このようにマイナンバー制度への対応に求められる取り組みは、単に「人事/給与システムにマイナンバー用の項目を追加する」というだけではないことがお分かりいただけただろう。では、実際にマイナンバー制度対応に取り組む企業は情報システム面においてどのような取り組みを進めているのだろうか。
以下のグラフは年商500億円未満の企業に対し、「マイナンバー制度に対応するため、実施を予定している具体的な取り組み(複数回答設問)」を尋ねた結果のうち、主要な選択肢をプロットしたものである。
グラフでは省略しているが、最も多く挙げられた選択肢は「現時点では全く判断できない(48.5%)」である。まだ半数近くの企業がマイナンバー制度対応への具体的な対策を講じられていない状況といえる。従って、上記の結果は取り組みを早期に進めている企業における動向と見なすことができる。この詳細を見ることで、今後の取り組みへのヒントが得られるはずだ。
上記の結果を踏まえると、情報システムに関連する取り組みは大きく分けて以下の3つのソリューションに分類することができる。それぞれのメリット/デメリットと合わせて順に見ていこう。
該当する選択肢
既存の人事/給与システムにマイナンバー対応の機能を追加する、または対応機能を備えた人事/給与システムへの入れ替えなどを行う取り組みである。これまで見てきたように単にマイナンバー用の項目を追加するだけでは不十分であり、マイナンバー対応業務に必要な機能がどれだけ備わっているか?が選定のポイントとなる。
メリット
バージョンアップの場合には比較的安価に対応することができる。
デメリット(留意点)
マイナンバーは既存の社員情報(氏名、住所など)よりも高いセキュリティレベル設定が必要となるため、人事/給与システムのアクセス権設定などを見直し、必要のない社員がマイナンバーを参照してしまうことがないように十分な注意が必要となる。
該当する選択肢
既存の人事/給与システムとは別にマイナンバーを保管するための専用システムを導入し、支払調書などへの出力が必要な場合には既存の人事/給与システムと専用システムの情報をその都度結合する形態である。
メリット
マイナンバーは既存の社員情報などと独立して格納されるため、マイナンバー収集業務や番号の漏えい防止策などを既存の業務フローとは別の形で新たに構築することができる。
デメリット(留意点)
既存の人事/給与システムとのデータ連携を行うため、専用システムの導入費用に加えて連携のためのシステムインテグレーション費用が発生する。
該当する選択肢
マイナンバーの収集、保管、活用といった一連の業務を外部に委託する形態である。
メリット
マイナンバー収集に関わる番号確認や本人確認などの業務負担を軽減することができる。
デメリット(留意点)
既存の人事/給与に関するシステムや業務との分担をどのようにするかを慎重に決める必要がある。
いずれの選択肢も回答割合が2割未満であることからも分かるように、「これがベスト」といった決め手は存在せず、多くの企業が検討状態にあるといえる。ソリューションを提供するIT企業側の対応もさまざまだ。
全般的には人事/給与パッケージを開発、販売するIT企業は「人事/給与システム強化型」、システムインテグレーターは「専用システム追加型」、業務のアウトソーシングを請け負う業者は「業務アウトソーシング型」が比較的多いという傾向があるが、今後3つのうちのどれが主流になるか?はまだ予測がつかない状況だ。これらのソリューションを利用する企業側としては、上記に記載したメリット/デメリットなどを踏まえつつ、「自社に最も適したソリューションはどれか?」を慎重に検討していくことが重要だ。
マイナンバー制度への対応は全ての企業にとって避けることの必須のできない取り組みだ。避けることができないのであれば、そこから少しでも多くのメリットを得るという発想を持つ方が賢明といえるだろう。
マイナンバー制度では人事/給与システムの更新だけでなく、従業員からマイナンバーを収集し、管理するといった取り組みが不可欠となる。従業員としても自身の個人情報を提供することになるため、「会社が自分のマイナンバーをきちんと管理してくれているか」に関心を持つようになるはずだ。
つまり、企業にとっては個人情報保護やセキュリティ対策に関する社内意識を高める良い機会ともいえる。このようにマイナンバー制度への対応にポジティブに取り組むことが、スムースな制度対応を進める上でも重要なポイントなのではないかと考えられる。本稿がその一助となれば幸いである。
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