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IEEE 802.11acのさらに先を行く「協調無線LAN」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2014年02月19日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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周波数の「ムダ領域」を上手に利用してスループットを向上

 複数のAPによって周波数を「すき間」なく利用し、周波数利用効率を上げる仕組みも有効な手段だ。これは従来規格の通信と混在する環境を想定したもの。あらましは図5に見るように、周波数の「すき間」に新しい規格の通信をはめこんで、周波数リソースを有効活用する。

 新しい規格の通信の間に時分割でIEEE 802.11nの通信が割り込んでくると、新規格の1チャネル(80MHzを想定)の一部である40MHzが使われて、残りの40MHzが使われなくなる。また、IEEE 802.11aの通信が割り込むと、60MHzがムダになる。

 そこで、今どんな通信が行われているかを把握し、このすき間領域に別の帯域幅にした新しい規格の通信を割りこませれば、周波数リソースを有効活用してスループットを上げられるはずだ。このようなきめ細かい制御を自動的に行うための研究も同時に進められている。

空いている周波数リソースの有効活用 図5 空いている周波数リソースの有効活用(出典:NTT未来ねっと研究所)

AP制御をネットワークから実行できる「協調無線LAN」の世界

 無線LAN環境がますます拡大する将来は、携帯電話通信と無線LANがお互いに電波を最適利用しながら融合すると考えられる。モバイルでの通信量は2020年代には2010年比で最大1000倍になるとの予測もある。

 それほどの大容量通信は現在のモバイル通信環境では対応不可能だ。LTEのさらに次世代規格や、これからタスクグループが立ち上がるHEWが、大容量を支える基軸になるだろう。

 また、オフィスやマンション、家庭、商店街、スタジアムなどの公衆エリアにAPが設置され、スマートフォンやタブレット、M2M端末、IP TVや監視カメラなど、さまざまな端末が無線LANを利用すると、無線環境や機器設定は複雑化することが予想される。

 NTT未来ねっと研究所は、ネットワーク上に「無線リソース制御エンジン」を構築し、ユーザーが何も意識することなく、高効率の無線アクセスが利用できるシステムを提案する。上述のようなAP間の協調による高効率な無線LANの制御部分を、AP個々にではなく、ネットワーク上で集中管理し、制御する仕組みを作るというアイデアだ。

 無線リソース制御エンジンは、チャネル割り当て、帯域制御、送信電力制御などのゾーン制御機能と、スループット予測やAPリモート設定、異常検出などのシステム運用管理機能を持つツールを想定する。これにより高価になりがちなAPの機能をネット上で代替し、低価格化や広範な普及を促し、来るべき大容量無線環境に備えようというわけだ。いずれは単なるAP間の協調にとどまらず、社会のICT機器が無線によって「協調」する時代が到来しそうだ。

関連するキーワード

干渉

 複数の無線システムが同じ周波数を使うと各システムの信号が混ざり、誤りなく通信することが困難になる。他の無線システムからの干渉は、通常の雑音よりも高いレベルで受信され、通信品質を著しく劣化させる場合がある。

 無線LANシステム同士でも、少し離れた場所で同じ周波数帯域で通信を行った場合には、お互いの電波が混ざり通信品質を著しく低下させることがある。

「協調無線LAN」との関連は?

 協調無線LANは、IEEE 802.11ac規格で可能になった80MHzまたは160MHzのチャネル帯域を前提としたものだ。従来の無線LANチャネルよりも広い帯域のチャネルは、電波法で許されている無線LANの利用帯域で数チャネル(5GHz帯なら4チャネル)しかとれない。

 すると近接するAPが同一チャネルで運用せざるを得ないケースが、これからの高密度環境では現出しやすくなる。そこで、同一チャネルでも同時接続を可能にする仕組みとして「協調無線LAN」が考えられた。

IEEE 802.11 WG

 IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers、米国電子電気学会)は、電気、電子、通信などの分野での国際標準策定を行う公益法人だ。多くの委員会がある中で、LANに関する委員会が802標準化委員会であり、その中の無線LANに関する標準化部会が802.11だ。

 ここで作られた規格がIEEE 802.11と呼ばれる。部会の中にはさまざまなワーキンググループ(WG)がある。動議があるとスタディーグループ(SG)が作られ、さらに具体化のためのタスクグループ(TG)が立ち上げられて規格策定が行われる。

「協調無線LAN」との関連は?

 IEEE 802.11acが協調無線LANのベースで、IEEE 802.11acの技術をさらに洗練、改善し、新しい技術をつけ加えた。IEEE 802.11acの後継規格と目されるHEW(High Efficiency Wireless LAN、これは規格名ではない)の基礎になりそうだ。

 なお、HEWを検討するHEW SG(スタディーグループ)が2013年に発足し、Huaweiが議長、NTTがセクレタリに就任した。2014年内に次の段階であるタスクグループが立ち上がる予定だ。

無線LAN周波数帯

 電波法で無線LANに割り振られる周波数帯域のこと。日本では2.4GHz帯と5GHz帯が主に用いられている。準ミリ波帯(19GHz帯、25GHz帯、27GHz帯)を利用するものもある。

 2.4GHz帯を利用する無線LAN規格はIEEE 802.11b/g/nの3種がある。5GHz対応を利用する規格はIEEE802.11a/n/acの3種だ。

「協調無線LAN」との関連は?

 IEEE 802.11acがベースなので5GHz帯中心に研究されるが、2.4GHz帯でも同様の高スループット化が可能と考えられる。

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