ここから、遠隔会議における海外接続での注意点について見ていこう。
海外との接続で一番問題になりやすいのが、現地のネットワーク事情だろう。ブロードバンドが浸透している日本とは異なり、海外のネットワークはそれほど充実していないケースも少なくない。工場地域などインフラがしっかりしている地域であれば問題になりにくいが、都市部から離れていくと途端に回線品質が悪化するケースもあるという。
特に品質に大きく影響してくるのが、ラストワンマイルの部分だ。ある国では風雨によってヤシの木が倒壊し、ケーブルが断線したことでインターネットが不通になったという事態も報告されている。国や地域によってレベルは異なるが、ラストワンマイルについては想定外の事態が起こり得るので十分注意しておきたい。
なお、海外との接続時に可能な限り品質を確保するため、ベンダーによってはサービス提供している国ごとに設置されたデータセンター間を専用の回線でつなぎ、できる限り品質を高められるサービスを提供するところもある。データセンター間の遅延を最小限に抑えることで、快適な会議環境を実現できる。ただし、あくまでデータセンター間でのサービスであり、最終的な品質はラストワンマイル次第だということは念頭に置いておこう。
海外との接続でよく話題になるのが、中国にある検閲システム「金盾」、いわゆる Great Firewall(グレートファイアウォール)の存在だ。一般的にインターネットを経由して遠隔会議を行う場合、会社規模にもよるがインターネットVPNを利用して情報の秘匿性を高めることも少なくない。ただし、中国でVPNを利用する場合は注意が必要だ。
中国では、検閲システムによって情報統制を実施しており、例えばFacebookやTwitterなどへのアクセスがそもそも難しいという事情がある。これらにアクセスするためには、インターネットVPNによる暗号化を利用することで実現可能だ。
しかし、中国当局が常に目を光らせており、そのVPNサービスがFacebookなどへのアクセスの温床になっていると当局が判断した場合は、そのVPNサービスが強制的に遮断されてしまう。遠隔会議のために契約したVPN事業者がBAN(禁止、遮断)されてしまってはたまったものではない。
だからこそ、中国との接続でVPNを利用する際には、VPN事業者選びが大切になる。ちなみに、中国では「VPN経由での通信は難しい」と誤解している人も少なくないが、ニュアンス的には「基本的には問題ないが、遮断されてしまうことがある」といった方が正しい。
なお、VPN事業者側でもさまざまな対策をとっているようだ。遮断されてしまうIPアドレスを当局に絞らせないように、たくさんのIPアドレスをローテーションしながら変えていったり、中国当局からやってきたであろうIPアドレスに対して情報を返さないようにしたりするなど、いろいろな対策を取っている。
中国との接続では検閲システムが話題となりやすいが、中国国内では「通信の南北問題」と呼ばれる問題もあり、中国内で遠隔会議を行う際には注意しておきたい。
中国の固定回線網は、北京や天津などの北部をエリアとするチャイナユニコムと、上海や広州などの南部をエリアとするチャイナテレコムの2つのISP事業者が寡占状態だ。この2つのISPの相互接続ポイントでトラフィックが集中してしまうと、通信経路が米国や欧州など海外への迂回路が選択されてしまい、かなりのレイテンシが発生してしまうことがある。
リアルタイム性が求められる遠隔会議だけに、中国国内同士の通信であっても注意が必要となる。管轄するエリアについては正確なものは把握していないが、取材の中では揚子江を挟んだ南北で管轄が異なっているという。
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