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新Microsoft 365は何がどうなった? 図解で分かるライセンス選び方ガイド

2020年4月22日、Microsoftは「Office 365」を「Microsoft 365」と統合した。しかし、Office 365の名称は完全になくなったわけではない。大企業向けプランにはまだOffice 365の名称のついたプランが存在する。これがライセンスの理解を難しいものとしているようだ。

» 2020年06月08日 08時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティー・ワイ]

 クラウドサービスのビジネス利用がすっかり当たり前になった現在、「Microsoft Word」や「Microsoft Excel」「Microsoft PowerPoint」などのOfficeアプリケーションと、「Exchange Online」や「SharePoint Online」「Microsoft Teams」など各種クラウドサービスを単一のライセンスで利用できる「Office 365」は、企業規模や業種や業態を問わずあらゆる企業にとって利用メリットを得られ、日々ユーザー数を増やし続けている。

 Office 365は多様なニーズに応えるために複数のライセンスプランを用意しており、企業が自社のニーズに適した製品やサービスの組合せを自由に選択できるライセンス形態になっている。しかしこれが逆に、「どのプランを選んでいいのか分からない」「ライセンス体系が複雑すぎて、違いが理解できない」といった混乱を生んでいる。

 そもそもOffice 365とMicrosoft 365という2系統の異なるライセンス体系に分かれている点からして分かりにくく、しかも2020年4月22日に、Microsoftは「一般法人向けのOffice 365のライセンスプランを、Microsoft 365ブランドに改称する」と発表し、ユーザーの理解をますます困難なものにしている。

 本特集では、これまで分かりにくいと考えられがちだった「Office 365」「Microsoft 365」のライセンス体系を整理し、解説する。なお、Office 365とMicrosoft 365には企業向けライセンスのほかにも、家庭向けや教育機関向け、非営利団体向けの各種ライセンスプランが用意されているが、ここではそれらについては言及せず、あくまでも企業向けライセンスに対象を絞って解説する。

中堅・中小企業向けライセンスは「Microsoft 365」に統一

 Office 365とMicrosoft 365のライセンス体系を理解するには、まず「一般法人向け」「大企業向け」の2種類のライセンスプランの違いを理解することから始まる。なおここで言う「一般法人向け」とは、いわゆる中堅・中小企業向けライセンスのことを指し、最大ユーザー数が300人までに制限されている。一方、大企業向けライセンスにはユーザー数の制限は設けられていない。

図1「一般法人向け」と「大企業向け」のライセンスの違い(資料提供:内田洋行)

 まずは、一般法人向けライセンスから見ていきたい。実は少し前まで、一般法人向けと大企業向けともに、Office 365とMicrosoft 365の2つのライセンス体系が存在していた。このことがライセンス体系をとっつきにくくしている要因の一つだったが、Microsoftは2020年4月に、一般法人向けライセンスについて全てのプラン名をMicrosoft 365ブランドに統一すると発表した。

 ライセンスの中身自体は変わっておらず、単に名称が変わっただけなのだが、これだけでも各プランを横並びにして比較しやすくなった。具体的には、以下の4つのプランが用意されている。

・Microsoft 365 Business Basic

・Microsoft 365 Business Standard

・Microsoft 365 Business Premium

・Microsoft 365 Apps for business

新Microsoft 365ライセンス4種類の違いとカバーするニーズ

 ここからは、新Microsoft 365の4種類のライセンスについてそれぞれの概要と互いの相違点、選定ポイントについて整理していく。

Microsoft 365 Business Basic

 Exchange OnlineやSharePoint Online、Microsoft Teamsといった各種クラウドサービスのライセンスのみが含まれているプランだ。Officeアプリケーションのライセンスは含まれていないため、「既にOfficeアプリケーションはボリュームライセンスを購入しており、クラウドサービスのライセンスだけが欲しい」という企業には好適なプランだ。

Microsoft 365 Business Standard

 クラウドサービスとOfficeアプリケーションの両方のライセンスを含んでいるプラン。クラウドサービスとともに、常に最新版のOfficeアプリケーションをサブスクリプションモデルで利用できる。

Microsoft 365 Business Premium

 Microsoft 365 Business Standardの機能に加えて「Microsoft Intune」を使ったデバイス管理や各種セキュリティサービスの他、「Azure Active Directory Premium」を利用したID管理やアクセス制御機能が含まれる。アプリケーションだけでなく、デバイス管理やセキュリティ対策もマイクロソフト製品でそろえたいという企業にとっては、全ての製品のライセンスをひとまとめで管理できるメリットがある。

Microsoft 365 Apps for business

 Microsoft 365 Business Basicとは逆に、主にOfficeアプリケーションのライセンスのみが含まれている。「クラウドサービスは既に他社の製品を利用しており、Officeアプリケーションのライセンスのみを一括してサブスクリプションモデルとして調達したい」というニーズに応えるためのものだ。

中堅・中小企業向けよりも複雑な「大企業向けライセンス」

 一方、ユーザー数無制限の大企業向けライセンスになると少しややこしくなってくる。先ほど紹介した4つの一般法人向けライセンスにほぼ1対1で対応するライセンスが存在しているのだが、大企業向けはMicrosoft 365とOffice 365が混在する。

一般法人向け 大企業向け
Microsoft 365 Business Basic        Office 365 E1
Microsoft 365 Business Standard     Office 365 E3
Office 365 E5
Microsoft 365 Business Premium Microsoft 365 E3
Microsoft 365 E5
Microsoft 365 Apps for business Microsoft 365 Apps for enterprise      

 大企業向けのOffice 365ライセンスは上記に示した通り「E1」「E3」「E5」の3種類がある。最大ユーザー数を除けば、上記の対応表で示したように、Microsoft 365 Business Basicと「E1」、Microsoft 365 Business Standardと「E3」の構成はほぼ同じだ。もう1つのMicrosoft 365 Business Premiumについては、Office 365のラインアップに対応するライセンスはなく、後述の「Microsoft 365 E3」と対応することになる。

 Office 365 E5に関しては、大企業特有のニーズに応えるために、Microsoft Teamsからの外線発着信やBI(Business Intelligence)ツールの「Power BI Pro」など、一般法人向けのMicrosoft 365 Business Standardには含まれない製品や機能が含まれる。そしてMicrosoft 365 Apps for enterpriseは、主にOfficeアプリケーションのサブスクリプションライセンスのみが含まれる。

図2 Microsoft 365とOffice 365 E1/E3/E5の違い(資料提供:内田洋行)

大企業向けライセンスはOffice 365に加えてMicrosoft 365も

 大企業向けライセンスを難しくしている最大の理由は、上記で挙げたOffice 365ライセンスとは別に、「Microsoft 365」のブランド名を冠したライセンスプランが存在する点にある。具体的には、以下3種類の「大企業向けMicrosoft 365プラン」が用意されている。

・Microsoft 365 E3

・Microsoft 365 E5

・Microsoft 365 F3

 Microsoft 365 E3は一般企業向けのMicrosoft 365 Business Premiumに対応する大企業向けモデルであり、Office 365 E3のスーパーセットの位置付けにある。Office 365 E3の製品やサービスに加えて、大企業にも対応するデバイス管理やID・アクセス管理、セキュリティ対策、コンプライアンス機能を強化したものだ。

 Microsoft 365 E5は、Office 365 E5のスーパーセットの位置付けであり、Office 365 E5の製品やサービスを全て包含した上で、Microsoft 365 E3よりもさらに高機能なセキュリティ対策、コンプライアンス機能の製品やサービスを利用できる。

 ちなみにMicrosoft 365 F3とは、かつて「Microsoft 365 F1」という名称で提供されていたプランで、店舗や工場などの現場で働くユーザー向けに各種ツールのライセンスをサブスクリプションモデルとして提供するプランだ。

 大企業向けライセンスにおいては、この「Office 365とMicrosoft 365の違い」が最も分かりにくく、マイクロソフトでもこの点を考慮して、Office 365とMicrosoft 365のライセンスに含まれる内容を横並びで比較する専用ページを設けているほどだ。

ライセンス選びで考慮に入れたい3つのポイント

 Office 365とMicrosoft 365のライセンス体系の全体像が把握できれば、自社のニーズに適したライセンスプランをより選びやすくなるだろう。しかし一見しただけでは違いが分かりにくいプランもあり、これだけでは最適なプランを選びにくい。ここからは、ライセンスプランを選ぶ際に考慮に入れたいポイントを3つ挙げる。

1.ライセンスリセラーに相談する

 一昔前のマイクロソフト製品のライセンス購入・管理といえば、Windows OSやOfficeアプリケーション製品が対象であり、主にクライアント端末と紐付けて購入や管理の計画を立てていればよかった。しかしOffice 365になってクラウドサービスが加わり、さらにMicrosoft 365になるとデバイス管理やID・アクセス管理、セキュリティ対策といったサービスが加わる。こうなるともはやライセンス選びの範囲を超え、企業のITシステム全体の計画にまで関わってくる。

 特にMicrosoft 365 Business PremiumやOffice 365 E5、Microsoft 365 E5などの最上位プランには、実に多くの製品やサービスが含まれるため、これらが本当に自社の要件にマッチするのかを判断するには、相応の知見を要する。実際のところ、Office 365とMicrosoft 365のライセンスを卸しているリセラー企業の担当者であっても、全ての製品やサービスの機能を把握していることはまれだという。もし自社で判断が付かない場合には、豊富な知見を有するリセラーに相談した上で、どのプランが本当に自社のニーズにマッチしているかを慎重に見極めたい。

2.本導入の前に無償試用版を使って検証する

 ライセンスプランのスペック表だけを見て「このクラウドサービスは使える」と思っても、いざ導入してみると思ったように効果が上がらなかったり、業務プロセスや組織体制を大幅に変えなければならないために結局導入が頓挫してしまった」というケースも珍しくない。幸い、Office 365とMicrosoft 365に含まれるクラウドサービスの多くは、期間限定の無償評価版が利用できるため、導入前にぜひ実際に触ってみて、本当に自社の要件や事情にマッチしているかどうかを見極めてから導入の是非を判断したい。

3.ワークスタイルの変化に柔軟に対応できるかどうか

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大防止策のために、企業の間でテレワークが急速に広まっている。従業員が自宅やサテライトオフィスなどで働くようになれば、デバイスが社内ネットワークに接続されていることを前提としたデバイス管理やID・アクセス管理、セキュリティ対策などは効率が悪いだろう。むしろクラウド環境から社外で使われているデバイスを直接管理する方が、理にかなっている。

 Office 365とMicrosoft 365に含まれるデバイス管理やID・アクセス管理、セキュリティ対策製品やサービスは、まさにこうした用途を前提としたものだ。ライセンスプランを検討する際も、自社の今後のワークスタイルを明確にイメージした上で、これらの製品およびサービスが近い将来に必要だと判断した場合は、対応したライセンスプランを積極的に選んでみるといいだろう。

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