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ビジネス効果を高めるマルチクラウド運用のツボIT導入完全ガイド(1/3 ページ)

IT部門がまとめて仕入れ、業務部門が必要に合わせて活用できるようなマルチクラウド運用は今後ますます拡大していく。より効果的な運用管理の在り方を考えてみる。

» 2016年11月21日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

マルチクラウド運用で重要な3つのポイント

 そもそもクラウドサービスは、IT運用のパラダイムシフトにつながるものだ。業務効率化、コスト削減、安定稼働、ガバナンスの徹底、セキュリティの最適化が従来のIT運用管理の中心課題だったのに対し、現在および将来のITは、ビジネスの機敏性、売り上げの拡大、顧客満足度の向上などによる事業戦略の具現化がより重要になり、競争力に直接結び付く方向にシフトしていく。当然のこととして、それらに対応できるIT導入と運用管理が必要になり、運用管理の在り方も変わらざるを得ない。

 その結果、ITインフラには新サービスの迅速なデリバリーとオンデマンドでの柔軟な拡張や縮退に対応できることが求められている。このような背景の中で、新規ITインフラはクラウドサービスを前提として整えられているのが現在のトレンドである。数年前には、WebシステムはIaaS、データベースはオンプレミスといった使い分けがあったが現在は単独で存在するシステムはあまりない。

 では、従来の運用管理とマルチクラウド時代の運用管理では何がどのように変わるのだろうか。

複数クラウドの長所を生かした適材適所の活用がカギ

 1つ目の視点は、それぞれ特色のあるクラウドサービスをどのように生かすかだ。これからの企業ITでは、新規ビジネスのリーンスタートアップや絶え間ない改善がカギとなる。しかし低品質のサービスを拙速でスタートすることは許されない。サービスに見合った信頼性やセキュリティが不可欠である。さまざまな要件のサービス提供を考えると、1つのクラウドサービスだけで全てが最適に実現できる場合ばかりではない。クラウドサービスの特徴を知り、適材適所で使い分けることが、コスト最適に狙ったビジネス効果を生むための条件の1つになる。

 サービスベンダーが異なる場合はもちろんのこと、同一ベンダーでも複数のブランドのクラウドサービスを提供している場合がある。クラウドサービス選びで検討すべき主なポイントは次のようになる。

信頼性/可用性

 オンプレミスシステムやプライベートクラウドでは、可用性はシステム設計の際に厳密に検討されるはずだが、パブリッククラウドの場合はSLAで規定された稼働率が目安になる。大抵は99%を超える稼働率を約束し、それが守れなければ利用料金を割り引くのが一般的だ。ただし万が一のシステム停止で発生した被害が補填(ほてん)されるわけではない。そこはユーザー側で仮想サーバを冗長化やライブマイグレーションなどでカバーするか、短時間の停止なら許容できるシステムで使うかの二択になる。

 逆に言えば、運用の仕方で信頼性の担保は可能となり、ユーザーやSIerが責任を負うことになる。それを軽減するために、クラウドサービスの側であらかじめ用意されている高信頼性メニューを利用する方法もある。例えば、仮想サーバのインスタンスを2つワンセットで契約するというように、高額にはなるものの簡単に信頼性を上げられる選択肢だ。信頼性にこだわったエンタープライズ向けクラウドでは、稼働実績値が99.999%のものもある。

契約から利用開始までの時間

 パブリッククラウドでは、一般的な仮想サーバが数分程度で入手できるという魅力がある。開発業務やテストなどの場合は、必要になったらその場ですぐにサーバが立てられる方がいいに違いない。しかし、高信頼性のサービス環境を構築するには5営業日以上もかかる場合がある。

 一方でプライベートクラウドの場合は、物理環境構築と大きく変わらず、環境構築に数カ月を要することもある。だが、運用手順などをしっかりと決めて行う業務システムの本番環境の場合、計画的に構築するのが一般的なのでスケジュールを確保することは難しくない。

データセンターのロケーション

 AWSやAzureでは、国内データセンターだけで運用するプランが選択可能になっているが、サービスによっては利用するデータセンターの属する国を選べない場合がある。外国の法律の下で自社のデータが運用されることに懸念を抱く企業は多いようだ。

 また、国外への個人データの移転については今後規制される可能性もある。さらに個人情報保護に関する法規制の厳しい欧州、政治的な規制が加わる中国などでは、その地域で利用できるサービスを選ぶしかない場合もある。

 グローバルにビジネスを展開する企業ほど、マルチクラウド運用が避けられない。もちろんこれは用途によりけりで、法規制とは関わりのない業務や海外へのデータ移転の必要のない業務であればグローバルで利用しやすいサービスの方がいい。

 以上のような観点とコストを考え合わせて、契約すべきクラウドを適材適所で選択し、一元管理可能な部分は1つのマルチクラウド運用管理ツールで担当するようにすれば、安定運用とコスト最適化が両立できる。

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