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新時代のデジタルワークプレイスを創る情報共有の在り方は?すご腕アナリスト市場予測(4/4 ページ)

» 2016年04月06日 10時00分 公開
[志賀 嘉津士ガートナー ジャパン]
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チャットやSNSの導入で企業の情報共有はどう変わるか

 以上述べてきたように、チャットは企業従業員個人個人の効率アップに寄与し、従業員間のエンゲージメントを強化することにより、チームワークをより堅固にする効用がある。また顧客との間で利用すればブランドの向上、満足度向上、ビジネス拡大につながる新しい道を開く。ツールの方も多様、多彩なサービスが続々登場しており、ビジネス用途に使いやすいサービスも数多い。

 しかし、実際はこの数年間、企業での採用率は必ずしも大きく伸びてきたわけではない。停滞していた理由は、企業の文化がまだコンシューマー系技術あるいはソーシャル系技術にうまく追従できていないからだ。

 似た例にテレビ会議の普及がなかなか進まないことが挙げられる。こちらは顔が撮られることもあり、家族なら良いが、知らない人とはムリという人が多いのだ。信頼関係が希薄なところにテレビ会議を導入しても利用は進まない。

 逆に信頼関係が確立している職場では、テレビ会議が有効に使われているケースが多いことが、調査によって明らかになっている。コラボレーションや協業には、その背後にどうしても信頼関係が必要になり、そこに便利な道具があるだけでは難しい。日本では、まだこの面での環境が整っていないようだ。この現状を示すのが図3だ。

企業におけるチャットの採用率 図2 企業におけるチャットの採用率(出典:ガートナー)

 図に見るように、チャットは古くからのメールやグループウェアなどの機能の普及にまだまだ及ばない。しかし今後は遠からず潮目が変わると考えられる。

 その理由の大きな1つは、ビジネスが単一組織の中だけで完結できるものではなくなってきていることだ。グローバル化するビジネスにおいては国や地域を超えての協業が当たり前のものになり、技術にも垣根がなくなってきている。しかも自動化の進展により、単純な仕事はどんどん機械に任せられるようになり、人間には従来よりも複雑で高度な仕事が担わされることになる。

 個人はもちろん1組織でも荷が重くなっていくと、メールやストック型の情報共有よりも迅速、高効率に情報交換、共有できるチャットやSNSを利用したコラボレーションが不可欠になるだろう。また、スマートフォンやタブレットなどの普及も相まって、仕事に物理的な場所は関係がなくなってきたことも1つの理由だ。こうした個人が利用するデバイスによる人と人、人と企業とのエンゲージメント、日本流に言い直すならチームワークが、今後はますます重要になってくる。

 大事なのはエンゲージメントをどう実現するかだが、LINEの普及が1つのきっかけとなり、現在は現場から徐々にさまざまな相手との信頼関係の醸成が始まっていると言って良いだろう。企業はあくまでセキュリティやガバナンスにこだわり、なかなかトップダウンでチャットやSNSに手を出そうとはしないが、実はシャドーITの形でじわじわと企業の中にも利用は広まっており、従業員はその効率性に目覚めている。

 デジタルネイティブと呼ばれる世代ほどこうした新技術の利用に抵抗感がないようだ。そしてその世代は、2018年には就労人口の5割を超える。彼らは、例えば2005年ごろにサムスンがチャットを導入してスピーディーなビジネス展開に結び付けて成功したように、新しいツールの積極的な活用によってこれまでのビジネス効率を大きく変えていく可能性がある。

 とはいえ、従来のストック型の情報共有技術がフロー型に取って代わられることはない。エンゲージメントには、従来型ITのように、いつでも参照できる記録の世界(モード1:グループウェアや文書管理システム、メール、Facebookなどのストック型)と、もっとカジュアルでスピーディで、ある意味使い捨てになってもよい情報流通の世界(モード2:チャットツールなどのフロー型)との両方(バイモーダル)が必要だからだ。

 モード1は、いわばITの幹である。その枝となるのがモード2だ。従来は幹だけがあったが、しっかりとした幹に多くの枝が繁茂することにより、ITの成長は促進され、たくさんの果実をつけるだろう。

 このように、デジタル技術によるエンゲージメントをベースにした仕事の環境のことを、ガートナーでは「デジタルワークプレイス」と呼んでいる。物理的な場所にかかわらず、どこでも職場にしてしまうことができるのが現代のデジタル技術。これを適切に利用し、デジタルワークプレイスを上手に構築・運用する企業が競争優位に立つ時代になりつつある。

 なお、デジタルワークプレイス実現を目指す場合のツール選びについて付言しておきたいことが2つある。

 1つは、自社に本当に向くのかどうかを慎重に調査することだ。チャットやSNSがどれだけ、どのように使われているか、シャドーITになっているツールがどれだけ存在しているかなどを把握することが肝心だ。

 シャドーITはセキュリティ面では問題があるとはいえ、それはデジタルワークプレイス実現のための芽でもある。むやみに敵視してむしりとるべきではない。その状態を逆手に取り、むしろ育てていく発想に切り替える必要があるだろう。その上で、もしも危険が大きいという判断になれば、コンシューマー系技術の導入は諦めて、エンタープライズ系の安心できる技術で代替することを考慮すれば良い。従来のIT部門の発想は減点主義となることが多かったが、これからのIT部門のミッションは「あら探し」から「売り上げ向上」を目指す方向へと変わらざるを得ない。

 もう1つは、自発的にチャットやSNSの利用が広がっている部門を中心に、部分最適、スモールサクセスを目指すことが勧められる。トップダウンで号令をかけて全体を引っ張る方法は向かない。会社としては、あくまで個人やチームの自主性を大事にし、現場からの改革を側面からサポートする姿勢で取り組むことが勧められる。

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