今、急速に注目を集めているMAとは何か。主にマーケティング部門で使われるITツールだが、今後、業務部門からの導入意向が高まる可能性もある。その背景や目的、基本的な機能などについて分かりやすく解説する。
「マーケティングオートメーション(MA)」と呼ばれるITソリューションをご存じだろうか? 特に情報システム部門にとっては聞き慣れない言葉かもしれない。しかし、ここ1年ほどの間に外資系MAベンダーが次々と国内市場に新規参入したこともあって、今、急速に注目を集めている。
主にマーケティング部門で使われるITツールではあるが、今後、業務部門からの導入意向が高まる可能性もある。本稿ではMAが登場した背景やその目的、基本的な機能などについて基礎から分かりやすく解説する。
MAとはその名の通り、企業のマーケティング活動をオートメーション(自動化)するためのものだ。SFAやCRMが企業の営業活動を支援するITソリューションであることと同様に、MAは企業のマーケティング活動を支援するためのソリューションだ。その具体的な内容は後段で紹介するが、まずはMAが必要とされるようになった背景について簡単に説明しよう。
私たちが何か商品を購入するシーンを思い出してほしい。まずは、その商品の情報をインターネットで調べ、気になった製品の評判を口コミサイトやSNSなどでチェックし、比較サイトなどを使って競合製品と見比べる。実際に店舗に出向く前には「どの商品を購入するか」がほぼ決まっていることが多いのではないだろうか(もしくはそのままオンラインで購入するだろう)。
これは「購買プロセスのデジタル化」と呼ばれる事象だ。これと同じことが実は企業間取引の世界でも起きている。これまでB2Bの製品やサービスの購買プロセスは、訪問による対面営業が主流だった。しかし近年、企業の購買担当者は、あらかじめネット上で製品やサービスの各種リサーチや比較検討を終えている。Googleが実施した調査によれば「買い手の60%は営業に会う前に何を買うか決めている」という。
つまり今日のB2Bビジネスの成否は、顧客のデジタル世界における情報収集や比較検討のプロセスにおいて、いかに自社製品をうまくアピールし、購買意欲を高められるかにかかっている。いわゆる「デジタルマーケティング」といわれるマーケティング施策で、MAはまさにこうした活動を支援するために使われる。
MAの重要性が語られる理由は、何も購買プロセスの変化だけではない。そもそもマーケティング活動に対する企業の投資判断が、かつてと比べよりシビアになっているのだ。
一昔前、企業のマーケティング活動は不特定多数の見込み客に対して情報を発信するマス広告が中心だった。マス広告には確かに一定のプロモーション効果があるが、本当に狙い通りの見込み客に対して正しくメッセージが伝わったかどうか、その効果を厳密に評価するのは難しい。
一方、キャンペーンやイベントなどの施策で見込み客に対面で直接アプローチし、そのままマーケティングや営業のプロセスにつなげることができれば、「その施策が後の購買につながったどうか」である程度費用対効果を算出することはできる。しかしこうした施策の効果測定は、「キャンペーンごと」「イベントごと」といったように単発で終わりがちだ。
そこでMAの出番となる。MAはリアル世界のキャンペーンやイベントはもちろん、デジタル世界でのさまざまなマーケティング施策の結果を自動的に収集し、その効果をシステム上でリアルタイムかつ長期にわたって数値化し、可視化する。こうしてはじき出された数字を基に、従来どちらかというと「どんぶり勘定」になりがちだった企業のマーケティング施策の費用対効果をきちんと評価し、企業の予算や経営資源を適切に配分できるようになる。
ここからはより具体的にMAが実現できることを見ていこう。例えば、前項で挙げたようなニーズをどのように満たすのか。これを理解するためのキーワードは「リードナーチャリング」と「スコアリング」だ。
リードナーチャリングをそのまま日本語に訳すと「見込み客の育成」という意味になる。見込み客(リード)に対して段階的に適切なマーケティング施策を重ねていくことで、徐々に彼らの購買意欲を高め、最終的に購買客へと育成(ナーチャリング)する一連の取り組みのことを指す。
こうした取り組み自体は、何もデジタルの世界に限った話ではない。あらゆる企業のプロモーションや営業活動の中でごく当たり前のように行われてきたことだ。営業が見込み客を訪問し、膝を交えて話をし、その内容に応じて随時適切な情報を提供し、その反応を後日確認して次に提供する情報をピックアップする。こうやって顧客の購買意欲のレベルに応じて適切な情報を都度提供し、徐々に購買意欲を高められる営業が「やり手」とか「カリスマ」とたたえられてきた。
しかし、今日の顧客は営業の訪問を待ってはいない。自らデジタルの世界に赴いて、さまざまな情報を積極的に取りにいく。MAはこのような顧客の自発的な行動に合わせ、自動的にデジタルコンテンツを「適切な相手」に「適切なタイミング」で提供する。つまり、情報を欲している人が「なんて、ピッタリなんだ!」と“感動”するタイミングで必要な情報だけを提供する。しかもこれを人手ではなく、システムによって自動的に行うところがキモだ。
デジタルの世界では「どのユーザーが、いつ、どのコンテンツにアクセスしたか」を自動的に把握できる。その情報を組み合わせれば、個々のユーザーの購買意欲レベルもかなりの確度で類推できる。
例えば、製品サイトを1カ月前に1度だけ訪問してホワイトペーパーをダウンロードしたユーザーがいたとしよう。この情報だけでは、その人が単なる情報収集をしているのか、具体的な製品比較をしようとしているのかは判断できない。だが、同じユーザーが2週間前にWebサイト上の見積もりツールを使って製品の簡易見積もりを行ったとしたら「購買意欲が高まっている。製品比較フェーズに入っている」と判断できる。
これが分かれば、その購買意欲をもう1段階先の製品選定フェーズへと高めるために最適だと思われるコンテンツをメールなどで自動的に案内する。このように従来、営業が担当していた見込み客の育成部分もシステムで自動化することがMAの主要な役割の1つ。後は営業が顧客とアポを取り、クロージングにかかれば高い確率で商談が成立するというわけだ。
一方スコアリングとは、その企業のマーケティングや営業活動にとっての、個々の見込み客の「重要度」を数値で表す取り組みだ。見込み客リストの中でもナーチャリングによって購買意欲が高まっている顧客のスコアが高くなることはもちろんだが、その人が決裁権のある役職に就いている人かどうかによってもスコアは変動する。
他にも、自社が取り扱う製品やサービスと見込み客が属している企業との親和性の高さもスコアリングに影響する。例えば、自社商品が特定業界向けなのに異業種の見込み客が関心を示している場合などでは、新規参入という可能性も捨てきれないが、ひやかしや勘違いの可能性もあるわけだ。
このように、さまざまな要素を加味して個々の見込み客をスコアリングできれば、「どの見込み客に対してより営業リソースを投入すべきか」が一目瞭然になる。企業のマーケティングや営業活動の効率化につながるだけでなく、これまでどんぶり勘定だったマーケティング活動の効果も数値によって可視化できるようになる。
ただし、スコアリングを正確かつ継続的に行うためには、膨大なデータが必要となる。しかも、個々の見込み客の属性や状態といった情報の鮮度を常に保ち、変化があるたびに迅速にスコアに反映させていくことが必要だ。これを人手で行うには自ずと限界があることは想像にたやすい。この点もまた、システムが自動的に行うMAの出番というわけだ。
これまではツールというよりは、MAという概念の説明だった。ではMAがツールとしてどのような機能を提供するのか。世の中にはMAを掲げるITツールは多く存在し、それぞれが得意分野を持ち、差別化を図っている。今回は入門編ということで、代表的な機能を簡単にまとめよう。
リードマネジメントは、見込み客のスコアや状態、属性情報などを管理する機能だ。Webサイトの会員登録やコンテンツダウンロード、イベントでの名刺交換など、新たに取得した見込み客に関する情報をデータベースに登録し、その情報に変化があるたびに更新する。
マーケティング担当者はこのデータベースを基に、見込み客全体の動向をさまざまな角度から分析するとともに、個々の見込み客に関する詳細な情報を個別に参照できる。
キャンペーンマネジメントは、見込み客を次のレベルへと引き上げるために、システムで自動実行するキャンペーン施策の設計や変更を行う機能だ。まず、見込み客データベースの中からキャンペーン対象者を抽出しリストを作成。次に、対象者リストに応じて自動的に実行するキャンペーン施策のフローを定義する。
多くの製品がITに詳しくないマーケターでも違和感なく操作できるよう、直感的なGUIを提供する。また、自動的に配信するメールの内容や、誘導先Webサイトのページといった「コンテンツ」を作成する機能を備えたMAツールもある。
マーケティング施策は一度実行すれば終わりではなく、実行した結果を分析し、その結果を基に次の施策の検討やブラッシュアップを行い、その実行結果を更に評価するといったPDCAサイクルを常に回し続けていくことが重要だ。
そのため、多くのMAツールが実行結果を評価するためのレポート機能や分析機能を備えている。さらに詳細な分析を行うために基幹システムやSFAなどと連携し、個々の施策当たりの売上や収益率、成約率などを事細かに可視化できる製品もある。
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