SaaSやシンクライアント導入、OS XやChromeOS、Windows10の登場など2015年はクライアント環境が激変する。企業の最適解について考察する。
藤吉栄二(Eiji Fujiyoshi):野村総合研究所 基盤ソリューション企画部 上級研究員
大手電機メーカー系ソフトハウスで無線技術の研究開発に従事。2001年に野村総合研究所に入社。IT基盤イノベーション事業本部でIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。専門はクライアント端末、ネットワークの先進技術動向調査と企業活用研究。
Windowsが基本であったクライアント環境は、今やさまざまな選択肢が広がっている。近年は、企業におけるSaaS(Software as a Service)やシンクライアントの導入が拡大しており、OS XやChromeOSなど、Windows以外のOSを搭載する端末の採用も容易になった。また、2015年後半にはWindows 10が正式発表される。
クラウドファースト、モバイルファーストが到来する時代において、企業クライアント環境は変革期を迎えると予想される。そこで今回は、企業クライアントを取り巻く現状と今後の展望について考察したい。
企業PCのメインOSであったWindows XPのサポートが2014年4月に終了して半年以上が経過した現在、多くの企業がWindows XPからWindows 7を搭載した企業PCへと移行した。野村総合研究所(以下、NRIと略記)が企業のIT部門に所属する社員を対象に実施した調査では、「Windows 7への移行」が、2012年9月の調査から2014年3月の調査にわたって最も重要なITプロジェクトの1位であった。
Windows XPサポート終了後の2014年9月に実施した調査では、「Windows 7への移行」は4位へと降下しており、Windows 7端末の企業導入が収束し、安定稼働に入りはじめたと考えられる。
一方、Windows 8/8.1の導入は低調である。同調査では「Windows 8への移行」は、2013年2月の調査において調査対象として追加してから2014年9月の調査まで、最下位の25位を推移しており、同OSに対する企業の関心の低さがうかがえる。
SaaS(Software as a Service)やシンクライアント導入企業の増加によって、企業クライアントに対する要求も変わりつつある。近年は、セールスフォース・ドットコムに代表される業務アプリだけでなく、Google pps、Office 365のような文書作成、表計算などの統合オフィスソフトもクラウドサービスとして提供されている。今やブラウザを搭載したPCさえあれば、最低限の作業はこなせるようになった。
また仮想化技術や管理技術の成熟によって、シンクライアントを導入する企業が増えている。これまでは、セキュリティの確保を目的とした導入がメインであったが、最近はBCP(Business continuity planning:事業継続計画)への対応を目的とした導入も多い。それに伴い、導入企業もセキュリティに敏感な金融機関だけでなく、製造や商社、一般企業へと裾野が広がりつつある。
シンクライアントであれば社員のデスクトップ環境の動作に必要なリソースはサーバ側にあるため、クライアント端末に求められる機能は必要最小限で済む。ネットブックのような安価なWindowsPCやMacOS端末などもクライアント端末の候補だ。また、スマホやタブレットもクライアント端末として利用できる。
ベネッセ事件では、クライアントに関わるリスクが顕在化した。同事件では、USBポートの利用を制限したはずの企業PCに、個人所有のスマートフォンが接続されて顧客情報が社外に持ち出された結果、経営問題にまで進展した。
事件の本質的な原因は社員に対するガバナンスが徹底していなかったことにあるが、技術面での課題もある。同社が導入したUSBの制御ソフトは最新のスマートフォン特有のファイル転送方式を制限できておらず、情報の流出を未然に防ぐことができなかった。
スマートフォンなどの消費者向けITの進化は早く、企業向けのセキュリティツールがリスクを完全につぶすことは難しい。同事件を契機に、情報セキュリティ対策に敏感になる企業は多いが、技術だけでなく社員のIT利活用ポリシーやルールの見直しも必要となるだろう。
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