプリを立ち上げ、通話相手の電話番号をダイヤルすれば通話できる。
ただし、通話はあくまで「内線」であることに注意が必要だ。ICTカーのカバー範囲以外の遠隔地との通話は、エリア内に残存する電話局舎の光ファイバー網への接続、あるいは衛星通信の利用が前提になる。
東日本大震災の際には固定回線および携帯電話回線が失われても光ファイバーへの影響はごくわずかだった。従って、災害時にも光ファイバー網が使える可能性は高い。しかし、避難所との距離の問題で難しい場合もあるだろう。
衛星通信装置については今回の発表にないが、既に車載用モジュールが市販されており、実際に機能を搭載した緊急派遣車両を用意した自治体もある。こうしたモジュールや車両との連携で簡単に広域ネットワークへの接続が可能になりそうだ。
なお、外線発信に関してはIP-PBX機能により利用者が意識することなく固定および携帯電話への発信が可能だ。例えば、構内交換機の場合、外線発信するときに先頭に「0」を付けてからダイヤルする例が多いが、これを不要とする。また、ダイヤルした際に相手が「内線」エリアに存在しなければ自動的に外線発信を行う機能を持つため、災害時利用の際には利便性が高い。
一方、外線着信の場合は、発信者がIP-PBXに設けられた「代表番号」にダイヤルする必要がある。いったんIP-PBXと接続した後、通話先電話番号をプッシュして通話相手のスマートフォンを呼び出すことになるので一手間かかる。また、被災者がいる避難所エリアの代表番号が分からなければ発信できないので、それを広く広報する仕組みを作る必要もある。これは大きな課題になる部分だ。
もう1つの課題は同時接続数だ。車載IP-PBXは5000端末を収容し140端末の同時接続と交換ができる性能を持つが、無線LANの帯域がそれに見合わず、場合によってはつながりにくい状況が生まれる可能性がある。
ICTカーの役割のもう1つは、エリア内の被災者のデータを収集、データベース化して管理環境を作ることだ。
従来は被災者に名前などを紙に記入してもらって帳簿にする、あるいは表計算ソフトに入力するといった手間をかけていたが、ICTカーでは、タブレット端末で被災者をカメラ撮影し、被災者手持ちのIC自動車免許証、交通系ICカード(Suicaなど)、おサイフケータイなどのID情報を同端末のNFCリーダーで読み取って、情報をひも付けられる。ICカードなどを持たない人には事前に用意した未使用ICカードを配布し、固有IDと個人情報とをひも付ければよい。
ICカードなどから抽出できない情報は、各種書類をカメラ撮影した画像やボランティアによる入力テキストで補完する。このような方法だと被災者登録にかかる手間は1人当たり数十秒で済む。後で人手による修正や追加入力はあるが、登録作業は格段に時短できることになる。
このデータ収集に用いられるシステムも、図7のように1個のアタッシェケースに収められるコンパクトサイズだ。どこにでも設置して被災者の登録作業を行える。登録した情報を基に、被災者の避難所間の移動や健康状態の確認、支援物資の受け渡し管理などが合理化、効率化することが期待される。また、広域ネットワークに接続できた場合は安否情報を安否情報確認サイト「J-anpi」との連携も可能だ。
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