IoTでビジネスをどう変えるか。現在のビジネス課題を解決するための方法や、まだ見えぬ本質的な課題を明らかにするための方法など、IoTで競争力を強化するためのヒントを探る。
IoTでビジネスをどう変えるか。その最適解を先に見つけた企業が最も大きな果実を手にできるといわれている。だが世界の巨大企業がこぞってIoTによる新ビジネス創出や生産性の劇的向上を目指している中で、必ずしも大上段からのビジネス革新を想定するのが正解とは限らない。
確かにIoTにはビジネスを革新するポテンシャルがある。その一方で現在のビジネス課題を着実に解決するための方法、あるいは見えていない本質的な課題を明らかにするための方法でもある。過剰投資を避けつつIoTを競争力の維持、強化につなげるために、自社にふさわしいIoT利用を図ることが肝心だ。今回はそのヒントになりそうな産業領域でのIoT活用ユースケースを紹介していく。
IoTプラットフォームを提供するベンダーでは、M2MやIoT案件の2015年前半の引き合いのおよそ58%が製造業、17%がサービス業、公共が8%、その他は建設、運輸・交通、商社、金融が各4%、小売が1%という内訳だった。また導入用途では42%が装置設備保守、24%が作業員や現場管理で、この2つで過半を占めた。
ベンダーにより当然案件内容は違うだろうが、現在も製造業と工場管理のニーズが強いことが想像できる。それでも、製造業の割合はこれまでよりは低下しており、その他の業種や導入用途が増えている。また設備やモノの管理からヒトの管理を加えたIoT導入が増えている。さらにマーケティングや見守りなどのヒトの活動を主体としたIoT事例も増えてきているようだ。
IoTでどのようにビジネスを変えていくのかには諸論あるだろうが、ビジネスは最終的にはコンシューマが求めるものをタイムリーに提供できるかどうかが鍵になる。市場のニーズを正確に把握するために企業は古くから努力を重ねてきたが、最終利用者が本当に求めていることは何かを粒度細かく知ることは難しかった。
しかし現在では人の購買行動や移動、情報アクセスその他さまざまな行動をセンサーやネットワーク技術などにより記録でき、スマートデバイスやウェアラブルデバイス、あるいはソーシャルツールなどからの情報取得も可能になっている。うまく技術を活用して蓄積して得たビッグデータと、常時発生するリアルタイムデータを突き合わせて適切に分析すれば、これまで目には見えなかった本当に求められているニーズが見えてくるはずだ。
その実現のためのサービスや製品を適時に投入すること、それを可能にするだけの効率的な生産や流通のシステムを構築することが今後の競争力の決め手になりそうだ。そのための道具として、IoTは活用されるべきだろう。
IoTの大きなテーマの1つである自動車関連では、車両からの情報と道路からの情報を総合して車両を制御する自動運転が注目されており、渋滞緩和(国内だけで年に12兆円の損失に相当するともいわれる)、CO2の排出抑制にIoTが大きく貢献すると考えられている。また車内でのオーディオビジュアルなどエンターテインメントも1つのIoT応用分野だ。
IoTデバイスに注目すれば、今後はオーディオ、テレマティクスなどのインフォテインメントデバイス、シートベルトやエアバッグなどのセーフティデバイスが急速に増加する。また電気自動車/ハイブリッドカーのバッテリーシステム、先進運転支援システム(ADAS)、後付け型カーナビ、オーディオなども順調に台数が伸びていきそうだ。
これらに車両そのもののエレクトロニクス化を加え、今では車の走行履歴、ブレーキやアクセル、ハンドルなどの制御情報、地図上や道路上の車両位置などがリアルタイムに通信で外部に送信できるようになり、センターでは地図情報や標識・白線などのデータや、過去からの事故データや発生場所、原因などの豊富なデータが用意され、適切に分析すれば事故の予防や危険予知に利用することができる。
このような技術発展を前提にして、モビリティ領域では保険や広告などの新ビジネス創出も期待されている。中でも、自動車の走行状況をモニターして、安全走行のレベルによって保険料金を低減するユースケースは、保険料金に不公平感を抱く人たちには歓迎される、分かりやすい例だろう。
これは契約車の車に備わる加速度センサーにより、運転状況をセンターに送信、急ブレーキや急発進などの危険走行の度合いを分析し、安全度が高ければ保険料を減額(翌年度の割引やキャッシュバック)する仕組みだ(図1)。安全運転をすればその人の利益となるため、安全意識を向上させて保険会社のリスクを軽減することにもつながる。
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