サブスクリプション型のビジネスモデルのサービス基盤に、東芝を含む複数の国内大手企業がZuoraを採用。本サービスを日本企業がこぞって利用する理由は何か。
2016年10月13日、米Zuoraの日本法人であるZuora Japanは自社の「リレーションシップ・ビジネス・マネジメント(RBM)」サービスが東芝グループのIoTサービスの基盤に採用されたと発表した。ZuoraのいうRBMとは、サブスクリプション型ビジネスモデル運営のためのSaaSプラットフォームを指す。
東芝では、グループ内のIoT関連部門や人材を統合し、社内カンパニー「東芝インダストリアルICTソリューション社」を2015年に設立している。同社ではグループ全体のIoT基盤構築を進めており、IoTビジネスの利用形態や課金方式でも多様な要求に対応すべく整備しているところだという。この中の1つが「サブスクリプション型」の課金体系というわけだ。
ZuoraのRBMプラットフォームは、経済紙『Wall Street Jornal』、オンラインストレージサービスを提供するbox、エンタープライズ向けのクラウドサービスを展開するIBM、通信キャリア大手AT&T、IoTソリューションなどを開発するゼネラル・エレクトリック(GE)などに採用されている。B2Cでは旅行情報サービスを運営するTripAdvisorもユーザーだ。
Zuora Japanは2015年に設立、サービスの日本語化が完了した2016年4月から本格的な事業活動を開始しており、日本経済新聞社、コマツ、日本ユニシス、Freeeなどが既に導入企業に名を連ねている。三井情報、日立ソリューションズが販売パートナーになっており、決済ではGMOペイメントゲートウェイと提携している。ペイメントゲートウェイ(オンライン決済代行事業者)についてはこの他にも複数社と交渉を進めているという。
なぜ、サブスクリプション型ビジネスモデルのサービス基盤に、東芝を含む複数の大手企業がZuoraを採用しているのだろうか。
実は、サブスクリプション型ビジネスを運営する上で必要なプロセスを汎用(はんよう)的に取り扱えるものは、キャリア向けビリングシステムなどの業界特化のものを除くとほとんど存在しない。
汎用(はんよう)的なパッケージが今まで登場しなかったのは、同じサービス提供であっても、「サービスのどの部分を価値として収益化するモデルか」は企業ごとに異なる上に、請求・回収管理では、日割り計算への対応や多様な決済サービスとの連係も必要であり、あらゆる可能性に対応するものがなかったためだ。
Zuoraでは、サブスクリプション型ビジネスに必要なプロセスを次のように整理している。いずれも、従来のモノの取引を前提とした業務システムではカバーしにくく、バリエーションが多いのが特徴だ。
「Zuoraはグローバルで800社のさまざまな要求に対応し、アップグレードを繰り返してきた」と、ファウンダー兼CEOのTien Tzuo氏は、サービスが提供する選択肢の豊富さを強調する。
一般的なクラウドサービスを例に見れば分かるように、サブスクリプション型ではモノではなく、サービスに価値があり、対価が発生する。モノの値段ではない分、一般的に案件単価は安くなりがちだが、一方で定期的な課金が発生する。そして利用者がサービスを気に入れば、長く利用してもらえる可能性が高く「継続利用者が別のサービスを追加購入する」といったトランザクションが定期的に発生するのも、サブスクリプション型の特徴だ。
こうした特徴を持つ課金体系とその運営を、どのようなプロセスであっても簡単にSaaSで利用できる(=迅速に市場展開できる)点がZuoraの強みといえるだろう。
Tzuo氏はMGI Researchの調査(2016年)を基に「日本は世界第2位のサブスクリプション管理システム市場」(市場規模:6800億円、年平均成長率:55%)と評価、その大半はIoTソリューションが生み出すと見ている。
プロダクトを売る「モノづくり」からサービスや体験を提供する「コトづくり」への転換が語られるようになって久しい(マーケティング領域で「サービス・ドミナント・モデル」が提唱されたのは1990年代までさかのぼることができる)。加えて、ITとクラウド環境が進化した現在は、コトづくりに必要な投資は限りなくゼロに近いところまで下がっている。
それ故に今後は、より多くの既存の製品(モノ)が、IoTを含む新しい技術やアイデアを活用したソリューションによる価値提供(コト)にシフトしていくと考えられている。サブスクリプション型と聞くと、大手ITサービス企業だけのもののように受け止められがちだが、今後、ITを利用した事業開発、サービス開発を目指すならば理解しておくべきモデルの1つといえるだろう。
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