Kirari!のコンセプトは、「競技空間を丸ごとリアルタイムに日本国内はもとより世界へ伝送する」ことだ。これは2020年のオリンピック、パラリンピック東京大会を強く意識したメッセージだが、実際にはスポーツに限るものではなく、コンサートや演劇など種々のエンターテインメントも含め、ライブ映像をその現場ではなく遠隔地のホールや映画館などで同時に鑑賞できるパブリックビューイングを、これまでなかったクオリティでリアルに近い、あるいはリアルを超える迫力で実現することが目標だ。だがこれには、次のような課題解決が求められる。
スポーツなどの会場で撮影、集音したデータは、近傍の地方放送局などに伝送され、中央のキー局へと送られるなど、幾つかの中継が行われて最終的に各地のパブリックビューイング会場に届く。
もともとの会場での撮影や集音に高品位が求められるのに加え、エンコードとデコードが繰り返されるデータ中継を経ても品質が劣化しないようにしなければならない。ネットワーク帯域の制限や遅延の発生も問題だ。伝送先の会場では、映像と音響が完全に同期していなければならず、現実の競技などとの時間差も最小に抑える必要がある。
そこでNTTでは、図1に見るように、まず動きの少ない背景映像と誰もが注目する被写体映像とを切り分けることにした。高精細な再現が必要な被写体はあくまでもリアルに、時には3Dホログラフィック的な虚像を使って立体的であると錯覚させる表示にできるようにし、その他の背景映像や音響空間、照明情報などは会場の広さや設備に応じて自動的に最適に再構成できる技術(Advanced MMT)を開発した。
まず挙げられるのが、4K/8Kといった大画面、高精細映像伝送のための次世代映像符号化技術であるHEVCの活用だ。従来のH.264/AVC規格のデータ圧縮率を2倍にできると期待されるが、NTTでは同規格に準じながら圧縮率を最大約2.5倍にまで高めた。
また、カメラで撮影した映像はリアルタイムに符号化して伝送することになる。高速化のために、NTTでは専用のリアルタイムエンコーダLSIを開発した。2015年3月に公表された「NARA」(開発コード名)は、HEVCの高品質映像規定であるMain10 4:2:2プロファイルに世界で初めて対応したLSIで、既存技術のHEVCエンコーダの圧縮性能を1.5倍に高めた上、実装面積は16分の1にまでコンパクト化した。
従来デジタル放送や映像配信などで用いられたHEVC 4:2:0形式の2倍の色情報を持つため、映像中継の流れの中でエンコードやデコードが繰り返されても映像の劣化が少ない。
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