ネットワークカメラは画質(対象エリア=画角に密接に関連)、拡張性に優れる一方で、次のような特有の課題ポイントもある。
ネットワークカメラはLANおよびWANを利用するのが基本なので、業務用ネットワークの構成と同じように設計できる。従ってカメラ台数やLANセグメントの分け方により、シンプルにも複雑にもなりうる。LANセグメントはスイッチなどのコストが許せば簡単に増やせ、WANの利用も可能なので、遠隔拠点も含めて多地点へのカメラ設置が容易で柔軟性が高い。
その半面、カメラ台数が多いほど、また解像度が高いほど必要なネットワーク帯域が広がり、記録容量も大きくなるため、対応できるネットワークとストレージが必要になる。表1は、解像度によって異なる伝送速度(必要帯域)と記録容量、レコーダーのサイズの一例を示したものだ。4Kカメラシステムではかなりハイレベルなリソースが必要なことが分かる。
ただしこの表は現在主流の映像符号化方式である「H.264」を用いた場合の話。先端の映像規格はMPEG-2(HD画質で毎秒30フレームを描画可能)からH.264(4K映像で毎秒30フレームを描画可能)へと変わってきているが、その次の規格「H.265」(4K映像で毎秒60フレームを描画可能、8K映像にも対応)が2013年に策定され、2017〜18年にかけて続々と商品が投入される予定だ。
H.265は高い圧縮性能を持ち、動画コンテンツ配信の視聴者を対象にした調査ではH.264利用の場合の約半分のサイズのデータでも同程度の高画質映像になることが実証されている(詳しくは過去記事を参照)。同じ解像度の映像なら表よりもずっと少ない容量で同程度の映像が伝送・記録できることになる。
LANが利用できるなら、既に敷設済みのイントラネットが使えるはず――。確かにその通りだが、厳密な防犯監視にはお勧めできない。まず表1のようなネットワーク帯域を常時占有することになる。加えてフロー制御が効かないUDPプロトコルでの伝送がほとんどなので、ネットワーク機器の状態によっては業務のためのTCP通信を押しのけるように帯域を食いつぶしてしまう。
さらに複数の監視システムを利用する場合にはマルチキャストでの映像伝送を行うのでますますネットワークに負荷がかかる。そのため業務システムの通信に支障を来す可能性が高いのだ。日本防犯設備協会では防犯目的のカメラシステムは必ず業務ネットワークとは別に専用ネットワークを用意することを強く推奨しており、カメラベンダーも同意見だ。
企業内のLANでさえ帯域に課題があるのなら、インターネットならもっと問題になるはずだ。実際、厳密な監視システムではインターネット経由でのリアルタイム監視は行わないことが多い。しかしそこまでの監視品質を求めない場合も多いのもまた事実だ。
例えば「店舗での来客状況や接客状況を遠くの事務所から点検したい」とか「テレビ会議のように多数の遠隔拠点に向けて朝礼の映像を同時配信したい」というようなニーズには、多少品質が悪くてもインターネットを利用する方が低コストになる可能性がある。ただし、インターネットには常に盗聴のリスクがあり、データの暗号化は必須なので、インターネットVPNを利用するのがお勧めだ。
現在はクラウド型のネットワークカメラモニタリングサービス(SaaS)も実績を積んできており、多店舗展開の小売業やサービス業、物流倉庫業などの中堅・中小企業に特に人気があるようだ。ユーザーの店舗など多拠点に設置された複数のカメラ映像を、クラウドサービス側のモニターシステムと保管システムを利用してリアルタイムに閲覧・検索できる。
来店人数のカウントや動線密度(ヒートマップ)分析などのインテリジェント機能を利用できるサービスもある。ただし月額基本料金とカメラ台数あたりの利用料金がかかるため、あまり大規模な利用ではかえってコスト高になるかもしれない。
インターネットに接続しているネットワークカメラシステムでは、外部からの監視・管理のためにインターネットでIPアドレスを指定し、ID/パスワードを入力すると管理画面が表示できるようにしていることがある。そのID/パスワードを導入時初期値のままにしておいた場合や容易に推測できるパスワードを設定した場合には、第三者から盗聴されるリスクが高い。
そのようなカメラの映像を集めたWebサイトもあり、誰でも映像が閲覧できる状態になってしまっている。これが世界のどこからでも映像がのぞると話題になった。被写体に人物が映り込んだ場合にプライバシー問題を引き起こさないとも限らない。またセキュリティ意識が薄い企業と見なされると、攻撃者がターゲットとして関心を持つ可能性もある。不必要な公開は止め、また第三者に不正アクセスされやすい安易なパスワードは即刻、複雑で推測されにくいものに変更すべきだ。
ネットワークカメラシステムの長所の1つに無線LANを利用してモバイル端末でも映像閲覧できる点が挙げられよう。監視という役割を超え、これはさまざまな応用が考えられる。例えば次のような事例がある。
欧州で人気を博す爪切りや園芸用品を製造する諏訪田製作所では、工場の新設に伴い「オープンファクトリー化」を図り、見学者がタブレット端末で工場内のネットワークカメラの映像が見られる工場見学サービスをスタートした。見学者は手元端末の操作でカメラのズームなどの操作ができ、工場内の熟練職人の手技を間近に体感できる。これが評判を呼び、見学者の増加や併設ショールームでの売り上げも拡大したという。
この事例のような、情報公開やPR目的での映像公開だけでなく、例えば熟練技術者の作業を研修生が手元の端末でつぶさに観察できる社内研修といった学習用途など、アイデア次第で可能性が広がる。
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