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4Gの先にある世界、体感スループット100倍を目指す「5G」とは?5分で分かる最新キーワード解説(2/3 ページ)

» 2015年11月18日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

どのように目標をクリアしていくのか?

 この高い目標に近づくために、世界で技術改良や新技術開発の取り組みが行われている。そのスケジュールは、あくまで日本の思惑ではあるが、図2に示すようなスケジュールが考えられる。

日本が描く5G導入のスケジュール 図2 日本が描く5G導入のスケジュール(出典:総務省「電波政策ビジョン懇談会最終報告書:平成26年12月」)

 図の通り、日本では2020年の5G実現を目標とする。2018年に冬季五輪を開催する韓国も、2018年の5Gトライアル、2020年の5G導入を宣言した。2015年9月には主要標準化団体の3GPPが関連ワークショップを開催し、ITUも2016年から本格的な標準化プロセスをスタートさせる。

 2020年の5G実現に必要な規格化のゴールは2018年。他の国は周波数帯の問題もあり必ずしも足並みがそろっているわけではないが、3GPPではおおむね2018年までの仕様決定を目指す流れにはなっているようだ。

 では、どのように5G実現を図るのか、主な技術面のポイントを見てみよう。NTTドコモでは「5Gリアルタイムシミュレーター」を開発し、どのような技術でどれだけ通信性能が上がるかのシミュレーションを行っているので、その結果も合わせて紹介する。

3.5GHz帯や6〜100GHzの高い周波数帯の有効活用

 2016年から4G向けに運用が始まる3.5GHz帯の利用に加え、さらに上のこれまであまり利用されてこなかった高い周波数帯域を利用することが検討される。余裕のある周波数帯を利用できればよいが、課題は周波数が高くなるほど電波が遠くに届きにくくなることだ。基地局をこれまでより小さなエリアで多数設置することやMassive MIMOの利用が解決策になる。

 図3は東京・新宿を模擬したシミュレーション結果だ。500×500メートルのエリアで通信速度をシミュレーションした。左は広エリアをカバーする「マクロセル」と呼ばれる基地局(2GHz帯、帯域幅20MHz)の場合、右はマクロセル配下により狭いエリアを担当する12個の「スモールセル」を配して高密度化し高周波数帯で運用(3.5GHz帯、帯域幅30MHz)した場合の結果だ。システムスループットは約30倍に向上する。

マクロセル運用とスモールセル運用で30倍のスループット差 図3 マクロセル運用とスモールセル運用で30倍のスループット差(出典:NTTドコモ)

 スモールセルの個数はそのままに、さらに高い周波数帯で広い帯域幅(20GHz帯、帯域幅1GHz)を利用すると、図4のようにスループットは約300倍に向上する。

同一スモールセル個数でも高い周波数帯では格段に高スループット 図4 同一スモールセル個数でも高い周波数帯では格段に高スループット(出典:NTTドコモ)

 さらに、送信側に多数のアンテナを設け、同時に多数の通信を行うMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術の拡張であるMassive MIMO技術を使い、電波をビーム状にして遠くに届くように指向性を制御すると、同じ条件でスループットは約1000倍にまで向上する(図5)。

Massive MIMOにより劇的にスループット向上 図5 Massive MIMOにより劇的にスループット向上(出典:NTTドコモ)

 高い周波数帯を利用し、余裕ある帯域幅を確保できればスループットは向上する。電波の特性による弱点をスモールセルとMassive MIMOでカバーすることで、1000倍のスループットが得られるというわけだ。なお、この条件では、9割のユーザーが1Gbps以上のスループットを得られることも分かった。

多重化方式や無線パラメータ、信号波形の最適化

 飛躍的な性能向上のためには4Gとの互換性を犠牲にしても、信号送受信の仕方を変えなければならない場合もある。高い周波数帯での位相雑音の影響を抑えるための無線パラメータや信号波形の最適化についても検討される。

 また、信号の多重化に利用される FDD(Frequency Division Duplex)方式とTDD(Time Division Duplex)方式の両方を利用できるようにする、あるいは上りのみもしくは下りのみで使うようにする「フレキシブルデュープレックス」方式も、NTTドコモは検討する。

超多数の同時接続に対応する「NOMA」

 超多数の端末が同時接続する環境に対応するために、複数ユーザーの信号を同一の無線リソース上に多重し、同時に送信する「非直交多元接続(NOMA、Non-Orthogonal Multiple Access)」という技術も研究される。

 基地局に遠い端末には電力を強くして送り、近い端末には少ない電力で送信し、近い端末側では遠い端末向けの電力の大きい信号をキャンセルすることで、正しい受信信号を受信できる。結果として通信が効率化する。こちらは、既存のLTEシステムにも問題無く導入できる。

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