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海のうねりが電力を生む「海流発電」とは?5分で分かる最新キーワード解説(1/4 ページ)

黒潮などの巨大海流を発電エネルギーとして利用する「海流発電」。70%の設備利用率が期待できる新世代の発電技術に迫る。

» 2014年05月21日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 今回のテーマは、世界有数の巨大海流である黒潮を利用して発電する「海流発電」だ。太陽(熱と光)、風(風力)などのソフトエネルギー開発が続く中、日本の領海内に無尽蔵に存在する海流の力を電気に換えようという試みが、実用化への新しいステップを踏み出した。安定供給でき、しかも設備利用率は70%も期待できる新しいベースライン電力への期待が膨らむ。

「海流発電」とは

 海流とは、海の中を水平方向に移動する海水の流れのことだ。日本では黒潮、親潮、対馬海流が代表的で、特に黒潮はメキシコ湾流と並び世界2大海流とも称される巨大海流だ。その幅は約100キロ、流速はおよそ3ノット(時速約5.6キロ)、最大では4ノット(時速約7.4キロ)にもなる。しかも、海の中を進む海流は風雨や潮汐にほとんど影響されず、年間を通じてほぼ安定した速さで流れる。

浮体式海流発電ファームの予想図 図1 浮体式海流発電ファームの予想図(出典:IHI)

 黒潮は、沖縄の西側を北上して九州の南を通り、四国から紀伊半島沖で最大の流速となって、さらに本州に沿って北上して房総半島沖で東に進む。このような巨大海流を領海内で利用できる国は限られ、日本は世界的に見ても海流発電に最適な条件に恵まれている。

 どうにかこの巨大エネルギーを有効に利用する術はないものか。長年夢想されてきた技術がようやく、現実のものになろうとしている。図1に見るような巨大海流発電ファーム(予想図)の実現に手がとどきそうな基礎技術が、官民学一体の国家プロジェクトとして実を結びつつあるのだ。

 古くから海流発電にはさまざまな方式が考えられてきた。基本は、どれも海流をプロペラや水車で受け止め、回転させて電力を得るというシンプルなものだ。

 海水は空気の約800倍の密度があるため、海流のエネルギーは非常に大きい。しかし、風力に比べて海流の速度はかなり遅い。風力発電設備の場合は年平均風速が秒速6メートル以上必要とされ、秒速12メートル以上の風速で2メガワットクラスの発電が可能といわれる。

 しかし、海流は黒潮の場合でも流速は平均3ノット(秒速1.5メートル)程度なので、同等の電力を生むためには直径の大きな海中用タービンがいる。すると発電装置のサイズも大きくなり、コストの問題、強度の問題、メンテナンス性の問題など、さまざまな課題が立ちはだかる。民間企業だけで解決を図るのは難しく、これまで技術開発が積極的には行われなかった。

 転機が訪れたのは2011年のことだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「風力等自然エネルギー技術研究開発/海洋エネルギー技術研究開発/次世代海洋エネルギー発電技術研究開発」事業のスタートだ。

 これは国家的なエネルギー安全保障やCO2排出量削減という目的の他に、海洋エネルギー利用技術開発で先行する海外諸国とのギャップを埋め、国際競争力を持つ事業化を明確に目標に掲げて、中長期的な海洋エネルギー利用技術開発と実証研究を進めるものだ。

 この事業で次世代海洋エネルギー利用発電は、事業化時に1キロワット時当たりの発電コストを20円程度にするという高い目標が掲げられた。海流発電によってこの目標にチャレンジしようと手を上げたのが東芝、東京大学大学院新領域創成科学研究科、三井物産戦略研究所、IHIによる共同研究コンソーシアムだった。スタートから4年、コストを抑えて発電効果を上げる。これまでにない海流発電の要素技術が次々に開発された。

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