NRAMは、NAND Flash技術を使ったSSDなどのPCやサーバ向け大容量メモリとは一線を画し、組み込み機器用途に使いやすい省電力、高速、高耐久性不揮発性メモリを目指す。こうした用途に従来用いられた不揮発性半導体メモリとNRAMの特徴を表1に示す。
表中の赤い文字が他よりも優れたスペックを示す。まず、記憶容量が従来の倍から将来的には64倍にも増えることが期待される。しかも、書き込み時間は200nsと比較的高速、書き込み電圧も比較的低い。
また、書き換え回数は100million=10の8乗=1億回と、NOR Flashの1000倍のスペックだ。さらにブロックアクセスではなくビットアクセスが可能でランダムな書き込みが高速になるとも見込まれる。
他のメモリよりも高温での使用も可能なところにも注目したい。FRAMも優れた特徴を持つが、微細化が困難であり、さらなる大容量化が期待できないのが弱点だ。
これまでの不揮発性半導体メモリの弱点をカバーするために、既存技術に共通した電荷の蓄積によるデータ記録、保持の仕組みから考え直した技術が幾つか登場した。それらが次世代不揮発性メモリ技術と呼ばれるものだ。
共通するのはチップ材料の「相変化」「状態変化」を利用して、あまり電力を使わずに高速な読み書きが行えることだ。MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、ReRAM(Resistive Random Access Memory)、CBRAM(Conductive Bridge RAM)、PCRAM(Phase Change RAM)の他、まだ仕様が明らかではないがインテルとマイクロンが開発を公表した3D Xpointメモリなどがある。
しかし、コンベンショナルなMRAMは消費電力が大きいという課題がある。また、STT-MRAM(スピントルクMRAM)は内部の材質の劣化による寿命に課題がある上、磁力の影響を受けやすい欠点がある。他は結晶の特性を利用するためにあまり書き換え可能回数が多くできず、書き込みも比較的低速、大容量化も難しいという弱みがある。
NRAMは、従来型半導体不揮発性メモリの弱点に加え、他の次世代不揮発性メモリの課題をもカバーし、将来的に大容量化が見込める技術として注目される。
NRAMの動作原理で画期的なのは、記憶を保持するために電荷の蓄積ではなく、結晶の状態変化でもなく、新素材であるCNTの特性を活用していることだ。
CNTは、導電性に優れ、非常に耐久性が高く、強靭(きょうじん)でありながら柔軟性に富む物質だ。CNTは、1本1本がナノサイズの微細なものだが、多数集めると絡み合い、層状の塊を作る。専門家によると、それはちょうど住宅の断熱材などに使われているグラスウールの塊のように、間に空気を含んでいわばふかふかのマットレスのようになる。それを微小なケースに収め、電極で挟む。
図1はその状態の模式図だ(実際にはCNTがこのようにバラバラな状態なわけではない)。下から上の電極方向に電圧を加えると、静電気力によりCNTの塊がたわみ、下の層に偏って接触すると、抵抗が弱まり、上から下に電圧が加わるとCNT振動が強まり、たわみが元に戻って抵抗が大きくなる。電圧が加わらなければ、たわみの状態はそのまま維持される。この抵抗値の大小を0と1とに対応させるというイメージだ。
この構造は、一般的なCMOS LSIの構造に単純に追加できる。図2のように一般的なトランジスタ構造はそのまま、CNTのファブリックをソース配線の下に追加できる。その上の配線や、その下部の構造や配線は一切変更しなくて良い。
他の不揮発性メモリではFlashのようにトランジスタ部分を特殊に作る必要があったり、DRAMのようにキャパシタ層が深かったり、MRAMのように何層もの複雑な成膜を必要としたりすることがないという。富士通セミコンダクターでは同社が持つ既存の生産プロセスにCNTファブリック部分を追加して最初の製品を生産する予定だ。
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