メディア

データセンターになるワンボックスカー「ICTカー」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2014年02月05日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
前のページへ 1|2|3       

ICTカーは冷却装置も備わる小型データセンター

 ICTカー内部には1日以上の運用に耐えるバッテリーと、燃料がある限りはいつまでも使える発電機、通信設備、サーバ、ストレージがあり、機器は定格の温度環境で稼働できるように空冷システムも備える(図8)。いわばデータセンター設備が車両内にまとまっているわけだ。

ICTカーのサーバ床下に冷却材がある 図8 ICTカーのサーバ床下に冷却材がある(出典:NTT未来ねっと研究所)

 冷却用には車両の床面に潜熱蓄熱材(図8の白いタオルのようなもの)が装備される。その領域に外気を通し、冷やした空気をICT機器搭載ボックス(図では開放されているが、通常は右のボックスのように閉じられる)内の機器正面に導く。そして機器背面でファンが回転して熱気を車外に放出する。電力消費を最小限にできる相変化方式の空冷システムになっている。

 このような仕組みで安定稼働ができ、かつサーバにはある程度リソースの余裕があるので、通話や被災者情報管理以外の情報処理も可能だ。そこで搭載サーバに幾つかのシステムを仮想化して集積し、それぞれ個別に運用することも想定される。

 稼働させる対象には、自治体の行政システムや病院の業務システムなどが考えられる。仮想化技術を利用することで、電力やネットワークインフラが損なわれて使えない物理サーバの機能を丸ごとICTカー内に移行でき、各種住民サービスを迅速に回復させることもできそうだ。

ICTカーの今後は?

 ICTカーや移動式ICTユニットには、一般に市販されている製品が利用され、コモディティ製品も多い。これは低コストかつ柔軟に代替が効くようにとの設計思想からきたものだ。特にアタッシェケース型ICTユニットのハードウェアは電気店で販売されているものばかりで、上手に買えば5万円を下回るかもしれない。

 低コスト化が図られているとはいえ、ICTカー自体には相当のコストがかかるのはやむを得ない。被災時対応だけでなく、平時にも、例えば通信が込み合う繁華街やイベント会場などでの携帯電話通話の混雑に対して通話オフロード対策として活用するといった、より利用価値を高める工夫ができるとよい。

 また、衛星携帯電話やMCAシステムなどによる広域ネットワークへの接続とは目的が異なることにも注意したい。ICTカーは被災直後の安否確認や被災状況伝達など緊急連絡や通報よりも、災害から1日程度経過して避難所や近隣地域内で被災者の生活が始まるタイミングでの支援効果が期待されている。

 なお、NTT研究所では2014年2月から高知県の南国市と黒潮町で、自治体および住民が参加してICTカーの効果検証のための実証実験を行う予定だ。実験を経て今後1〜2年以内にNTTグループ各社や地方公共団体などへの導入を目指す。

 また、2013年11月に大きな台風被害を受けたフィリピン政府からICTカーによる応急復旧の要請が寄せられており、総務省はじめ関係機関と対応に向けた検討を進めているところだ。

関連するキーワード

災害対応のための情報通信支援用車両

 例えば、2013年4月にはOKIが車車間通信および路車間通信技術を利用した「災害時車両通信ネットワークシステム」実験を行った。この実験ではネットワークインフラが損壊した2キロ四方で30分以内に緊急迂回通信路を確保できることが示された。

 また2013年10月にはトヨタと情報通信研究機構(NICT)がTVホワイトスペース通信と車車間無線通信およびコグニティブ無線ルーターを利用して被災地の通信を広域ネットワークに接続する実験に成功した。電源車、衛星通信装置搭載車両などは既に災害対策用に配備するる自治体がある。

「ICTカー」との関連は?

 ICTカーはあくまでローカルでの情報通信機能を復活させることを優先し、広域ネットワークへの接続は二次的な課題だ。ただし、残存光ファイバー回線や衛星通信に接続するためのインタフェースを装備するので、広域ネットワークを利用した外線通話なども可能だ。

IP-PBX

 PBXはアナログ時代から使われてきた電話回線交換機のこと。通信のIP化に伴いIPプロトコルを利用するIP-PBXが主流になった。IP-PBXを組織内の音声系ネットワークに導入すると、IP電話機やPCのソフトフォン、スマートフォン、無線LAN対応のVoIP端末が内線電話として利用可能になる。

「ICTカー」との関連は?

 ICTカーは搭載サーバにIP-PBX機能を備える。また、アタッシェケース型ICTボックス内の超小型PCにもIP-PBXソフトが組み込まれている。組織内に導入する場合は多機能電話の機能実現のために複雑な設定が必要になることが多いが、ICTカーの場合はシンプルな通話だけに機能を絞り、電話番号が登録されたらすぐに通話が可能になる。

NFC

 「Near Field Communication」の頭字語で、非接触型のRFID利用通信のこと。中でも高機能な国際標準のNFCに準拠した製品のことを指して「NFC対応」という。IC運転免許証、社員証兼用ICカード、Suicaのようなプリペイドカード(Felica)などがNFC対応カードだ。また、同様の機能がおサイフケータイなどと呼ばれる携帯電話にもある。最新のスマートフォンやタブレットにはNFCリーダー/ライター機能を備えるものが多くなっている。

「ICTカー」との関連は?

 NFCカードなどに利用されるICチップには個別の識別IDが必ず記録される。ICTカーが備える被災者情報収集、管理システムでは、被災者が持つどれかのNFC対応製品を情報入力用タブレット端末(NFCリーダー内蔵)にかざすだけでID情報を取得できる。

 IDを被災者の個人情報とひも付けて管理することで、確実な被災者管理と安否情報発信に役立つ。健康状態データを組み合わせて健康管理に利用したり、物資配給計画を精度よく作成したり、配布実行時に管理を正確にしたり、避難所からの移動を管理したりと、さまざまな応用が可能になる。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。