30代、40代の働き盛りを中心にメンタル不調に陥るケースの増加もあり、「ストレスチェック」の義務化が始まる。
経営資源は「ヒト・モノ・カネ・情報」といわれるが、その筆頭である「ヒト」に重大な危機が訪れている。メンタル不調による生産性低下、休職や退職、極端なケースでは自殺にまでつながる事態が頻発しているのだ。
その社会的コストは2008年時点で約8兆円と推定されている(統合失調症、うつ病性障害、不安障害の疾病費用:平成22年度厚生労働省障害者福祉総合推進事業補助金「精神疾患の社会的コストの推計」より)ほどだが、企業のメンタル不調者の数は年々増加しており、どこかで歯止めをかけなければならないことがかねて指摘されてきた。
この問題に対する国の新しい対策の1つが「ストレスチェック」の義務化だ。今回はこの制度の趣旨を確認し、ストレスチェックを実施するための行動を簡潔に解説していく。
まずは制度の背景をなす労働者のメンタルヘルス悪化の状況を見てみよう。図1は、2015年6月に公表された「平成26年度 過労死等の労災補償状況」(厚生労働省)の精神障害にかかわる労災請求・決定件数の推移の状況だ。
このグラフに見るように、メンタルヘルスの悪化が原因とみられる労災請求は年々増えており「業務上」の労災と認められた「決定件数」や「支給決定件数」も同様に増えている。平成26年度は請求、決定、支給決定のどの件数も過去最多だ。最悪な結果である自殺件数も決定件数210件と、平成25年度の157件を大きく超えてしまった。
図2には労災請求・支給決定件数の職種別の割合を示すが、専門的・技術的職業従事者と販売従事者が多くの割合を占めている。なお、年齢別では最も多いのが40代、次が30代と、働き盛りのベテランがメンタル不調に陥るケースが多い。
また労災には至らなくとも、メンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は10.0%(平成25年労働安全衛生調査)。ちなみに産業別では「情報通信業」が28.5%と最多だ。
疾病の社会的なコストとしては保険医療費、措置入院費用、医療観察法費用、自立支援法関連サービス費用など直接・間接の費用があり、上述した「精神疾患の社会的コストの推計」によれば統合失調症の疾病費用は2兆7743億8100万円、うつ病性障害の疾病費用は3兆900億5000万円、不安障害の疾病費用は2兆3931億7000万円と推定されている(2008年)。
また企業におけるコストとして年収600万円の30代後半の従業員が6カ月間休職した場合、その業務を他の従業員で穴埋めするなどのコストとして422万円が余計にかかるという試算(平成20年 男女共同参画会議 仕事と生活の調和に関する専門調査会)もある。もちろん対象の従業員が退職した場合には、新規採用に関わるコストも発生する。
言うまでもないが、メンタル不調者の周辺には似たような悩みを抱えるたくさんの予備軍がいると考えられ、生産性の低下に結びついていることが推測される。
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