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売り上げ拡大やコスト削減に効く、産業領域のIoTユースケースIT導入完全ガイド(3/3 ページ)

» 2015年11月25日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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安全輸送や検品の効率化

 また物流のモニタリングは単に入出庫や輸送経路、時間などを管理するだけでは間に合わなくなっている。荷崩れを防止したり、トラックの安全走行を義務付けたり、移動中でも問い合わせに対応して現在地情報を提供したりと、高度なニーズに応える必要がある。

 これにはトラックやバイクなどの走行情報、荷台の振動などを検出する加速度センサーからのデータ、車両の位置情報、運転者の携帯端末からの情報などを取得して、道路情報、地図情報、過去の必要時間、安全なルート情報などの蓄積データと組み合わせて、センターの分析結果をもとにした最適ルートや走行指示を行う仕組みが考えられている。問題の発生をドライバーに通知したり、位置情報を問い合わせに応じて回答したり、輸送完了報告なども省力化する仕組みも作れよう。

 これと同様の技術は、一般の自動車や農業用機械、電動車椅子、船舶、自転車などにも応用可能だ。移動体の情報や利用者が発信する情報を捉え、センター側で移動体の地理的な条件や機器の状況、利用者の状態に即した情報サービスを届けたり、保守要員を必要に応じて派遣したりといったきめ細かいサポートに利用することができよう。

設備や機械の遠隔保守

 設備や機器の稼働情報を遠隔からモニタリングし、遠隔保守を行うのもIoTの得意領域だ。橋や道路などの大型建造物、工場の生産機械、オフィス内のOA機器、病院などの医療機器、建築・土木作業車両や機器、農業用機械や車両など、あらゆる分野の設備や機械が対象になる。

 設備や機械を常に適正に稼働させ、劣化を予防し、長持ちさせ、安全を確保するのに重要だ。故障や破損などの際には、迅速な保守作業ができることも重要。どこまでの距離範囲で搭載デバイスの通信ができるかが問題にはなるが、デバイスやゲートウェイにさまざまな通信方式を組み合わせて使うことで、必要なエリアをカバーすることができよう。

農業分野

 農業用機械や車両の遠隔管理の他、農産物の生育状況のセンシングもIoT化が進んでいる。この分野では広い農場を対象にし、センサーの電源が得にくいことから、低消費電力のセンサーと面的に広がるエリアをカバーするネットワークが必要になる。

 現在ではボタン電池で10年稼働するようなセンサーデバイスや、マルチホップネットワーク技術を利用することで技術的には問題が少なくなっている。温湿度、日照、降水、風向、風速などのセンサー情報に加え、気象情報や空からの圃場撮影などの画像データも利用して分析すれば、生育状況の正確な現状把握や予測が可能になる。農家にその情報をフィードバックし、適切な対応を図ることで収量を上げることも期待できよう。

技術継承、作業環境の改善

 さらに、熟練技術者の作業状況をデータとして記録し、後進の技術者に伝承していく仕組みや、作業状況データを分析した上での作業環境改善なども、IoTのテーマになっている。作業者が装着するヘッドマウントディスプレイやカメラ、動作センサーなどからのデータを収集、記録し、必要な分析を加えた結果を作業ガイドとして利用することもその1つだ。

 文字主体のマニュアル化、映像や音声でガイドコンテンツを作る場合もあり、作業現場でヘッドマウントディスプレイを身につけて、実際の作業環境の中で体験することができる。もちろん教育用途ばかりでなく、フィールドサポートなどの際に遠隔からガイド映像(コンテンツがなくても熟練技術者が指示を出してもよい)を利用することもできよう。映像も現実のものばかりでなくAR(拡張現実)技術を使い、現実の作業対象の特徴や注意ポイントを強調する映像にしたり、矢印や文字・音声なども援用して作業をガイドすることができる。

 また作業者が身につけたセンサーで環境情報を収集し、作業環境と動作加速度などを分析、健康管理や危険動作、危険区域への立ち入り防止などにも役立てることができる。

 以上、今回は産業領域でのIoTユースケースを幾つか紹介した。政府の構想や報道などでは夢のふくらむ未来像が強調されて現実味が薄いことがあるが、実際はこのように地に足がついたビジネス改善策、投資の意味がある新規ビジネス可能性を示している。

 今回の記事では触れられなかったが、セキュリティ対策は全てのIoTレイヤーで不可欠なものだ。IoTソリューションを導入するときには、セキュリティ対策は必ず評価する必要がある。

 IoTプラットフォームを基盤にしたソリューションを選ぶのか、プラットフォームにかかわらずレイヤーを垂直統合した目的別のソリューションを選ぶのか、はたまたレイヤーごとに水平展開し、国際標準化で競い合う要素技術を自前で統合して独自のソリューションを目指すのか、ソリューション選びの参考にしてほしい。

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