どのような構造のCNTを使うか、どれだけの量を加えるかなど、難題は多数あったが、既に産総研にはネットワーク構造を形成する単層CNTの伸縮性に着目した導電性単層CNTゴム複合材料の開発(東京大学との共同開発)や、高精度な成形加工が可能なCNTゴム複合材料の開発などを行ってきた経験がある。
また、金属的性質や半導体的性質を持つ単層CNTから、トランジスタとして機能する半導体的性質の単層CNTだけを選択的に分離する技術も開発してきた実績も持つ。
これらの技術を活用し、単層CNTの電気的特性とネットワーク構造を利用して、伸縮性のある導電性単層CNTゴム複合材料をトランジスタの電極とし、同時にトランジスタのチャネルに半導体的性質を持つ単層CNTを用いたのが、今回のCNTゴムトランジスタだ。
材料を作る技術は既にあったが、それを使ってどのようにトランジスタの構造を作りこむかが次の課題だった。研究チームは1000以上の構造や製造プロセスを試行錯誤しながら突き詰めていった。その結果、たどり着いたのが図2に示すような構造だ。
シリコンゴムを基材にして、ソース、ドレイン、ゲート電極にCNTとゴムの複合材料を、チャネルに半導体CNTを用い、ゲート絶縁膜としてイオンゲルと呼ばれるやはり柔らかい誘電体材料を使用する。
このトランジスタの製造工程を図3に示す。各部材を別々の基板で加工し、転写、貼り合せ、プリンティングといったプロセスを利用し、トランジスタを形成する。
この製造プロセスによる試作品では、図4のような特性が計測された。オンとオフ時のドレイン電流は10の4乗倍に上り、オン電流は−50uAとスイッチング機能を十分果たすことが実証できた。
関口主任研究員らは、できたトランジスタを119%まで引っ張って伸ばしたり、完全に折り畳んだり、180度ねじったり、5MPa(1平方センチ当たり約50キロ)まで圧力をかけたり、6.25kgm/sの勢いで衝撃を与えたりといった、まるで拷問のようなテストをした。上述したハイヒールや自動車での踏み付けももちろん実際に行われている。
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