CMOSアニーリング試作機の特長を説明してきたが、将来的にはどのような応用が行われるのだろうか。日立では、大規模な組み合せ最適化問題が発生する社会インフラのイノベーションに貢献したいとしている。
特に、先に上げたような物流や倉庫業界の最適経路探索には、物流拠点や集配地点などの拠点間の移動コストを入力パラメータ、移動経路を制御パラメータとして、巡回セールスマン問題の解き方をそのまま適用できるので、総移動コストの最小化が見込める。
また、交通システムでは信号などの制御により車のフローを最適化して渋滞の解消に役立ちそうだ。電力送電網では、発電、消費電力量と経路容量を入力パラメータ、発電量と経路を制御パラメータにしてフロー最適化を行うことにより、電力安定供給に貢献するものと考えられる。
また、組み合せ最適化問題は何も社会インフラなどを想定しなくても、企業ビジネスの中にいくらでも見つかる。例えば、従業員やアルバイトの勤務スケジュールの合理的、効率的な作成や、プロジェクト工期を最短にする作業フロー作成やリソースマッピングなどなどだ。CMOSアニーリングチップは一般的なLSIなので、PC用のボードに載せ、例えば、GPGPUなどのような計算処理のアクセラレータとして利用することも可能になるかもしれない。
日立では、この技術の用途を見つけて実用化に持っていくとしており、今後は試作機よりも微細なプロセスでのチップ作成を進めながら、ビジネスとの接点を探していく。
2011年にカナダのD-Wave Systemsが「世界初の商用量子コンピュータ」とうたって発表した「D-Wave One」を指す。これは量子アニーリングを用いて組み合せ最適化問題の近似解を効率よく導き出せる、いわば機能特化型のコンピュータだ。プロセッサには超電導素子を用いており、0.02Kという極低温環境で動作する。その後、D-Wave Twoも登場した。
ただし「量子コンピュータ」といえるほどに量子性を利用しているのかどうか、いまだに議論がある。量子アニーリングでは、量子コヒーレンスが100%(環境からの干渉が全くない状態)で、十分に時間をかけられれば「最適解」を理論的には見つけられる。しかし、現在のところ環境からの相互作用を全く受けない状態を維持するのは困難で、現実的に出てくるのはやはり「近似解」だ。
「CMOSアニーリング」との関連は?
乱雑性を乱数を使って取り入れていることからCMOSアニーリングは焼きなまし法に近い。専用機であることが特徴で、CMOS製造プロセスの微細化やチップの並列化によりさらに大規模も可能である。組合せ最適化問題を解くという目的がD-waveと共通する。
従来のコンピュータが2値のビットを利用して計算するのに対し、量子コンピュータは量子ビット(qubit/quantum bit/キュービット)で計算できるものを指す。量子ビットは、1量子ビットに0と1の値を任意の割合で重ね合わせて保持できるため、量子ビットがn個なら、2のn乗の状態を同時に計算できる。
量子ビットを多くすれば、現在のスーパーコンピュータが数千年かかるような計算を数秒程度で終わらせられる。これは暗号の解読のような高速で大量の因数分解を行う仕事に向き、実現すれば今の暗号システムを無意味にすると考えられる。
量子アニーリングが広く知られるようになったため、ゲート型量子コンピュータのような表現も利用される。量子アニーリング型であるD-Waveのような特定目的で一部の量子性を利用する製品以外には、環境と量子の相互作用を防げないことからまだ製品化例はない。
「CMOSアニーリング」との関連は?
従来のコンピュータの量子版がゲート型量子コンピュータに相当し、焼きなまし法の量子版が量子アニーリングに相当する。コンピュータをこの4種類に分類するとすれば、CMOSアニーリングは焼きなまし法に分類される。
磁性体を記述するための単純化された統計力学的モデル。各サイトにスピンが割り振られ、問題に応じてスピン間相互作用が設定される。各スピンは「+1」と「-1」の2値だけを取る。
「CMOSアニーリング」との関連は?
CMOSアニーリングでは各サイトが「0」「1」の2値を取り、イジングスピンの2値(+1、-1)と同じになる。
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